第52話 錬金先輩、猫になる

人類は愚かですね。

昔、猫の親子が本を眺めながらそんな言葉を放つネットミームがあった。


……特におまえ!

そんな言葉で締めくくられるミームだが、それが今。

冗談でも何でもなく公の場で発信されているのだから大問題だ。


発信者は元人類で半分モンスターとなった人々。

彼ら曰く、人間は愚かだよな。見た目でその人の良し悪しを決めてるもん、との事だ。


これに関してはゴキブリと人間くらい相入れないようなもので、その特性を半分持った人間と人間が相入れないのは仕方ない。

が、そうじゃないものまで両手をあげてしまっている。

ただの感情が一つの意思として発表されてしまったのだ。

これを放っておいたら戦争待ったなし。


人類VSダンジョンVSモンスター化人類のような三つ巴が始まってしまう!

特に人類だけでも人種差別甚だしいのに、だ。


これは非常にまずいぞ。そう思って発明したのがこれだ。


「ネコになる薬ですか?」

「見た目だけでも愛くるしくしたい」

「なるほど、モンスター化人類総ケモロリ計画ですか!」

「違う! まぁ怖い見た目を少しでも和ませるって意味では間違ってないが、君はどうしてそう極端なのか」

「じゃあ私が先陣を切りますね。ごくー」


何の躊躇もなしに飲んだよ、この子。スライムになってから思い切りが良くなったよね。前からいいが、特に吹っ切れたと言うか。


『どうです?』

「スライムに猫耳が生えた」

『お?』

「尻尾が生えて毛が生えて……手足がって過程が怖いな」

『猫ちゃんになりました?』

「なったなった」


なんということでしょう!

クソデカスライムだった後輩が一抱えできるくらいの可愛い猫ちゃんに!

まぁスライムに使って成功するなんて思わなかったが、動物実験では成功したし大丈夫だろう。ちなみに僕も飲んで変化したのを確認した上で物を出している。

意識拡張ポーションや思考分裂ポーションのデメリットに比べれば全然許容範囲内だし。へーきへーき。


そしてすぐに元に戻った。変身時間みじかっ!

え、半日は変身可能な筈なのに。おかしいな?


『これでいつでもネコに擬態出来ます。私の配下にも付け足しておきますね」

「そんなこと出来んの?』

『私が法です』

「クイーンの職権濫用ってえげつないな。まさか生態系そのものに調整入れるとは」

『他のコアたちも出来ますよ?』

「じゃあ配りに行くか。僕もネコになってみる」

『先輩、これ以上可愛くなって私をどうするつもりですか!?』

「どうもせんわ!」


僕がネコになったら子供達に一生可愛がられる未来しか見えない。


実際に僕を見つけたリコが、後輩に飼っていいか聞きに来るくらい僕の顔は人間を虜にするようだ。満更でもない。ごろにゃーん。

こら、喉をすりすりするな。ゴロゴロなっちゃうだろ。

サッとリコの胸から降り立ち、尻尾を立ててスッと立ち去る。

猫は気まぐれなのだ。


『すっかり懐かれてましたね』

「僕の思った以上に効果的なようだ。探索にも使える可能性が出てきた改良して人間形態と猫形態でのアイテムも作り分けしよう」

『良いですね。ダンジョン側でも猫ちゃん用の抜け穴作っておきます』

「これは売れるぞー」


そう思っていたのだが、


『は? 何故わざわざ弱い形態になる必要がある?』


嫉妬の白。セニアから開口一番そんな言葉をいただいた。

今の彼女は幼女携帯。本来の女郎蜘蛛から随分と威圧感が減っている。

これでもだいぶ譲歩してなってくれたのに、さらに弱体化するとなれば話は変わってくる。


『実際に抱っこしてみればわかりますよ』

「ゴロニャーン」

『ふん、ふわふわな毛が妬ましい』


そう言ってセニアが僕をなでなでする。幼女の手は暖かい。

僕は眠くなってふあっとあくびをした。セニアの腕の中で伸びをして、尻尾をパタパタする。安らぐー。


『先輩、いい感じに籠絡できてますよ!』

(マジで?)

