第53話 錬金先輩、提案する
「やぁみんな! 今日も元気に錬金してるー? 最近日常がネコで溢れてる先輩と!」
『ネコと和解せよ! ネコグッズ伝道師の後輩がお送りする錬金チャンネル! はっじまるよー』
ネコ耳をつけたスライムが複数、ぴょんぴょんと僕の周りを跳ねている。
「何で僕までこんなの……」
『だうー!』
『バブ!』
『にゃーん』
リコは普段は猫耳否定派。変身時は仕方なくさっさと変身期間を速攻終わらすタイプで編成している。そのままの人格で移ったおかげで僕の意思が乗ってなくても猫耳嫌悪勢だ。
しかし妹のサンディ、シルビィは猫耳賛成派。二人とも後輩に洗脳済みなので可愛い=正義と教え込まれている。
とはいえ、この二匹はドラゴン。
うっかりブレスを吐くけど、当然僕達の普段着も彼女らが自由に振る舞えるように特別製だ。ブレスを吐こうが、噛みつこうが、戯れてこようが無傷を保てる最強の防御力! 出なきゃ一緒に住めないからね。
僕は保護者としてよりも、彼女達元モンスターとどうやったら共存できるかの道を錬金術を通じて全世界に共有していくのを使命としている。
え、賛同しない人がいたらどうするかって? 別にその人はその人の考えがあるんだから僕は尊重するよ?
その代わり一切僕に関わってほしくないけど。
僕、こう見えて非常にわがままなんだ。
だって僕のアイディアは当たり前のように使っておいて、要望が通らなきゃキレる人と仲良く出来る気がしないもん。
<コメント>
:リコちゃん、似合ってるよ!
:先輩の娘なら似合わないはずないんだよな
:サンディちゃんとシルビィちゃんもお似合いですねー
『だーう!』
サンディがコメントに反応してブレスの態勢。
撒き散らされるブレスは画像の乱れを引き起こすが、それ以外何も起きない。
何も燃えないし、何も溶け落ちない。そういう耐性を家具に持たせたからね。
おかげで何かにつけてどこでもブレス履くようになって困る。
どこか連れ出そうにもブレスの吐き癖を矯正してからだな、と後輩と相談してるよ。
<コメント>
:おててをあげてからのブレス! これがご褒美か!
:※ブレスを受けたら普通に死にます
:《セニア》赤のコアも堕ちたものね。すっかり人間に飼い慣らされて
:《ソルシエ》お前も半分落ちてるものよ?
:《セニア》は? 殺すぞ?
:ここのコメント欄、普通にダンジョンボスいるの草
:後輩ちゃんがダンジョン側だからな
:先輩が人類とダンジョンの架け橋だから!
「え? そうなの。全く興味ない。僕は錬金術さえ出来ればいいからね。彼女たちは後輩のお知り合いだから仲良くしてるよ。いつもうちの後輩が苦労かけるね。ネコグッズは気に入ってもらえた?」
<コメント>
:先輩! もっと人類に興味持って!
:錬金術バカ、人類存亡の危機に一切興味を示さず
:何なら先輩も被害者やし、残当
:それより先輩! パワーアーマーの改良案あるんすけど!
:ドリルとフライングアーマー以外に何か欲しいものとかあるの?
:空を飛ぶのならカードでもできるやろ
:金属ならではの変形機構とか、ドッキング機構とかな!
「ドッキング機構とか耐久を犠牲にするからメリットないだろ? それと変形機構はすこぶる興味は湧くが、ちょっと待て」
『にゃーん?』
僕はしげしげとジャンブーの体に触れ、このボディなら実行できるかと感触を確かめる。ここがこう変形して、こう伸びて。ほほう? これはこれで悪くないんじゃないかな? ふへへへへ。
<コメント>
:《ジャンブー》ふむ、合体、変形に興味ある
:ちょっと、黒のコアさーん?
:これ、合体変形ゴーレム来るか!?
:パワーアップ案件通したら敵もパワーアップすんのやめろ!
:両方のトップ陣が聞いてるから無理だぞ?
:この番組、ダンジョンと人類の関係に対して中立だからな
:中立っていうより、ノリと勢いでどっちかが被害受けてる
:本来、モンスター側がこの手の情報を聞くことのほうがないんだが?
『それは不平等なので私が参加権を与えました! その代わり彼女たちの地上侵攻の日取りも人類にバレバレです! ね、平等でしょ?』
<コメント>
:草
:いや、ダンジョン災害の日取りがわかっても逃げ場がないんやが?
:その間に海外に逃げろってか?
