第2話 自分でも分からぬ自身の超能力
天帝国の旧東京都にある『第一能力者養成学園』、通称『総合学園』。
その名の通り、いくつもある能力養成学園の中でも珍しい総合的なカリキュラムを持つ学園。他の学園は現地の特色や気候などによって、カリキュラムを変えているのに対し、この学園は全てにおいて一定レベル以上を身につけることを校風としている。よって、進級するだけでも箔が付き、卒業すればエリートとも言われる程の卒業難関校である。ただし、入学自体は優しいものなので、入学者は毎年多い。
だからといって、全てにおいて秀でているのかと言われれば、そうではない。ここでの一定レベルとは、必要最低限の知識のことであり、尖った能力を持つ者が多い。能力は基本的に一人一つなので、保有する能力を伸ばすのは当たり前のこととも言える。だが、能力同士が相殺し合うことがあれば、有効な能力を与えることもある。その知識を身につけることによって、的確な判断を身につけることが何よりも重要だと考えているのである。
現在は平和な状態を維持し続けられているが、これがいつ破られるのか分からない。そんな恐れがあるからこそ、各国は能力者の育成に力を注いでいる。天帝国は『天神のお気に入り』ということで、ここ数百年間は他国からの侵略や戦火に巻き込まれずに済んでいるが、それも何時まで続くのか分からない。そんな状態であるからこそ、天帝国の上層部――天帝は除く――は能力者養成学園を設立したのだ。
そんな背景がある能力者養成学園を見て、零無が初めに思った感想は、
「これが総合学園か。・・・・・・思ったより大きいな」
であった。
「いやいやいや、まず初めに思うことはそれ!『格好良いな〜』とか『自分もこの学園に入るんだ〜』とかって思わないの!?」
「あ、おはよう美咲。間に合ったんだ」
「本当に酷いよね、お兄ぃは!こんなに可愛い妹をおいて行くなんてさ!ってそういうことじゃなくてさ!」
「わかっているよ、だけど、仕方がないだろう?これくらいしか思いつかないんだ」
いつの間にか隣にいた義妹の美咲を見て挨拶をし、そしてまた学園に目を戻して告げる。
そんな兄の様子をおいて行ったことに美咲は拗ねながら、心配そうに確認する。
「うん、まぁ、大丈夫かな〜?少し表情が薄いけど、無表情というわけではないし・・・・・・、どこまで解凍が進んでいるの?」
「現状は40%程度ってところかな?普通の人が出せる感情は50〜60%くらいのところにあるみたいだから、あと少しってところ。だけど、それ以降は難しいかも。なんか、氷が厚いというか、硬いというか・・・・・・、とにかく、1割の解凍に数年単位の時間を要すると思う。あの先生が言ってた通り、欲や強い思いまで解凍できる頃にはもうおじいちゃんになっているかもね」
「そう、どうにかならないのかな〜?」
「こればかりは精神の問題だからね。もしかしたら代償というより、心の傷という可能性も浮上してきたね」
未だに『超人種』を迫害する者がいないとは限らない。なので、会話は周りには聞こえないレベルでの小声、ではなく、
「本当にお兄の能力って不思議だよね〜?未だに分かっていないんだっけ?」
「そうだね。元々【森羅万象】という異能があるせいで、余計に詳細不明になっているんだよね。あるのは分かる。だけど、それが何なのか分からない。そんな感じが今も続いてる」
「だからといって、毎晩毎晩、異世界に行って特訓するのは止めてよね!傷だらけで帰ってきた時なんか、お母さん失神していたから!」
零無は一度、天神に頼んでこの世界の1秒が1万年になる異世界に送ってもらい、特訓をしたことがあった。死の間際に能力が覚醒することは【超人種計画】で何度も見たことがあるので、そうすることにより自身の超能力が分かるかもと思ったのだ。そうして試した。
結論から言うと失敗だった。正確に言うと『より分からなくなった』。死にかけたとしても、意識を飛ばしたほんの一瞬で終わっていたのだ。周りには巨大な爪痕が残り、時を遡って見てみても、零無が倒れた瞬間、何かが出てきたのは分かったが、そこで途切れていた。天神に話しても考え込んでしまうだけで回答は得られなかった。
(だけど、その頃からだった気がするなぁ〜。
元々、天神は【超人種計画】の被害者は全員気にかけていた。ただ、第三者からでも分かるくらい何故か零無のことをあからさまに表立って気にかけていたのだ。それは零無自身も同じことであった。
何故か気にかけてしまう。何故か惹かれ合ってし合う。何故か心配してしまう。
天神にも零無にも、誰にも分からない謎。否、当時は誰にも分からなかった謎。
今では天神のみがその原因に心当たりがあるもの。
零無は今日もまた、誰かに見られている感覚があった。その誰かを、いつも通りの見られ方故に、零無は見当がついた。普通は誰であっても無作法に見られることには嫌悪感を覚えるはずなのだが、零無は機嫌を悪くした様子はなく、寧ろ機嫌よく学園の校舎へと向かった。美咲はそんな義兄の様子を不思議に思いながら、後を付いて行くのであった。
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