第7話 ゴブリンキング
生きた心地のしない数秒であったが、驚くべきは着地であろう。
地に降りたガゼットの足は、落下の勢いを全て吸収したのか、お姫様抱っこをされているレンナは何一つ
そして、一体どうしてこうなったのか――まさにゴブリンの親玉が住む
「Gugigege」
いきなり現れた人間に、さすがのゴブリンも驚いたらしく、言葉のようなものを発しながら、あわあわと戦闘準備へと走り回り始める。
「あんた、ここにいることがわかってたの?」
「ん? いいや。ここら辺とは思っていたが、まさかドンピシャとは思わなかった」
「馬鹿じゃないの? それでいきなりゴブリンキングとだなんて……勝てる?」
普通に考えたら、疲労諸々、下準備も込みで勝てるはずがない。
ゴブリンキングだけではなく、それ以外にも先ほどの軍勢より
しかしながら――
「どうやって負けるんだ?」
「普通にしてたら、ちゃんと負けるわよ……」
本来であれば強大な敵に白熱するシーンなのだが、なんと緊張感にないことか。
コメントですら、もはや勝つ前提の声援が来ている。
――ぶっ殺せ!
――こいつが勝つに500ディールだ
――賭けになんねーよ
ホルダーに流れるコメントを見ながら、レンナはふと気づく。
「私、邪魔じゃない」
いまだお姫様抱っこをされたままで、その先に剣を持った状態。
担ぎ上げる以上に、邪魔であることに気づくレンナであったが……
「邪魔にならない時があったか?」
「……えぇ、そうね。最初っから、最後まで本当に迷惑をかけました!」
手を振り払って立つと、しっかりと謝罪をする。
そんな嫌味たっぷりの謝罪だが、ガゼットはその通りだと言わんばかりに深く頷く。
「じゃあ、さっさと倒してくれない?」
こんな馬鹿げたやり取りの代償は
「そうだな。その点で言うなら、まだ邪魔だぞ? しゃがめ」
「うっ……わかったわよ」
戦闘態勢に入る感触をひしひしと感じたレンナはおずおずと頭を下げて、ホルダーにこの光景をしっかりと映しながらしゃがんでいく。
Gyaaaaaa――Guooooo
キングが咆哮を上げ、それに周りも追随する。
そして――
「バスターオン」
バスターソードの刀身に手を乗せたガゼットが
不穏な気配に驚くレンナだが、周りのゴブリンたちは
Guoooo
全方位からの同時攻撃に、ガゼットは刀身を持ちながら一回転すると、刃先からは
Gyaaaa
そうして、襲いかかるゴブリン達は何一つ成果が出ないまま散っていった。
「そんなことも、できるのね」
洞窟内ではやらなかった新技(?)にレンナは感嘆する。
Gyaoooooo
手下の敵討ちでも決めたのか、ゴブリンキングが叫んで自身の戦闘準備に入ると、再度、ガゼットが叫ぶ。
「バスターオン」
剣に魔力を
そして、次の攻撃は明後日の方向へと飛んでいく……
Kyaaaaa
先程までとは違うモンスターの高い悲鳴。
道ゆく他人が巻き込まれたのではなく、なんとゴブリンの非戦闘要員を討伐していた。
suuuu――Gyuuuooooooooo
人間ですら引く、えげつない攻撃。
憎しみに満ちた表情を浮かべたゴブリンキングがガゼットの元に突っ込んでくる。
カキン
ゴブリンキングの持つ棍棒と、ガゼットの持つバスターソードが一瞬の
手下の存在も相まって、非常に難易度が高いはずのゴブリンキング討伐は一瞬で終わってしまった。
それなりにすごいことをしたはずのガゼットだが、
「ゴブリンキングってもっと強いと思ってたけど……?」
――単体の強さならミノタウロスより弱いよ
――そもそも頭に血が昇ってたし
――血がのぼる頭がゴブリンにあるのか
かなりショッキング寄りの光景ではあったのだが、それなりの視聴者を抱えるコメントの集合知にレンナは『ふむふむ』と頷きながら読む。
「では、これまでお付き合いありがとう! またの配信もよろしくね!」
ガゼットを称賛するコメント群。だが、その中には当然
――残酷だ
――神のバチが当たるぞ
――無抵抗のやつらはお前が殺したも同然
無抵抗のモンスターを殺すな教はそこそこ存在しており、なんだったら、レンナ自身も無抵抗のモンスターを殺すのには抵抗感がある。
ただ、その意見を誰かに押し付けるほど浅はかでもなければ、覚悟なしにこの世界に入ってきたわけでもない。
「この世は弱肉強食だし、守ってくれる人が弱かったのが悪いわよね」
配信をやめてホルダーを片付けながら、レンナは自身が生き延びたことをどこか自嘲気味に笑う。
「終わった?」
「あぁ」
採血球による記録が終わったガゼットは満足そうな様子でやってくると、そのままレンナを一瞬で抱き上げる。
「ひゃぁ! 大丈夫。もう大丈夫だから!」
歩けなかったのは疲労もあるが、緊張によるストレスといった側面も大きい。
「えっと、これからどうする?」
「帰るつもりだが……お前は?」
「だったら、一緒に帰りましょ」
そういってレンナはガゼットの左腕に抱きついていく。
ぶっちゃけ、お姫様抱っこで帰路に着くのは恥ずかしいが、さりとて何もしなければ、一人でスタスタと帰りかねない――文字通りの足手纏いになることが目的である。
「そっ」
片手にバスターソード、片手に少女を侍らせながら、気にせず歩くガゼット――少しばかり歩く速度が遅いことにレンナは安心しながら帰るのであった。
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