第11話 球技祭②


「俺らの出番まで暇だな……」


「咲さんもう少しで試合なんじゃないのか?」


「あ、バドそうえばもうすぐだな……見に行くか」


 ――という事で咲さんの試合を見に来た。

 初戦ではあるが、なかなかの盛り上がりである。


「ってか……咲強すぎないか……?」


 咲さんは圧倒的な点差をつけて優位にたっていた。

 試合開始から十分も経っていない。しかし、もう勝負がつきそうだ。


「これは、相手が可哀想になるな……」


「咲がここから負ける心配は無さそうか」


「だね」


「おいおいっ! てめぇら呑気に咲の応援なんてしてて大丈夫かァ!?」


 突然、横に大きな人影が現れた。そいつは登場早々声を荒らげて綾人達を煽った。


「悠……」


「はッ! 涼介そんな睨むなよ………………ってか可哀想になるぜマジで」


「何がだよ?」


「何がって……テメェらの初戦は三組、相手は俺だぞ?」


「……っそう、なのか」


 涼介は目の色を変える。

 少し嬉しそうにも見えた。


「そうか……綾人、初戦が悠なら手加減なんてしなくていいぞ」


「え?」


「お前バスケやる時毎回、力抑えてるだろ」


 涼介にそう言われて綾人はハッとした。

 少し心当たりがあったからだ。


「バスケだけじゃない。スポーツ全般……いや、勝負事においては基本的に全力を出していない」


 綾人は父親にそう教育されていた。自分の力の底は見せたら最後だと。

 力の限界が知られたらブラフも駆け引きも意味をなさなくなる。

 読み合いにおいて、「自分はこれ以上の実力を持っている」というのを引き合いに出せると、圧倒的に優位に立てるのだ。

 それが脳裏に蔓延っており常どこか抑えていた。


「悠ならボコボコにしたって泣かせたって構わないからな」


「くっくっく、はっはっはっ……あんま笑わせんなよッ、俺がボコボコにされる訳ねぇだろが!」


 悠には負けるなど思っていない、絶対の自信があった。

 しかし少し違和感がある。土日で悠のバスケは見ていたが、そこまでのプレイヤーではなかった気がする。

 確かにフォームは綺麗だしプレイは丁寧だ。ただし、試合では綾人でも追いつける実力差だった。

 こちらには元バスケ部でエースの涼介もいる。悠だって必ず勝てるとは言い難い状況なはずだ。にもかかわらず悠は絶対に負けないという自信に満ち溢れていた。


「ンじゃ、せいぜい頑張るんだな」


 悠はそう吐き捨ててどこかへ行く。


「綾人、あいつはめちゃくちゃバスケ上手い」


 涼介が分かりきったことを言った。


「分かってるぞ、そんな事は」


「いや、綾人が思ってる以上にだ。……中学時代あいつはバスケ部だった。……そして、一年であいつだけが唯一スタメンだったんだ」


「え……そうだったのか……? そんな強いのか?」


「あぁ、でも練習は真面目にやらないし素行は悪いしで二年の時にバスケ部を退部させられたんだ。でも、悠は俺よりずっと強い……」


「土日ではあんまりそんな気がしなかったけどな……」


「あの時は手加減してたんだろう。悠が真面目にやったらゲームが破綻する。パスは意味をなさなくなって悠の個人技で点が量産できるからな」


「悠には元エースだった涼介でも敵わないのか……?」


「無理だ、土日の時あいつはアップでレイアップをしてた。……成功率は百パーセントだったよ」


「確かにレイアップは簡単なシュートではあるけど、百発百中って……?」


「……全国クラスの選手ならまだしもここは強豪でもなんでもない。とどのつまり、バケモンだ」


 ***


 試合開始まで残り五分である。

 一年八組と一年三組がそれぞれハーフコートでアップをこなしていた。

 悠は、フリースローを打っていた。


「……マジでめっちゃ入るな」


 悠はフリースローを永遠に決めていた。ループも回転も綺麗で、芸術のようだった。

 そして、少なくとも綾人が見始めてからは一本もはずしていないようだ。


「綾人……手加減すんなよ。本気でやるぞ」


 涼介はアップの狭間で綾人にそう注意した。


「分かった」


 綾人は深呼吸をした。手加減しない……今まで無意識でやってきたことを意識して止めるのは非常に大変だ。でも、可能なはずである。


 笛の音が鳴った――――。

 その笛に合わせてお互いのチームが整列する。

 とうとう試合開始だ。


「綾人……! ジャンプボール任せたぞ」


 隣にいる涼介が小声で綾人にそう伝えた。

 綾人はそれを了承した。このチームの中では一番背が高いから。そして、ジャンプボールはきっと誰がやっても同じだからだ。

 向こうのジャンプボールはきっと悠が出てくる。そうなるとジャンプボールは絶対に取れない。悠の身長は一八九センチ対して一番高い綾人は一七七センチ。その差はジャンプボールにおいて、絶望的だ。


 笛の音が再び鳴る。それに合わせて両チーム頭を下げて挨拶した。


「「「「よろしくお願いします」」」」


 するとすぐに全員は配置についた。


 この球技祭は五対五であり、試合時間は十分。

 さらに、本来のルールからカットされているものがいくつかある。

 

「綾人……本気で行くぞッ――――」


 予想通りジャンプボールは悠らしい。ボールを持った審判の手を挟んだ対面。そこにいるニヤついた悠からそう声をかけられた。


「あぁ、望むところだ――――」


 ――審判の手からボールが離れる。ボールは空中に放たれた。

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