第25話 お空の飛び方
「昼までに着くかしらね?」
レンナはガゼットを背もたれにしながら、ぼやくように聞く。
ペガサスを破格の1ディールで貸し出させ、許可証とレンタル鞍には正規の値段を支払った二人は次の街へと向かう。
(しかし、快適ねぇ)
馬車に乗った経験こそあれど、直近の乗り物はガゼットとかいう、
それに比べれば、ペガサスのなんと快適なことか。
座りやすく、足場もしっかりとした鞍に、落ちる不安とは縁のない人力背もたれ。
ガゼットに担がれるのは悲惨であるが、ガゼットに支えてもらうのは安心感がある。
「テトラス。もうちょっと、スピード上げれる?」
Heeeen
名前を呼ぶレンナに、ペガサスのひと鳴きすると、
先ほどの柔らかい走りとは違い、振動はガタガタときて、曲がるたびに遠心力が襲いかかる。
そうしているうちに、ペガサスはさらに高く嘶いた。
Meheeeeen
平地に出たペガサスは白い羽をバタバタと羽ばたかせ、さらに早く駆ける。
「ひゃぁぁ!」
向かい風を全身に受け、吹き飛びそうになるも、ガゼットがいれば問題ない。
ペガサスが羽をバサバサと羽ばたかせていき――レンナの体に疲労がズンとのしかかった。
「ちょっ、ちょっと」
『待って』とお願いしようとした口がうまく回らない。
体力が急にゴリゴリと奪い取られ、脱力感にレンナはぐらりと倒れそうになる。
落ちる前にガゼットが引き寄せてくれるが、襲いくる疲労感は変わらない。
「なんか、しんどいんだけど」
「そりゃな……」
彼女のしんどさが増せば増すほど、ペガサスの羽は綺麗に輝く。
「これってさ。どうにかならない?」
体内の魔力が無理やり吸われていき、疲労
「うーん、しんどい?」
体力馬鹿に聞いたアホな自分にくらくらとしながら、再度お願いをする。
「頼むから、止め――」
すでにペガサスはかなりのスピードで走っており、意識が
「わかったよ」
クラクラとしながらのお願いにガゼットは頷く。
そして、なぜかペガサスを止めることはなく、それどころかレンナの服の中に手を突っ込んできた。
「ひゃぁ、何するの!?」
「だって、君が……」
いったい、私がナニをいったというのか?
謎の言い訳をしながら、服の中に手を潜り込ませると、へその下あたりで力強く押してくる。
「ひゃぁ」
セクハラ親父ですらもうちょっと躊躇う一線を平気で超えた蛮行をおこなうと、ガゼットは思いっきり魔力を注ぎ始めた。
「んっ、あぁぁああああ、このっ、ばかああ」
体内に異物を押し込まれるような得体の知れない感触。
「あんたいったいなんのつもりよ!」
「お前が言ったんだろ?」
「言ってない!」
誰がこんな屈辱的なことを頼むと言うのか。
苛立ちに任せて睨みつけるレンナだが――それ以上の気迫でガゼットが見つめ返す。
「絶対服従って言ったよな?」
本気ではないだろうが、うっすらと苛立ちの籠もったセクハラに、レンナは思わず戸惑う。
すでに高速で走るペガサスの上から放り捨てられたら――
「わかった……けど……んっ、ひゃぁぁん。なんで、こんなことするのよ!」
そもそも、絶対服従の約束ってこんなところで使われる約束だったのか疑問に思うが、そこについて真面目に指摘できるほど考えがまとまらない。
下腹部に注がれた魔力は体を通してペガサスへと吸われていき、その感覚はまるでお漏らししているようなもの。
羞恥心と屈辱感がレンナをめちゃくちゃに襲う。
「直接は受け取らないみたいだから、仕方ないだろ」
「な、何が?」
「魔力」
そう言って、ガゼットはペガサスの体を左手でペシペシと叩いて見せる。
「それって……」
つまるところ、ペガサスは空を飛ぶ際に乗り手の魔力を奪い取っていく。
しかしながら、あくまでペガサスは自身が必要な量を奪うのであって、渡されたところで受け取らない。
それでいて、他者の意に介さず魔力を奪うため――つまるところ、レンナ越しに魔力を注いで垂れ流さなければならないのであった。
実際ガゼットから魔力を供給されてから、羞恥心は燃え上がるほどに激しいが、反面に肉体のだるさは解消されてきている。
そういえば、最初にお願いした時に『しんどい?』と聞き返されたが、
だとしても――
「服の上とからじゃダメだったの?」
顔から火が出そうになるほどの羞恥心を押し殺して、声を上擦らせながらお願いする。
「こう?」
服の中に潜り込ませていた手を抜くと、次は抱きしめるように腕を体に回す。
「それは、ちょっと……まぁそんな……」
無遠慮に抱きしめてくるガゼットに思うところはあるが、それでも我慢しようと試みて……襲いくる疲労に押し黙る。
あくまで肉体からとっているらしく、疲労は再び増してくる。
正直にいえば、飛ぼうとするのをやめてもらいたいのだが、ガゼットがやめさせてくれる気配もなければ、レンナ自身がやめさせる余裕もない。
「これで頼めばいいんでしょ! これで!」
こんな恥ずかしいことをするだなんて――
(いや、すでにこれ以上のことを……)
羞恥のあまり、連鎖的に恥ずかしい記憶が蘇ってしまい、レンナは耳の端まで赤くなってしまう。
もっとも、この平地でそれを確認する人がいなければ、それを指摘する人もいないのが救いだろうか。
いくら魔力を注がれたところで、疲労回復こそならないが、それでもごっそりと体力が奪われることはなくなり、だんだんと感触に慣れたころ、ペガサスが大きく嘶く。
Meheeeen
爆走しているペガサスの羽は上手く風に乗ると、空へと飛び立つのであった。
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