『セニアちゃんの手つきが優しいです。あ、尻尾の付け根は……』


ぎゅっとされて。ギニャッ!? っとした。

つい爪を伸ばして爪かきをするところだったが危ない。したら僕の命がいくつあっても足りない。


『ふふふ、こいつ馬鹿だわ。あたしの手の中でリラックスして。まるで命を握られてるとも知らずに』

『セニアちゃんの手つきにすっかり気を許しちゃってたみたいです』

『愚かね』

『ですが愚かだからこそ、人から慕われているんです』


そう言って後輩は猫を飼うという環境を画像越しに見せる。

かかる餌代。病気の治療費、死後のアフターケア。

人類がどれほど猫を愛し、敬愛してるかを知らしめた。

手間だっていっぱいかかるし、苦労もさせられてるのに、ただ可愛いと言うだけで奴隷状態でも文句を言わない。それが猫界の日常だと聞いてますます混乱していた。


分かるよ。蜘蛛人はオスを非常食兼奴隷として扱うけど、ここまで慕われることはない。暴力による支配の歴史。だから、靡くと踏んだのだ。


『これを飲めば、あたしもこいつと同じようになれんの?』

『全く一緒ではないですが、人の社会に出て歩いても恐れられません』

『つまり人間に飼われることも可能。懐に忍び込めると言うのだな? 一つ貰ってやろう』

『まいどありー』


嫉妬の白。セニアには売れた。

あとは色欲の緑、傲慢の黒あたりに声をかけてみようと思う。


色欲の緑、ソルシエからの反応はと言えば。


『いいね、この状態からエナジードレインも可能?』

『愚かな人間は、猫の背中に顔を近づけて、匂いを嗅ぐと言う背徳的行為を是としています』

『なんて愚かな生命体なのかしら……』


言われてるよ、人類。


『逆に我々はそれを今まで見過ごしてきたと言うことです』

『それに注目したのはあなたの番?』

『ええ、いつもびっくりしてますよ』


褒めるなよ。照れるじゃん。


『なんかこいつ、照れてない? もしかしてこいつ……』

『私の番です』

『ちょっとエナジー貰っても?』

『ちょっとだけですよ?』


いや、何で許可出してんのさ。ちょっと責任者、僕の命がどうなってもいいの?


まさかの猫吸いでエナジーを持ってかれた。

この状態で吸われるとは思わんかったが、心なしか疲れが抜けたように思う。

たまに猫吸いされるのもいいかもしれない。

よきにはからえ。


『うっぷ、こいつのエナジー濃すぎるわ』

『私の番がただの人間だとでも思ってたんですか?』

『そうね、次吸うときは万全の準備を持って吸うわね』


さすさすと腰を撫でられた。尻尾をビタンとさせて抵抗する。

また錬金疲れが溜まってるときなら吸わせてやってもいいよ?

そんな態度である。


ソルシエの腕からシュタッと降り立ち、にゃあんと鳴いて尻尾を振る。

よし、次行こう次。


続いて向かったのは傲慢の黒、ゴーレムなのに自我を持つジャンブーだ。

可愛さのかけらもないと言う理由で後輩から『じゃぶちゃん』という愛称をつけられた被害者の一人でもある。


ゴーレムをネコにさせたらアイボみたいなのができるんじゃないかと思ったら、もっと違う何かになった。

液体金属が猫のシルエットで流動する。

それはゴーレムの発展系であるかのようだった。


なお、受け入れる/受け入れないの話はない。

受け入れ一択である。

かの個体は自信の出世から疑問を持ち、人と同じ姿に憧れて手を尽くしている。

液体金属のボディを手に入れたのはまさに進化と言って過言ではない。


彼ら、彼女らは捕食によっての進化ができず、纏う鉱物の質で強度を高めてきた歴史を持つ。だから纏える金属の幅が増えるのは望みの一つでもあった。


『おぉ、このシルエットは今までにない体験。人型とはまた違う。活動限界も伸ばせる。すごい。もっと他にもないか? あればあるだけ欲しい!」


傲慢とは真逆の体質で人懐っこいジャンブー。

でもこの子、後輩の前でだけ猫をかぶってるだけでそれ以外では不遜なのだ。

単純に感情が育ちきってないだけとも言えるが、ゴーレムだもんね。

猫マスターの僕が一肌脱ごうじゃないかと一緒にゴロニャンした。


その様子を後輩が何枚も写真を撮る。

バカやってないで君も来なよ、と誘って三人で川の字になってゴロニャンする。

金属ボディはスベスベで気持ちいい。

一匹持って帰っちゃダメ? 

