第12話 球技祭③
「綾人……本気で行くぞッ――――」
予想通りジャンプボールは悠らしい。ボールを持った審判の手を挟んだ対面。そこにいるニヤついた悠からそう声をかけられた。
「あぁ、望むところだ――――」
――審判の手からボールが離れる。ボールは空中に放たれた。
「……っ!」
「っしゃァ!」
ボールは悠が弾いた。
最初は三組ボールである。
三組で警戒するべきはやはり悠だ。身長も高いし力も強い。元の身体能力も高いためなかなか強敵だろう。
もちろん、悠のマークは涼介である。
「安藤ォ! ……打てッ!!」
悠はそう叫んだ。
安藤とは今ボールを持っている三組の選手だ。悠が弾いたボールをキャッチした選手である。
「分かりましたよ……っ!」
安藤と呼ばれた人物はスリーポイントラインの少し後ろからボールを放った。
そのボールは吸い込まれるかのようにゴールに入った。
「「「「うぉぉおおおおおお!」」」」
開始すぐののスリーポイントシュートに体育館は湧き上がった。
「おい、綾人……」
その瞬間に涼介が話しかけてきた。かなり慌ててる様子である。
「安藤のマークは綾人に任せるわ……あいつ多分バスケ部だぞ」
「涼介知ってるのか……?」
「いや、多分安藤は外部から来た生徒だ。中学にはあんな綺麗にスリーを決める奴いなかった…………あいつ相当やるぞ」
それを聞いた綾人は理解して涼介と離れた。
オフェンスでの綾人の役目はドリブルで敵を抜いて涼介にパスをする事。
綾人は味方からボールを貰った。
綾人をマークしてるのは安藤。なかなか圧力のあるディフェンスだ。
「経験者なのか?」
綾人はボールをキープしながらそう聞いた。
「そうですよ」
安藤は単純にそう答えた。無駄がない合理的な性格だと思った。
綾人は抜けないと判断して、近くの選手にパスを出す。すると近くにいた選手がそのボールを受け取った。
その途端、涼介がその選手の方を向いてボールを呼ぶ。
涼介にパスが出された。涼介は走りながらそのボールを取る。そして、そのままドライブで前に進んだ。
「あれは……」
綾人は声が漏れた。涼介をマークしているのは悠。涼介と悠の周りから選手は少し離れている。
「涼介と悠の一体一……っ」
この一体一は大切だ。いきなりスリーで流れを持ってかれたが、この一体一で勝てばその流れも挽回できる。さらにこっちは勢いをつけることが出来る。
「ハッ! かかってこいや雑魚」
「……」
涼介は悠にトップスピードで近づき、急にストップをした。そして足の間を通してボールを持ち替える。それと同時にまたトップスピードでドライブする。
「チェンジオブペース……!」
涼介は悠を抜いた。
***
「チェンジオブペース……? なんですかそれ?」
観客として見てる有栖川早苗が咲に聞いた。
「スピードに緩急をつけてディフェンスを抜く技。めちゃくちゃキレがあるし上手……!」
「そのような技があるのですね……。おっ、涼介さんがそのままゴールに入れましたね。あれはレイアップでしたか」
「そうだよ……! それにしても、めちゃくちゃ綺麗なフォーム……」
「二対一ですか……。まだ始まって一分も経っていませんがなかなか濃いですね」
「有栖川さんはどっちのクラスを応援するの?」
「私は八組ですかね……咲さんは?」
「私は両方! どっちにも友達いるしねー」
咲は元気にそう言った。
次は三組のオフェンスである。
スローインのボールは悠が取った。
***
「調子乗ってんじゃねぇぞ涼介ッ!」
「乗れるかよっ! こっちだってギリギリなんだ」
悠はスリーポイントラインの少し後ろで涼介と一体一になった。
「……」
悠はドリブルの最中シュートフェイクを入れた。
しかし、涼介はそれに一瞬反応した。悠はその隙を逃さずにドリブルに切りかえる。
動きに全く無駄がない、美しい抜き方だった。
「くそっ……うますぎだろっ!」
悠はとえも速い、まもなくリングに辿り着く。これは入れると誰もが思った。
しかし――――。
「――まだだっ!」
「ったく、しぶてぇな!」
悠がゴール下で跳ぶ瞬間、追いついた涼介もブロックでジャンプした。
「っ……涼介、止めろっ!」
