第6話 貴族の娘


 アルトを捕まえてから2日ほどが経った。

 今日は貴族のいる特級居住区に行く。

 俺の雇い主にして恩人である、貴族サンベルク家に行く。

 

「ここに来るのは半年ぶりだな」


 特級居住区、別名貴族地区。

 基本的に治安の悪いこの街で唯一整備されている地区である。


「あ、タクマ!」

「おう」


 貴族地区への入り口である門を抜けると、サンベルク家の次女であるサラがいた。

 おそらく俺を待っててくれたのだろう。


「時間通りじゃん!偉いね」

「まぁな」


 サラは笑顔で俺を迎えてくれた。

 商人や俺みたいに呼ばれた者以外は基本的にこの貴族地区には入れない。

 したがって招かれた者以外でこの地区にいるのは貴族だけである。


「おおサラちゃんおはよう」

「おはようございます!ベンさん」


 俺たちが歩き始めるとすぐにオシャレな帽子を被った老人に話しかけられた。


「うむ、サラちゃんこの方はどこの家の人かな?」

「あ、この人は貴族じゃないくて治安維持をしてる人なの」

「ほうそうなのか、どうも私はラル家のベンと申します、サラちゃんをよろしくね」

「わ、わかりました、頑張ります」


 俺がそういうと小さくお辞儀をしてその老人は去っていった。


「この地区に住んでる人は温厚なんだな」

「まぁ、他の地区と違って生活も治安も豊かだから皆んな優しいよ」

「そうか」


 この街のこの地区以外は、基本荒れてる。

 道にはどこの子かわからない子供が沢山いるし、仕事がなく路上で生活してる人もそこら中にいる。

 でもここにはちゃんとした家が立ち並んでいるし、その一つ一つに立派な庭や門がある。

 はっきり言って同じ街なのに別世界みたいだ。


「それにしても今日はどうして俺をここに呼んだんだ?」

「ああそれは、普通に様子見で呼んだだけだよ」

「は?」

「いやタクマってちゃんと生活できてるのか気になるじゃん」


 おいおいこの娘、俺のこと舐めすぎじゃないか。

 こちとら18の頃から親なし祖父母なしの一人暮らしで生きてきたんだ。

 生活力ならそこら辺の同い年なんかと比べものにならないくらい高いんだぞ。

 一度も家を出たことない娘が一丁前に俺のこと心配しやがってまったく。

 でもこの世界にロクな知り合いなんて居ないし、心配されて嬉しいのは嬉しいんだけどね。

 

「舐めんな、毎日ちゃんと飯食って風呂入ってそれなりの生活してるよ」

「ふーんそっか、良かった」


 俺がそう言うとサラは嬉しそうにまた笑った。


「お金は足りてる?給料安くないかな」

「いや充分だ、むしろ毎月貯金もできてるし大助かりだよ」

「そう?それならいいけど……」


 俺が遠回しに感謝を伝えたところ、サラは不安げに下を向いた。

 おそらく俺がサラを励ますために無理をしてるんだろうと思われたのだろう。

 いや本当にあの額の給料には満足してるんだけど……。

 

「こんな街であの額の仕事を受けられるなんて破格もいいところだし、今までまともな暮らしをした事ない俺がこんなに幸せを感じるのも君のお陰なんだ、だからそんな顔しないでくれ」

「本当に?」

「本当だ、嘘はつかん」

「ありがとう、そう言ってくれて嬉しい」


 サラはニコッと微笑んだ。

 しかしなんでこの娘は俺のためにここまでしてくれるんだ?

 そこまでする価値俺にはないのになぁ。

 

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