許可が出たので一匹借り受けた。子供たちと挟んで寝よう。

真夏の夜は寝苦しいからこれで万全だ。


え、後輩たちはスライムじゃないかって?

気分の問題だよ、気分の。僕が猫だってバレると気分を悪くするかもしれないだろ?


あの子、僕を尊敬してる癖に僕に好意を見せるのを恥だと考える難しい子だから。高校生って一番難しい年頃っていうじゃん?

演じてるときは何にも感じなかったのに、いざ父親の立場になると(こんなんだったっけ?)ってなるので難しい。


取り敢えず、渡したい相手には渡したので拠点へと帰る。

他のコア達は後輩を毛嫌いしてるのもあり、話が通じないので却下だ。

きっと以前、地上侵攻の際に乗じて強制ロリボディを与えられて切れたのだと思う。人格が男か女か確定前のゴーレムにも手を抜かなかったからね。

しっかり男、オスとしての矜持を持って生まれた個体には相当プライドが傷つけられたようだ。


そういう点ではうちの子、サンディは元々ロリボディなので特に変だとも思わず受け入れてたな。妹のシルビィ(大塚君の半身)も特に嫌がってはいなかった。

リコも特には……女装が日常だった僕の意識を注いでるのでむしろ可愛さチェックをする側だったな。後輩の趣味丸出しの服装は少し派手らしい。


まぁ気持ちはわかるよ? けどその意見を通すのは無理なのもわかってるんだろうね「はいはい」で片付ける後輩をジトっとした視線で見返すことしかできない時点でリコの負けだ。


僕? 僕は最初から諦めてるし。


「ねぇ、これ何?」


僕と後輩が持ち帰った金属の猫ちゃんを見るなり、何とも言えない顔をしたリコ。


「何って猫だよ」

「金属じゃん」

「金属だね」

『じゃぶちゃんの分体なのよ。一匹分けてもらっちゃった!』

「ふーん」


興味なさそうなふりして抱き寄せ、すりすりと背中を撫であげる。


僕直伝の自由奔放さを植え付けてるので、金属なのに妙に猫っぽい動きを再現した。僕ほどふかふかではないのでリコは少し物足りないみたいだ。

やっぱ僕が猫ちゃんになってあげないとダメだな。


そんなふうに考えた。


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【ダンジョンに】探索者雑談板#999827【猫が居る風景】

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008.通りすがりの探索者

 今日ダンジョン寄ったら、モンスターがネコになってた

 何を言ってるかわかんねーが

 俺も訳がわからなかった


009 .通りすがりの探索者

 ソースは


010 .通りすがりの探索者

 【画像】


011 .通りすがりの探索者

 猫っていうか猫耳と猫尻尾つけただけじゃねぇか

 俺はそれを猫と認めん!


012 .通りすがりの探索者

 蜘蛛に猫耳とか、需要どこ?


013 .通りすがりの探索者

 これ、また後輩ちゃんの企みか?


014 .通りすがりの探索者

 いや、先輩かもしれねーぞ?


015 .通りすがりの探索者

 それより上空に建設されてる建築物の確認をだな!


016 .通りすがりの探索者

 きっと後輩ちゃんのリゾートハウスだろ

 スライムの塔の地続きらしいぞ?


017 .通りすがりの探索者

 ハワイ在住で、リゾートハウスは空なのか

 色々ぶっ飛んでんな!


018 .通りすがりの探索者

 そんなことより猫耳モンスターをだな!


019 .通りすがりの探索者

 こいつを見てくれ、こいつをどう思う?


 撮影場所/横浜ダンジョン中層【金属猫現る】


020 .通りすがりの探索者

 こう言うのでいいんだよ。こう言うので!


021 .通りすがりの探索者

 白のコアさんもっと頑張って!


022 .通りすがりの探索者

 嫉妬の白様になんて畏れ多い!


023 .通りすがりの探索者

 横浜ってことはゴーレムか、それ?


