第7話 貴族の頼み事

「じゃそろそろ私時間だからいくね」

「おう」

「また会おうね!」

「おう」


 そう言ってサラは走っていった。

 サラとだいたい1時間ほど他愛もない話をした。

 疲れた、でも少し楽しかったな。


「ちょっといいかな?」

「貴方はさっきの」

「とてもいい雰囲気だったからそこで観察させてもらったよ」

「え、あ、はい」


 俺が帰ろうとするとさっきの老人が話しかけてきた。

 たしか名前はベンだったよな?

 つかこの人近くで見てたのかよ恥ずかしい。


「いやはや、若いってのはいいもんだね」

「ええまぁ」

「別にからかいに来たわけじゃなくてちょっと相談をしたくてね」

「相談?」

「うむ、最近うちがやってる商売で使ってる荷馬車がよく襲われて困っててね、ちょっと力を貸してもらいたくて」


 なるほど仕事の依頼かだったか。


「いいですよ」

「お、引き受けてくれるか、ありがとう」

「それで……」

「わかってる、お金なら払うよ、だいたい100万ほどでどうだろうか?」

「ぜひ受けます!」


 100万だって、ただの護衛でその値段とか破格すぎるだろ。

 これはもしかしたら何か裏があるかもだけど、俺なら別に死ぬこととかないし、こんなの余裕だな。


「ありがとう、それじゃあ明日の深夜0時に街の関所前に行ってくれ、赤い旗の荷馬車が今回の護衛対象だからよろしく頼むね」

「了解です」


 呼ばれて行った貴族地区でまさか100万の仕事も見つかるなんて、今日は凄くツイてるな。




 夜中の0時、言われた場所に行くと赤い旗を刺した荷馬車が停まっていた。


「これか」

「あ!貴方が社長が言ってた用心棒の方ですか?」


 用心棒?まったくどんな伝え方をしたんだあのじいさん。


「ええそうですよ」

「おお、頼もしいな」

「ジョブは何をやってるんですか?」

「一応、魔法師です」

「魔法師ですか!頼りにしてますよ」

「は、はぁ」


 荷馬車に着くなり18歳ほどの商人の弟子みたいはやつに絡まれた。

 まぁ期待は裏切らない自信はある。


「よし、それじゃとりあえずこれをどうぞ」

「なんですかこれは?」


 若いその男は赤い液体の入ったコップを渡してきた。


「え、なにってお酒ですよ、やっぱり飲みながらじゃないと盛り上がらないですもんね!」


 はぁ、さすがはこの街の商人だな。

 見事な怠けっぷりだ、しかし変だな見たところこの子以外に商人っぽい人がいないぞ。

 この若い男以外は、身なりがあまり綺麗でないフードを被った者達ばかりだった。

 まさかこの子が今回の責任者とかじゃないよな。

 

「いや酒はいらん、というか他の商人の人はどこなんなんだ?」

「え、やだなぁそんな他の商人だなんて、そんなのいるわけないじゃないですか、つかそもそも僕も商人じゃないですし」

「は?なに言ってる……てかお前なんで頭から耳がーー」

『グサッ』


 俺は目の前の若い男の頭から耳が生えているのを見た瞬間、何者かに背後から刺された。


「い、痛え、お前ら一体」

「俺らは兎族の盗賊団、脱兎の者です、驚きました?」


 そう話す若い兎族の男のレベルは22だった。

 やられた、これはおそらく罠だ。

 多分、あの男ベンとかいう老人もグルでわざと俺に間違った時間を伝えこいつらに襲わせた。

 つまり今回のターゲットは……。


「狙いはサラか」

「え!めっちゃ勘いいじゃん、そうですよ貴方を人質にして貴族の娘を誘き出して、その娘を攫うのが今回の仕事です」


 クッソまさか獣人が絡んでるとは油断した。 

 しかもおそらくだが、こいつらの使ってるナイフ睡眠の魔法が付与されてる。

 やばい視界がぼやけてきた。


「お、やっと効いてきた、ドラゴンとか魔獣とかでも1発で眠らせるボス特製のナイフなのに、すぐ眠らないとはあんたさてはめっちゃ強いですね」


 そう話す奴の言葉がだんだん遠くなっていく。

 まずい意識が……。

 

『バタン』

「おやすみなさーい」


 

 

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