第27話 強盗への強襲

 空から身一つで飛び降りた馬鹿に驚きながらも、すぐにホルダーに映すレンナであったが、自身の迅速な行動力に思わず顔をしかめた。


 ガッシャーン


 落下事故を気にするつもりはない。

 まともな人間なら、悲惨な自体が起きるが、ガゼットはまともな人間ではないので、そんなことは起こらない――代わりに、悲惨な事態を起こしていた。


 堅牢な防御力を誇っていた馬車の上にガゼットは落ちると、あらゆる魔法に耐えきってた馬車をぶっ壊し、そのまま飄々とした様子で立ち上がったのである。


「どーすんのこれ?」


 もはや、誰の味方かもわからぬ状態。

『いや、どっちが困ってると思う?』といった質問の回答なのかもしれない。

 見方によっては、襲う側が立てこもられて困っていると言えなくもないから――か?

 状況を加速させたガゼットに向けて、盗賊たちは大量の魔法を撃ち放つ。


「ガゼット!?」


 大丈夫だと思ってはいるが、心の奥底に生まれる不安に、レンナは心配をこぼし、そして地表からは声が聞こえた。


「バスターチャージ」


 大量に降り注ぐ魔法――火や風、水だけでなく雷といった、あまりにもバリエーション豊かな攻撃から、とりあえず相手がただの盗賊ではないことはわかる。

 もっとも、そんな攻撃もガゼットの前では無力なのだが。


 ――なにあれ?

 ――剣に魔法が吸われた?

 ――いや、まずこっから落ちて大丈夫なのがおかしいだろ。


 ガゼットの様子をみていた視聴者が異常な状況にツッコミ、レンナも思わず苦笑してしまう。


「あいつが持ってるのは伝説の剣かなんかなの?」


 大量に飛んでいる魔法の大半はガゼットの周り飛んでいき、被害を広げているだけであるが、ガゼットに向けて飛んでいるのもある。

 そんな中、ガゼットはバスターソードを地面に突き刺して盾代わりにしており、魔法が剣に当たるたびに、赤く発光して吸収していた。


「やめぇ!」


 ガゼットの襲来に、大男が声を荒らげると、攻撃がぴたりと止む。


「うわぁ……」


 ――これ、どういう状況?

 ――盗賊?

 ――盗賊がこんなお行儀いいわけないだろ!


 統率がバッチリと取れた盗賊らしき敵に、レンナは見捨てるべきだったと思わず反省する。

 ガゼットの言った通り、本当にどちらが敵かわからない。

 そうやって、悩み始めるレンナの下では再度指示が始まっていた。


「うてぇ!」


 再度始まる攻撃――しかし、先ほどとは毛色が違う攻撃が始まる。


 ひゅぅぅ――ドゴーン


「ひゃぁぁぁ!」


 高火力で馬車に風穴を開けようとする魔法から、広範囲の爆発によって攻撃する魔法に変えたらしい。

 実際、ガゼットの剣が局地攻撃には想像以上の防御力を発揮したため、広範囲で押し切るつもりのようだ。


「あれが、本命!?」


 火と可燃物と風を混ぜ合わせた爆発魔法。

 技術力がそこらの冒険者より遥か上の次元にいっているわけだが、この盗賊……暫定盗賊団は魔法のみに特化しているわけではないらしい。


 ――大丈夫か?

 ――ガゼット、後ろ後ろ!

 ――あの子、早いな!


 爆発に紛れて、それどころか爆風を利用して、爆速で走る少女が盾の後ろに回り込むと、そのまま、馬車の中へと飛び込もうとして――足を止めた。


 馬車を目指してやってきた少女であったが、そんな少女をガゼットが見つめる。

 それだけで――ただそれだけで少女は馬車の中へ意識を移す余裕はなくなっていた。


「やっぱ、誰かいるのね」


 ガゼットが馬車を壊したことで、上空から金色のナニかは見えていたが、少女がやってきたことで、箱の中にいた金髪の誰かは身じろぎをしているように見える。

 爆風に乗ってきた少女の目的は多分、馬車の中にいる金髪の人であろう。

 しかしながら、ガゼットに睨まれながら、誘拐する気力はなかったようだ。


(そりゃそうか)


 まともに戦っても勝てるかわからない相手に、ハンデを背負ってまでは戦えない。


 ――おっ?

 ――攻撃をやめた?

 ――あの子とガゼットの一対一か……少女ちゃん逃げて!


 うるさかった爆発音が鳴り止み、辺り一体が静かになる。

 だが、最初に動き出したのは少女でもガゼットでもなく、大男の号令から始まった。


「てぇ!」


 魔法による攻撃がバスターソードに向かって飛んでいく。


「これって……」


 ――下手くそか?

 ――全部、剣に吸収されてるじゃん

 ――わざとでは?


 先ほどよりも魔法の量が減った代わりに、全てがバスターソードへと収束する。


「これは、狙ってるわね」


 その上で、目的は支援と見るべきだろう。

 出鱈目に魔法を飛ばせば、少女や馬車の中にまで被害を及ぼしかねない。

 だからこそ、優秀な魔道士のみが魔法を放ち、バスターソードを釘付けにしておくつもりのようだ。


「つまり、素手と素手の――」


 ――二刀流か!

 ――アサシンだ! 素手?

 ――素手(ナイフ)


「うるさい!」


 ちょうど二本のナイフを取り出した少女が素手のガゼットと向かい合う。


 ――賭けるか? ガゼットが勝つ

 ――女の子に勝ってほしい

 ――敗けたら、1000ディール払うぜ。ガゼットが勝つ!


「賭けるなら、ガゼットよねぇ」


 少女とガゼットが戦って、少女が勝つ未来は見えない。

 だが――


「それにしても、あいつって剣がないとどうなんだろ?」


 ガゼット自身も弱くはないが、基本的に彼の強さは剣にある――今、魔法を対処しているのも本人というよりは剣である。

 素手の実力を見る機会に、外れた魔法が飛んでこない位置に気をつけながら、レンナ配信を続けるのであった。

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