024 .通りすがりの探索者

 いろんなモンスター居るよね、そこ

 後輩ちゃんが方々から借り入れてきてるらしいよ


025 .通りすがりの探索者

 殺意高いけど、見た目で癒してくれるのはありがたいな


026 .通りすがりの探索者

 ゴーレムの正攻法全部通じないけどな、こいつ


027 .通りすがりの探索者

 やっぱ害悪だわ。今すぐ処理しろ


028 .通りすがりの探索者

 そう思うんだが、仲間の女に止められた

 猫ちゃんは悪くないって!

 なので見つけ次第持ち帰る方針となった

 本来の目的も忘れてな


029 .通りすがりの探索者

 猫好きを敵に回すとパーティ崩壊するもんな


030 .通りすがりの探索者

 ネコと和解せよ


031 .通りすがりの探索者

 そもそも、NNPの貸衣装からして猫耳尻尾付きだろ?

 それを可愛いと思って着こなすやつがだよ?

 猫を殺せると思うか?


032 .通りすがりの探索者

 蜘蛛の甘い擬態なら殺意湧くな


033 .通りすがりの嫉妬の白

 何でじゃ! 言われた通りに可愛いじゃろが!


034 .通りすがりの探索者

 白様、可愛いの定義がですね

 人類とモンスター側で変わってしまっているんです

 もうちょっと紫の人と話し合ってもろて


035 .通りすがりの嫉妬の白

 あとで作戦会議するぞ!

 眷属は集まるように


036 .通りすがりの探索者

 ダンジョン側のトップがこうもポンコツだとなぁ


037 .通りすがりの探索者

 白ちゃん以外にも可愛い外見の子はいるだろ?


038 .通りすがりの探索者

 黒ちゃんは無機質だけど、素体がいいからな


039 .通りすがりの探索者

 これも全て望月ヒカリってやつの策略なんだ


040 .通りすがりの探索者

 後輩ちゃんが、悪の組織のトップにされてて草


041 .通りすがりの探索者

 元凶なのは間違ってないやろ


042 .通りすがりの探索者

 それで俺らが靡くと思ったら大間違いなんだが?

 非公式ファンアート書き書き


043 .通りすがりの探索者

 非公式ファンクラブができるくらいにガチ勢多いぞ

 主に一般人からの


044 .通りすがりの探索者

 大戦犯『先輩と後輩の錬金チャンネル』


045 .通りすがりの探索者

 先輩達は滅亡待ったなしの人類とモンスターの架け橋を作ってくれたお方やで


046 .通りすがりの探索者

 ダンジョンの回し者なんだよなぁ


047 .通りすがりの探索者

 そもそもダンジョンが何かすらわかってないのに結論出すやつ多くね?


048 .通りすがりの探索者

 ダンジョン側も普通にそこで暮らしてたのに、勝手に侵入してきてダンジョン内のモンスターやものを壊されたり持ち帰られたりしたら人間に敵意湧くと思うよ


 それを棚に上げて人類が攻撃された!

 ダンジョンは敵!

 は流石に通らんと思うのよ


049 .通りすがりの探索者

 真核が新たな資源だ! ヒャッハーって言ったやつが諸悪の根源だろ

 いい加減にしろ!


050 .通りすがりの探索者

 大体悪いのは国の政治だってどこでも言ってる

 フリーランスの探索者を手厚く歓迎してくれる国ってのは少ないからな


051 .通りすがりの探索者

 日本がオワコンって言われてるのはそう言うとこやぞ!


052 .通りすがりの探索者

 隙荒らば日本叩きやめろ!

 母国を何だと思ってるんだ!


053 .通りすがりの探索者

 探索者なんてジョブこそ違えど思考がバーサーカーなんだから

 弱い奴いたらみんなで囲んで棒で叩くのが基本技能よ


054 .通りすがりの探索者

 そんな殺伐とした現代ダンジョンに舞い降りる猫ちゃん!


055 .通りすがりの探索者

 猫神『ネコと和解せよ』


056 .通りすがりの探索者

 にゃーん


057 .通りすがりの探索者

 にゃーん


058 .通りすがりの探索者

 にゃーん


以降、人類圏の言語機能を大きく損なったレスが続く。

 

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