第20話 ギルドあと

「なんで……なんで」


 ムカつく、ムカつく――全てがムカつく。


「なんで、言い返さないのよ!」


 ガゼットの力があれば簡単にわからせることは可能だ。

 そして――それを躊躇うような男とは思っていなかった。


 正直にいって、あの場で暴れ出されても困るのだが、それはそれとして、ガゼットが馬鹿にされる状況も1000イェンぽっちで引き下がることも、全てが納得いかない。


「どうして!」

「そりゃ……な……」


 どこか困った様子を見せるガゼットにレンナもだんだんと冷静になっていく。

 あったばかりの小娘にパーティを組んだだけで説教されたくないだろう。


 ――だが、なんて言えばいいのか?


「なんで……よ」


 この世に不条理があると知っているのと、それが受け入れられるかでは話が違う。

 苛立ちに唇を噛み締めるレンナの頭をガゼットが優しくポンと叩く。


「なぁ、知ってるか? お金は使うと無くなるんだぞ」

「そうね」

(……ん? 馬鹿にされてる?)


 子供をあやすような口調で放たれた、馬鹿丸出しの内容に何も考えずに相槌を打ったレンナは正気に返る。


「つまり――しょうがないんだ」

「どこがよ!?」


 この男の頭には常識がないのか、それとも会話能力が欠けているのか?

 全ての事情を知っていて今の説明で納得する人はいない……いないよね?


「あのね? あんなのは証拠でもなんでもないの! わかる? おかしいでしょ!」

「まぁ……」


 プリプリと怒り始めるレンナの頭を、ガゼットは困った表情を浮かべながらでていく。


「あのな。だから、しょうがないんだよ。だってそうだろ? 金は払えばなくなる。誰だって金を払いたくはないんだ」

「だからと言って、あんな理屈通るはずがないでしょ!」

「ん? 逆じゃない? だからこそ、なんとしてでもいちゃもんを付けるんじゃないか」

「いったい何を……もしかして、いつもこんなことをされてるの?」

「そうだよ」

「……はっ?」


 とてもじゃないが正気ではない価値基準に、レンナは恐る恐る質問する。


「たと……えば?」

「んー? ギガントオークの討伐依頼を受けた時だと、ブラッド・ブレイダーが倒した討伐にただ乗りをしてるだけで証拠にならないからって言われたなぁ。その時は5000イェンになったかな?」

「5000イェン!? おかしいでしょ?」


 相場で言えば低くて1000ディール――イェンで言えば15万以上が妥当であろう。


「誰よ! そのブラッド何ちゃらって!」


 ただ乗りとは一体何なのか?

 明らかに、ガゼットの手柄を横取りした誰かが悪いだろうとレンナが吠える。


「さぁ? ここら辺で噂の血塗れの剣士らしいよ」

「そんな意味のわからない理由で――いや……」


 ふと正体に思い当たったレンナがガゼットに質問する。


「あなたが一人でギガントオークを倒したのはあってる?」

「もちろん!」

「その時――血塗れになったりした?」

「そりゃな」

「ブラッド・ブレイダーってもしかしなくてもあなたよね?」

「ははっ、かもしれんな」


 笑って見せるガゼットにレンナの頭はさらにズキズキと痛む。


「なんで、なんでよ」


 もはや無茶苦茶だ。

 狂った理由で支払いを減らされて、それを朗らかに笑って見せるガゼットをレンナは理解できない。


「むしろ、なんでギルドのそんな蛮行を許しておいて、私には――あっ?」

「なに?」

「いやっ……」


 ――なんで私に50万も請求した?


 その答えは『そもそも請求をしていない』が答えであった。


 金を払えと言う割に、いくら払えと言ったのは聞いた覚えがない。


(もしかしてこいつ……金にはうるさいくせに、額には興味がないというの!?)

「なにそれ、意味わかんない。あんたは……それで、いいの?」

「貰えるならいくらでも欲しいけど、でもまぁ普通こんぐらいじゃない?」

「そんなわけ――」


 あるはずない。ゴブリン一匹1イェン? あり得ない。

 相場的に一匹分に200イェンで計算したのだろうか?

 どちらにしろ、あり得ないことだ――本来なら。


(そういう……こと?)


 本来なら、こんなのでは生活が成り立たず、いくらケチなギルドであっても、これほどまでに杜撰ずさんな運営が許されるとは思わない。

 それに、それほどまでに酷いギルドであれば、ル……ルなんちゃらは普通ガゼットの味方をするはずである。


 つまるところ、圧倒的無理解。


 ギルドやその周りの面子はガゼットが本気で不正をしていると思っているし、当のガゼットは不正の糾弾をギルドの節約と受け取ってしまっていた。


(なにこれ……どうすればいいの?)


 イライラは募るが、どうすればいいか途方に暮れるレンナは対処方法に思い当たる。


「ねぇ……都会に、リヴェルハイムに行きたい」


 ギルドの対応は許せない。だが、理解は出来てしまう。

 であればこそ、自身の配信データを見せつければいい。

 配信はある程度条件が揃えばどこでも見られるが、保存したデータは取りに行かなきゃ見られない。


(そしたら……そしたら、わかるはず。ガゼットがそんな卑怯な手を打つまでもないって)


 もちろん、腐りきったギルドは確かに存在する。だが、多分今回はそうではないだろう……ないはずだ。


「都会……行ってみたいなぁ」

「ほんとぉ!?」


 なんだかんだで、田舎にいる辺り、こだわりがあるのかと思っていたため、乗り気なガゼットにレンナは安堵する。


「あぁ、パンを食べてみたい!」

「パン?」

「その、美味しいんだろ?」


 ガゼットの質問にレンナは目を丸くして、そしてニッコリと笑う。


「えぇ、教えてあげる! ふわふわでもっちもちの……最高のパンがあるんだから!」


 そうして、二人は次に都会を目指すのであった。


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 ここまで読んでくださりありがとうございました。


 ダンジョン配信は伸びる! と聞いてやってみたのですが……甘くなかったですね。

 思ったより伸びない。そしてなにより、毎日更新に限界が来ました。


 これからは毎週土曜日更新を目処に頑張ってみたいと思います。

 応援してくださる方は、是非いいね、感想、レビュー等をお願いします。

 では、頑張って執筆してきます!

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