:モン半と一緒に暮らすのも嫌って選民意識高い奴も多いで
『先輩、この人達私たちがここまでしてるのに文句ばかりですよ?』
「困ったなーどうしたものかなー」
特に困った様子も見せない棒読み。
「二人して演技下手くそか」そんなコメントが流れる中、リコが僕から台本を奪い取り、読み上げた。
「人類補完計画? 悪い大人が好きそうな奴だね。なになに? 支払額によって等級を与えて住める空間を確保? 他人を見下す人のために最上級(雲の上での生活)をプレゼント! だって」
リコは普通に読み上げればいいのに、と僕達に台本を突き返してじゃぶちゃんを僕の手元から奪って奥に引っ込んだ。狙いは最初からそれか。
僕がじゃぶちゃんで何かをすると察したのだろう。当たりだよ。全く最近勘が鋭くて参る。
勘の鋭いガキは……って奴が最近非常に理解できる。
<コメント>
:雲の上って酸素少なくね?
:まぁ、特級階級求めるやつって少なからずいるよな
:金とるんか!
:宇宙に逃げるよりはマシ
:それって地上をあけ渡すって言ってないか?
:憶測乙!
「一応ある程度の機密性、酸素濃度は確保してるよ。第一層は雲より若干下。地上から物理的に見える大陸がそこだ。大陸といってもハワイの地続きで後輩の分体を浮かしてるだけだ。実際に大陸を浮かせるとなると、大変だからね」
<コメント>
:ハワイの地続きかー
:それ、後輩ちゃんの気分次第で落ちるんじゃね?
:乗るの急に怖くなってきた
:気が早すぎるだろ、お前ら!
「第一層といったように、二層、三層とご用意している。第二層は地球圏内。大三層は宇宙だ。こっちは衛星の管理に使ってくれたらいいんじゃない? 後輩のボディは燃え尽きることはないから、帰りたい時は最寄りの転送陣に乗れば、以降はプライベート空間として提供されるよ」
<コメント>
:宇宙www
:衛星の役割まで奪うんじゃない!!
:大気圏内も大概なんだよなー
:本格的に地球乗っ取りに来てて笑う
:それよりおいくら万円なんですか?
「やっぱりそこら辺気になるよねー。でも残念、これらは買い切りコースじゃなくて利用権なのでNNP方式なんだぁ。流石に犯罪者にお金で買われて空賊ごっこされるのも嫌だしね?」
<コメント>
:wwwwwwww
:転送陣で根こそぎ制空権奪っておいてからの、コレです
:運輸業に恨みでもあるのかってくらい、全部潰したからな
:転送陣を無償提供したのはやりすぎ
:いや、利用権で揉めてたし残当
:ずっと独占してたら戦争ふっかけられてたしな
:みんなして新しい技術使いたすぎなんよ
:そりゃ自国だけ出遅れてたら疎外感マックスで戦争も止むなし
:トップの器がそんなに狭くてええのか?
:その国の名前、日本です
「ちなみに利用料は1億ptからだよ♡ ゴミ拾い頑張ってね♡」
<コメント>
:探索者専用で草
:今や人類のほとんど探索者だろ?
:探索者になれない子供もいるんだぞ!
:子供の面倒は親が取るんですがそれは……
:子供を傘にして意見通したい大人の弁論やぞ
:それと犯罪者な
:《ソルシエ》それってわたくし達も買えるの?
:おい! モンスターも買おうとするな!
:人類補完計画がーー
「言ってしまえば買える。けど君たちには特別なポイント制度を用意してるよ。人間を不用意に殺さず、ダンジョンの資源を人類に提供すればするだけポイントが貯まる仕組みにした」
<コメント>
:《セニア》は? あたし達に死ねって言ってんの?
:《ジャンブー》例えば?
「君たちの生態系は、わざわざ人類を脅かさなくても一つの種として完成してる。言ってしまえばそれらは人類にも当てはまる。けどそれだけで生きていけないからそれぞれ人の七大罪を背負った。傲慢、強欲、嫉妬、色欲、暴食、憤怒、怠惰。それらを冠している限り、僕達の施設は使えないと思っていい」
<コメント>
:《セニア》じゃあどうして暴欲の紫は使えんのよ! 不公平じゃない!
:そういやそうだな?
「ん? うちの後輩は人類の味方だけど? 何だったら一人も殺さず、モンスターのみを駆逐してますが? それで赤のコアを倒して統合して青に赤を取り込んで紫になっただけだけど?」
<コメント>
:草
:そういや強欲の時点で先輩に少女趣味を押し付けてるだけだった
:犯罪ギリギリだったけど、先輩があんまり嫌がってないせいでセーフか
:それは果たしてセーフなのか?
:犯罪の中で最も嫌がれるタイプのやつだぞ?
:多分性別が逆ならアウトだった
:性別変えなくてもアウトな件
:それな!
嫌がってたけどゴリ押しされたんだよ!
まぁ今じゃ慣れたもんさ。
むしろこれ着ないで寝る生活が考えつかない。
僕もしっかり染められてるよね。
「とはいえ、この計画は後輩の力を借りてやってるので彼女の出入りを規制するのは難しいんだよ。その代わりコアの皆さんには地上侵攻を我慢してもらうごとにボーナスをつける感じでどうだろう? 一回侵攻を我慢してくれるだけで一万ptあげちゃう。どう?」
<コメント>
:それ、1万回我慢しないといつまで経っても空にいけない奴wwwwwwww
:代わりに俺らはゴミ拾いしてれば自ずと貯まるのな
:これで人類の敵は無理があるでしょ
:先輩がこっち側でよかった!
