第18話 ギルドでの精算

 ギィィイとうるさい音を立てて扉が開く。


「思ったより汚いところね」


 都会を意識した田舎といった印象がこの土地にはあるが、このギルドは古い建物を改装せず運用しているようであり、田舎の寂れた感じが強い。


「初めてか?」

「うん、まぁね」


 本来であれば最初にこの場所に来るものだが、行くつもりのダンジョンがアビスフェルシアであり、余計な詮索を避けるためにも、顔を出していなかったのだ。


「じゃあ、パーティの申請しといて」

「あなたは?」

「別の用事」


 そう言って、ガゼットは採血球を取り出すと受付に向かう。


「……やり方知らないんだけど?」

「俺も知らん」


 ――でしょうね。


 一つしか無い受付がない場所で、なぜか分担することになったレンナはパーティ申請のための用紙を取って、近くの席に座るとガゼットを待つ。


「これ」


 誰もいない受付で、採血球を転がしながらガゼットが呟くと、奥でバタバタと音が響く。


「はーい。今行きます」


 受付の奥から声が響くと同時に、ギルドのドアが開かれて、三人の男が入ってくる。


「おぉ?」

(うわぁ、嫌な予感する)


 やってきた三人のうち、先頭の男がレンナの顔を見て喜び、思わず警戒心を上げていく。


「なんだ嬢ちゃん。ここじゃ初めて見る顔だな」

「初めまして」

「俺の名前はリゲル、俺が案内してやろうか?」

「すみません。間に合ってます」

「おいおい……」


 話しかけようとしてくる男をニコッと微笑み返した後、ツレない様子で、ホルダーに目を向けて無視を始める。

 レンナの態度に、少しばかり名残惜しそうに見せるも、声をかけてきた男は受付の元へ、もう一人は依頼掲示板へ、そして最後の男は目の前に座ってきた。


「何してるんですか? パーティの申請? 書き方を教えましょうか?」

「大丈夫ですよ」


 先ほどのオラついた系とは違い、優しそうといった感じの様子の男が声をかけてくるが、どちらにしろ邪魔でしかない。

 さっさと話を切り上げると、レンナはガゼットに目をやる。


(あぁ、なんか本当に嫌な予感)


 最初に自分へと話しかけた男が、次はガゼットに絡んでおり、外しようのない予想にレンナはひっそりとため息をつくのであった。



「おいおい、女の子が待ってるだろ。邪魔だよ、お前!」


 とんでもなく馬鹿な理由でガゼットをどかそうとする男だが、とんでもなさではガゼットも負けていない。

 勝ってどうするといった話ではあるが、かけられた声に見向きもせず、受付へと問いかけ続ける。


「払えないとはどういうことだ!」

「諦めろって!」


 受付の声がイマイチ聞こえないが、すでに受付側と問題を起こしていたガゼットに、馬鹿が横槍を入れているらしい。


「要件はちゃんと満たしているはずだが?」

「男がぐちぐち文句言うなよ!」

(馬鹿は横から口を挟むな――よ!)


 見て見ぬ振りをするかどうかで一瞬悩むが、どんな面倒ごとも一緒に背負うのがパーティと言える――正確に言えば、ガゼット一人で物事が好転すると思えなかった。


 決意を固めて立ち上がると、レンナの前に座った男が腕を掴んで、首をふってくる。


「やめといた方がいいですよ」


 くだらない戯言に付き合えないレンナは一瞬どうするか悩むも穏便に返す。


「ぜひ考慮こうりょさせていただきますね」


 アドバイスとやらに笑顔を浮かべながら、腕を引きがしてコンマ0秒の考慮の末に、ガゼットの会話の中へ割って入る。


「何があったんですか?」

「信じられないだろ? こいつ、嘘でごねてるんだぜ!」

「依頼内容は果たしたはずだ。報酬ほうしゅうを払え」

「あのですね……」


 馬鹿な男――リゲルと名乗った男に、人の話を全く聞かないガゼット。

 そして、どこか疲れている受付の混沌こんとんとした中で、レンナはどうにか話を整理する。


「えっと、嘘とはどういうな意味でしょうか?」


 受付に聞いたレンナだが、聞かれてもないリゲルが口を挟む。


「こいつの依頼見てみろよ! ゴブリン1000匹討伐――昨日受けた依頼なんだぜ?」

「……どこが嘘なの?」


 今日受けた依頼であれば、レンナも嘘だとわかるが、昨日であれば至極当然のこと。


「あのなぁ。昨日今日でどうやって1000匹も退治できるんだよ!」

「えっ?」

(た、確かに!)


 冷静に考えれば、そんなこと普通の人にはできない。一体何者なんだ?


 ……でもまぁ、ガゼットだし。


「えっと、それでも採血球にはちゃんと1000匹分……がなくても、倒した分の依頼料じゃダメなんです?」

「そうだな。で? 実際、何匹倒したんだ? えぇ?」


 揶揄からかった様子で、リゲルが採血球に手を伸ばすが、それよりも早くガゼットが奪うと、採血球内部のデータ解析装置に乗せる。


「1003体……ちゃんと倒してるだろ? なぜ払えない」


 リゲルの行動に対処こそしているが、ガゼットの視線は受付のみに向いており、ただひたすら受付を糾弾していく。


 ――ガチャッ


「いい加減、覚悟したらいかがですか?」

「……誰?」


 受付の隣にあるドアが開き、白衣の男――クイッとメガネをあげて学者っぽく見える人の登場にレンナは少しげんなりする。


「ふふ、とうとう見つけましたよ! 不正の証拠を!」

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