第3話 最強の魔法師


「これで大人しくしてもらえると助かる」

「くっ、誰か!誰か助けてくれ!」


 アルトの叫びに店内にいる冒険者数人が反応したが、皆床に突っ伏したまま動けないでいた。


「こんなことをしてただで済むと思ってるのか!今すぐ解放するんだ」

「嫌だね、あんたらも悪党なんだからここらで捕まえておくのが治安維持部隊の俺としても都合が良くてな」

「ふざけるな」


 アルトは目一杯の力で起きあがろうとするが、まったく起き上がれなかった。

 えっとアルトのレベルは2か。

 まずいな、このレベルだと起き上がるどころかこのままだと死んでしまいかねないな。

 仕方ない解除するか。



「う、うごける」

「あんたを殺しにきたわけじゃなくてな、大人しく捕まってかれると嬉しい」

「ふざけるな!この裏切り者め、お前たちあいつを倒せ!」

『了解』


 アルトの掛け声に2人の冒険者が反応し起き上がった。

 この2人なかなか強いな。

 レベルも9あるしこれは手強そうだ。


「おりゃあ!」


 冒険者の1人が大剣で俺に斬りかかってきた。

 

『ガキン』

「き、切れない」


 向かってくる大剣を俺は頭で受けた。

 しかし俺に当たっても折れないとは大した剣だな。


「馬鹿者そいつは王国最強の魔法師だ!なにか強化魔法のようなものを使ってるに違いない」

「なるほど、おいこの中に魔法師はいないか?」

「俺が魔法師だ、奴の強化魔法は俺が剥がすから任せてくれ」

「おう頼んだぜ」


 大剣の冒険者は魔法師の冒険者にそう言われ、俺から距離をとった。

 ほう俺が強化魔法を使ってると思ってるのか、おもしろいな。

 確かに強化魔法を使えばこのくらいの芸当ができる奴は他にもいると思う。

 まぁでも俺使ってないんだよね。


「お、おかしいぞこいつ強化魔法使ってない」

「嘘だろ」

「本当だ!魔法視を使ってもこいつが何かの魔法を使ってる痕跡が見えない」

「いやいやどういうことだよ」


 どうもこうもレベルが高すぎて、お前の持つ大剣の切れ味じゃ俺の身体は切れないっていう単純な話なんだけどね。

 ま、説明とかしないけど。


「なら次はこっちの番だな」

「来るぞ!」

「水属性魔法発動ー滝水」

「なっ、なんじゃこりゃあ」

 

 滝水は大量の水を天井や空から降らせる魔法である。

 滝水により室内は一瞬で肩くらいの高さまで浸水した。


「お、お前たち助け……」


 おいおいアルトは泳ぎも下手なんだな、もう溺れてるよ。

 俺を襲ってきた2人の冒険者もいい具合にもがいてるし、ここはさっさとアトルを回収して退散しよう。

 そして俺は沈むアルトを瞬時に回収し、空間魔法を使い外へ瞬間移動した。


「おい、起きろ」

「ぐはっ」


 店の外にある広場へ移動すると、俺はアトルの腹を軽く足で押して水を吐かせた。


「こ、ここは……」

「店の外だ」

「店の外?」

「ああ、沈むをあんたを担いで瞬間移動したんだ」

「そ、そうか」


 そう言ってアルトは広場にゴロンと寝そべった。

 さて、アルトも回収できたし酒場の水抜きでもするか。

 酒場には入店前にあらかじめ強化魔法をかけており、水が漏れないようにしていた。

 そのため酒場の中はおそらくまだ天井近くまで浸水している。


「空間魔法発動ー簡易転送」


 簡易転送は特定のものだけをそこから20メートル以内に移動させる魔法で、俺はそれを使い酒場の水だけを酒場の隣を流れる小さな川へ転送した。


「これで水抜きは完了だな」

「流石は王国最強の魔法師だな、私が雇った冒険者程度じゃ止められん」

「まぁ良くやったほうだよ」

「ふっ、あれでか?まぁいい、これからどうするつもりなんだ?」

「普通にあんたを捕まえる、つかそれが今回の元々の仕事でもあったしな」

「へ?」


 俺がそう言うとアルトは驚きのあまり目が点になっていた。

 確かに俺は買収された、しかしあのナイフの男はおそらく100万なんて額を用意できないだろう。

 それでも俺があいつの話に乗ったのは、都合がいい理由が欲しかったからだ。

 

「一応こんな俺でもこの街の治安維持部隊だし悪事を働くものを取り締まるのが仕事なわけで、悪党のお前に雇われたフリをしてたんだよ」

「でも買収されたじゃないか!」

「あれはあんたを捕まえる理由が欲しかっただけで、本気じゃないよ」

「う、嘘だろ」


 確かに金は欲しいが、実のところ俺は今そんなに金に困っていない。

 それに俺を信じて治安維持部隊に入れてくれた貴族の娘さんへの恩義もあるしな。

 そんなわけで俺がこの街の汚職に加わることはないのだ。


「さぁ行くぞ」

「私は嵌められたのか?」

「まぁそうなるな」


 そうして俺はアルトを連れ広場を後にした。

 そういえばなんとなく広場を見渡してみたけど、あのナイフの男は逃げたようでどこにもいなかったな。

 まずい、成り行きであの男を助けることになってしまった。

 まぁいいか。

 でもあいつなんで一般人なのにレベル4もあったんだろ?

 


 





 

 

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