「あー、君たち。ダンジョン側の心配ばかりしてるけど、ダンジョンが活動しない=資源の枯渇だから探索者の一日の稼ぎが減るけど大丈夫?」
<コメント>
:そうじゃん、俺らダンジョンと運命共同体じゃん!
:探索者からダンジョンを取るのやめてください!
:市民はダンジョンに消えて欲しいんだよなー
:さんざんダンジョン資源で贅沢してるくせに、これ以上何を望むんだ
:人の犠牲の上に成り立ってる平穏だって忘れてんじゃねぇか?
:身の保全だけが最優先事項なんやろ
:モンスターは居なくていいから資源だけよこせ♡
:泥棒の理屈で草
:何いってんだ!探索者なんてダンジョンから見たら略奪者に決まってんだろ!
:ダンジョンがあるからこそ許されてる探索者制度、ダンジョンなくなったらどうなるんや?
:内閣総理大臣「全員犯罪者として厳しく取り立てます!」
:いやだぁああああ!!
:多分ダンジョン消えても、ステータスとスキル残ったままやんな
:モンスター迫害の次は探索者迫害待ったなし!
:その前にモン半迫害がありまぁす♡
:被害者なのに、悲しい
:みんな違ってみんな良いで良いじゃん
:人種差別は人間のサガなんやろなぁ
:先輩、一般市民から俺たちを守ってください!
:先輩!
「え、自分の生き方なんて自分で決めなよ。僕が興味を向けるのは錬金術と、それに伴う何かだ。それらを用いて君らが何かを企てようが知ったこっちゃないね。ただ、これだけは言っとくけど、うちの家族を人質にして、何かをさせようだなんて考えたら……人間、モンスター問わず敵対するから。僕の炸裂玉が火を吹く前に考え直してくれると嬉しいね」
『ちなみに、先輩の炸裂玉は一発で赤のコアの体力を1割持って行く高威力! 他のコアも食らえばタダじゃ済まないぞ(欠損回復阻害効果あり)! なので間違っても早まっちゃダメだぞ〜』
<コメント>
:《セニア》暴欲の紫の時点で手は出さないわよ
:《ソルシエ》赤のコアを倒したの、ヒカリじゃなかったの?
:SSランクダンジョンのボスにとどめさしたのもアレだったもんな
『そうよー♡ 私は漁夫の利。赤のコアはしぶとかったけど、先輩の炸裂玉でイチコロだったわー♡』
<コメント>
:ダンジョンのコアさん達から危険視されてるのが人類なの笑う
:ところで熟練度今いくつくらいあるの?
:そういえばあれから上がった?
「あー、そういや気にしてなかった。今いくつあるんだろ」
後輩を元に戻すのに精一杯でそれどころじゃなかったし。
リコとして活躍してた時は、錬金術そのものを使ってなかった。
でも新しく家族と暮らして色々錬金術の意欲もむくむくと上がってきている。
<コメント>
:本人気にしてなくて草
:それでこそ先輩だ!
:多分400行ってる
:400で済むか〜?
:フィフスジョブまで行ってそう
:もうすでにお披露目レシピに一般人がついてこれてないからな
:難易度30からお祈りが基本技能やし
:ガチファンは企業関連だし、最初から一般人がいない件
「次の制作難易度は130だっけ? 何かあったっけ?」
『あれとかどうです?』
「あー、モンスター変身薬」
<コメント>
:何それ詳しく!
:人間に戻れるのはないんですか!?
:モン半から完全にモンスターになるおまいらが見える
:意外とモンスターのフィジカルに憧れてるやつ多いからな
:モンスターの多脚に対抗するのにこちらも多脚とか、ロマンだよな!
『第一弾はスライムです。こちらは配布しますので、ハワイで体験入学しませんか?』
<コメント>
:ワイスライム人 ハワイいいとこ一度はおいで!
:スライム人はスライムの能力を持ったまま人として戦えるからモンスター変身薬の入り口にいいよ!
:みんなでなろうよスライム人
:空腹ともおさらばできるよ!
:水さえあれば生きていけるの、一度味わうと二度て脱却できねー
:なのでモン半の迫害はマジでやめてください!
「第二弾は猫獣人だ。お前らも猫耳つけろ。以上!」
結局のところ、今日も猫耳の売り込みで終わった。
僕はきっと仲間を増やしたいんだ。
頭の上で蠢く後輩は、何を考えてるのかわからないが、僕と同じような存在を愛でる傾向にある。
強さより可愛さ。
かわいいは正義。
猫は大正義。
それで満たしてやれば、早々に暴れない。
そんな確信があった。
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