涼介はかなり良い位置にいる。このままなら涼介は止める事ができると思った。しかし悠は想像を超る動きをする。
「っあめェな!」
悠はダブルクラッチをして涼介をかわした。
その上、レイアップを打つ際、指でボールに回転をかけた。その結果、ボードに当たったボールはリングに吸い込まれるようにして入っていく。
「ダブルクラッチからのフィンガーロール……おい、悠いきなり魅せプか? 舐められたもんだな」
ダブルクラッチは確かにディフェンスを避けるのに有効な策だ。しかしかわすだけならもっと確実で簡単な方法もある。
フィンガーロールに関してはこの場合、完全に意味が無い。シュートの成功率を下げるだけだ。
「テメェらめてぇなヘナチョコ相手じゃ、普通にやっても勝っちまうからなぁ」
ダブルクラッチもフィンガーロールも、ものすごく難しい。悠は涼介の言った通りかなり上手いようだ。
涼介はスローインからボールを貰った。
「さっきはパスしたが、次は抜く」
綾人は対面した安藤にそう言った。
場所はスリーポイントライン。
綾人は単純にドリブルで抜く事にした。
「っ」
まずはドリブルを低くする。さっきまでの普通の高さのドリブルから緩急をつけた。そこでクロスでチェンジ、右手から左手に持ち替える。
しかし安藤はついてくる。もう一度綾人はクロスで持ち変え、さらに体を逆に動かしてフェイントをした。
「っ!」
それでも安藤は引っかからずについてくる。ディフェンスも洗礼されていると思った。しかし綾人は安藤の重心が少しズレたのを見逃さない。
綾人は足を前に出してレッグスルーで持ち替えた。
「なっ……!?」
安藤はバランスを崩す。綾人はそのままドライブで切り込み、最高速で抜き去った。
ユーロステップで前にいるディフェンスを避ける。
それを見た悠が一瞬でシュートを止めに来た。
綾人と悠が同時に跳ぶ。
「かかってこいや雑魚がッ!」
「ふっ……」
綾人はフックシュートでボールをリングに入れる。
しかし少し低かったようだ。ボールは悠にブロックされた。
「っつァ!」
そのまま悠ボールを取ってドライブする。ディフェンスに来た涼介もロールターンで軽々と抜いてみせた。
しかし、ゴール前にはディフェンスがまだいる。
「ッチ……こんなんで俺が止められるわけねぇだろがッ!」
悠は全てのディフェンスを華麗に交してみせる。
「いやっ! 俺もいる!」
涼介がもう一度追いついてブロックのジャンプをする。
しかし悠の姿勢はレイアップではなかった。
「……っあれは!」
悠は空中で一回転する。体が一周してリング側に戻ってきたあと、腕を縦に回転させた。
そしてそのまま悠はボールをリングに突っ込む
「ダンクッ……!?」
その時、会場のボールテージは最高潮に達した。
ダンク、綾人も生で見るのは初めてだ。しかも普通のダンクじゃない。体を一回転する360°《スリーシックスティ》に加え、腕を風車ように回すウィンドミル。とてつもない魅せプレイである。
「360°ウィンドミルダンク……」
およそ、高校生のレベルではなかった。
~~~~~
皆様ごきげんよう、春瀬です。
「有栖川家の執事は高校生!!」を読んでくださってありがとうございます。
まず、今回の話に関してです。
バスケですけど、ぶっちゃけ悠くん強すぎます。NBAプレイヤーですか?って感じです。
全国大会経験者ですらないのにあのレベルはおかしいのは承知しています。
実際に私も書いていて「そんなわけないよなぁ……」となっていましたので。
どうか、ラブコメディのコメディ部分だと思って受け入れてください。ギャグです、全てはギャグなのです。私の世界で生きている高校生達は軽々とダンクをやってのけるのです。
閑話休題。別に私は本作のフィクションについて言い訳をしに来た訳ではありません。
これから今まで投稿した話の大幅改稿を致しますのでしばらく話の更新ペースが落ちます。
読者の皆々様にはどうかご理解ご協力をお願い致します。
有栖川家の執事は高校生!! 春瀬 @naa0222
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