第11話 ダンジョン配信とは
「配信……ってなんだ?」
バクバクむしゃむしゃと肉を食べながら、真剣な様子でガゼットが聞く。
「ダンジョンの中の様子を撮ったりして、お金をもらうことよ。基本的にお布施って言われるわ」
「金払うやつがいるのか……聞いたことなかったな」
聞かない理由の多くに、そもそもガゼットという人間は興味のない話を聞かないといった側面があるのだが、幸か不幸か配信については本当に聞いたことがなかった。
「増えてきたのは最近だからね~」
「そもそも、なんで配信とやらが始まったんだ?」
金と、金くれる人に対してなら人並みには興味を覚えるガゼットが聞く。
「配信が最初に行われた理由は、高難易度ダンジョンで開拓者の事故死が多発したからよ」
「へぇ~、なんで?」
「そう、それ! パーティが全滅することが多かったから、なんで事故死が起きたのか! それが分からなかったのよ」
「ふーん」
あまりピンとこない様子で、ガゼットは
「それを知るために【ホルダー】を作り、この空間記録媒体をもって、ダンジョンの開拓が進んだのよ」
空間記録媒体――通称、ホルダー
空間情報を別次元に記録する媒体であり、たとえその場で開拓者が全滅しても、その記録は別次元に保管されているため、あとで内容の確認が可能となる。
結果、多数の
「それ、魔道具とちょっと違うよね?」
目を細めて聞くガゼットに、レンナは少し驚く。
「よくわかるね。私には差がわかんないけど、これは魔道士が作った魔道具じゃなくて、教会が作った神具なのよ」
「教会? 教会がなんか関係あるのか?」
「このシステムを作ったのが教会なのよ。空間を手元で記録するならともかく、別次元――彼ら
全滅が前提であった以上、手元に保存されても意味がない。だからこそ、特殊な構成にする必要があり、そこに教会が介入したのであった。
それはそれとして、
「それで……配信か?」
「ちょっと違うわ。これはまだ記録の段階。最初は次の攻略時にはコツがわかるようになっただけよ」
「へぇ……? まぁいいや。それでどうして配信に?」
ガゼットにはあまりピンとこない。
事前に
常識とのズレに疑問が浮かびながらも、配信と関係ない部分はあっさりと流す。
「魔王と呼ばれた最強の魔道士が作ったダンジョンに勇者が挑んだのよ」
「……それってダンジョンなの?」
「うるさい」
ちなみにダンジョンには一応は定義があり、その点で魔道士が作った場所は定義上ダンジョンとは呼ばないのだが、そこは気にしてはいけない。みんな適当に生きている。
「無事に攻略できるかわからない状況が神官たちの手によって配信されたのよ」
「ほう、どうやって?」
「……さぁ?」
正確には別次元にある空間こと、神の御許に送られる記録を“祈り”によって読み取ることに成功したから――なのだが、方法なんざ知らなくても、神官が配信を可能にすることさえ知っていれば、正しい知識なんてものはいらない。
「まぁ具体的な方法なんて、私は知らないけど、勇者が数々の苦難を乗り越え間、数々の視聴者が祈ったというわ!」
ちなみに神官の祈りとは魔道士とは別形態の魔法であり、信者の祈りとは端的に言えば寄付である。
「魔王を倒した日には大いに盛り上がったそうよ!」
「盛り上がるのか……」
他者への興味のなさが限界突破しているガゼットには想像のつかないことだが、当時の人は誰もが勇者の動向を気にして教会に足を運んだという。
「つまり、そうやってダンジョンの配信が安否確認だけではなく、ただの娯楽でも通じることが、その日にわかったのよ」
最初はみんな勇者達の安否を心配していたはずであったが、魔王を倒す頃には視聴そのものを楽しみにしていたという。
もっとも、脳内でその楽しさを想像できないガゼットは大事な内容の方を聞く。
「その寄付金って、どれだけ貰えるの?」
常識的感性は
「当時の噂だと3割とか聞くわね。今はそれなりに条件で神官にもよるけど7割かな? 実質的に5割とも言われるけど」
「結局どれだよ」
神官との複雑な金銭体系にガゼットは思わず肩をすくめて笑う。
「色々面倒はあるけど、さすが教会ね。なかなかのやり手よ」
これまで教会の稼ぎは聖書を読み聞かせや、寄付が大半であり、基本的に商売は忌避されていた。
しかしながら、物を売るのではなく、人々に安心を伝える配信はあくまで慈善事業としての収益――ではなくて寄付をして貰えるようになったのだ。
「特に信用金貨の発明は
「……信用金貨?」
だんだんと世界に二周遅れぐらいしていることに気づき始めたガゼットは顔を顰めながらも真面目に聞くのであった。
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