第19話 発覚した不正
「早く、払え」
いきなりやってきた学者風味の男がガゼットを糾弾するも、当の本人は相変わらず無視を続けて受付を追い詰めていく。
「いつまで現実逃避を続けるのですか? 1000体倒したのはあなた、嘘ですね」
「えっと、なにを根拠に?」
他者認識機能が死んでいるガゼットに変わって、新しくやってきた男にレンナが代わりに質問する。
「これまでの異常な討伐件数。不思議に思って調べてたんですよ。そしたら、あることがわかりました!」
そう言って学者男が採血球と血の入った小瓶を取り出し、小瓶の中に粉を入れていく。
「ここにある一匹のゴブリンの血にこれを入れて、採血球を起動すると……」
小瓶の中の血が採血球に引き寄せられて、血を取り込んだそれをデータ解析装置上に載せる。
「マジか、そんな裏技が……」
結果を見たリゲルが驚く――なんと、ゴブリンが二匹と表示されていた。
「君は、これを利用して、数を水増ししたんだろ!」
「すみません。まず、その粉ってなんですか?」
「増血薬さ! これなら、そこら辺で売っているし。まさしく、嘘の証拠だ!」
「いやでも、その瓶の中にゴブリン2体分の血を事前に入れていたとか……」
「僕がそんな卑怯な真似をするとでも?」
レンナの指摘に白衣に男が激昂する。
実際、主張自体は本当で先ほどの小瓶の中には一体分の血しかなく、増血薬を入れることで、討伐数の水増しできた。
これは本当であり――そしてかなりの誤解がある。
まず、最初に増血薬とは血をかけることで、全く同じ血となる性質を持った薬を指す。
そして、レンナの目の前にいる男が使った増血薬は過去に増血薬と呼ばれていた別の薬であったのだ。
この薬は血の複製力が低く、血を失った人に使用すると拒否反応が出る確率がそれなりにあったため、今では流通しておらず、古いギルドの倉庫内で緊急用の医療品として、過去と同じ通称のまま眠っていたのであった。
さらにはここのデータ解析装置自体も古く、この程度で誤認識をしてしまう
これが真実。
この場で誰一人たどり着くことのないモノであり、存在しない事実であった。
「だとしても、それのどこが証明なんです?」
とりあえず不正をする方法があるのは証明できたが、それはガゼットが不正に利用した証拠にはならない。
「嬢ちゃん。こんな奴のこと庇う必要はねぇぞ」
「いや、無茶苦茶言ってるじゃないですか!」
(えっ? 私がおかしいのか?)
リゲルとか言った男が、やれやれと言った様子を見せ、レンナの頭は混乱してしまう。
「で? 払え!」
(いや、その態度もどうかと思うけど)
これまでの話に、なんの興味を見せなかったガゼットはまっすぐに受付だけを見て金の要求をしていく。
「この解析装置によれば、あんたは五回に分けて採血をした。せいぜい多く見積もって五匹と言ったところか? どうだ? 違うか?」
「1003匹の討伐に対して、1000匹分で許してやる。さっさと払え!」
学者風味の問いに無視した様子で返事をしながらも、相変わらず受付へ請求を続ける。
「では、まぁ……」
球のついた板でカチカチと手遊びをするように受付の女性は指を動かすと、一枚の紙――千イェンを出す。
「依頼報酬はこのようになります」
「はぁ?」
結局わけのわからないまま話が進められて、適当に渡されたお金にレンナの苛立ちは限界に達する。
「今のどこが証明になるのよ! それに――」
我慢し切れずに思わず怒鳴ったレンナだが、ガゼットはその千イェンを掴むと振り返って歩き出す。
「が、ガゼッ……ト?」
お金を持って歩き始めたガゼットに声をかけると、数歩先に進んでからレンナの方を見つめたあと、視線を下の方にずらして思い出したかのように声を上げる。
「そういえば……」
レンナの手に握られた紙切れ――パーティ申請書を見て、ガゼットは椅子に座り始めた。
「待ちなさい!」
座ったガゼットの腕をレンナが引っ張る。
抵抗されるかと警戒したレンナだったが、思った以上より簡単に――ではなく、こちらの意図に沿って立ち上がってくれた。
「なに?」
「あんたはあれでいいの?」
「……ん?」
あれほどまでに『払え』と圧をかけていた癖に、あんな
しかしながら、ガゼットが本気で気にしていない様子であるため、理解できないがどうしようもない。
「出るわよ……」
「えっ?」
「出るわよ!!」
有無も言わさず引っ張ると、出口に向かってレンナはガゼットを引っ張っていく。
「おいおい嬢ちゃん、なんで怒ってるんだい」
声をかけてくるリゲルに、レンナは振り返るとギロリと睨みつける。
そんなの――
「ガゼットが怒らないからでしょ!」
吐き捨てるように言い捨てると、バンッと音を立てて二人はギルドから出ていく。
「なぁ……」
「なに?」
ギルドから出ても引っ張られ続けているガゼットがレンナに声をかける。
「パーティの申請を出さないのか?」
「……こんなところで? 出すわけないでしょ!」
――こいつは! もう、本当にこいつは!
プンプンと怒りながら歩くレンナに引かれて、二人は歩いていくのであった。
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