第43話 錬金先輩、隠し子疑惑
二回目の配信を終えた後、米国からアメリアさんが会いにきた。
突然のことだったのでびっくりしたし、どこでどうやって後輩の実家を調べ上げたのか、と驚いた。
「今は興信所があるでしょ?」
「うん、まあ。別にそういうのに頼らなくても教えるのに」
それよりも随分と日本語上手になったね?
以前までは母国語オンリーで、日本語は翻訳に頼ってた彼女が。
「それよりも会えて嬉しいよ、アメリアさん」
「今はメリアよ」
「?」
理解が及ばぬ僕に、彼女は偽のビザを差し出した。
そこにはメリア・カスターと書かれ、親族の欄に自分の名前が書かれてる。
今の自分はSランク探索者のアメリア・カスターではなく、その親戚筋のメリア・カスターの別人だ、と言い出したのだ。
無理がある。一文字減らしただけじゃないか!
僕だってもう少し気を使ったぞ?
うん、一文字減らしただけだ。
この話は深く追求するのはやめよう。
「センパイもリコと偽名で活動してる。アタシも偽名で活動する。これで一緒」
「ああ、うん。それでSSランクダンジョンの方はどうするの?」
Sランクに至れる探索者なんてそれこそ貴重だろうに。
世界で今最も渇望される最高戦力があそんでて良いのか?
そう尋ねると。
「NNPのお陰で今はAでもSランクを倒せる。ベルトとステッキにはそれほどの価値がある! 力量差はもうそこまで開いてない」
「そうなんだ?」
「それとトールの開発したバトルウェーブ、あったでしょ」
「うん、アレね」
「センパイの開発したレシピの理解者が現れて、それの有用性を見出した錬金術師が今すごい勢いで増えてるの。センパイのアーカイブを何度も何度も焼き切れるまで見てたの。面白半分で見てた人は減ったけど、まだまだすごい人数が残ってたでしょ?」
ああ、告知なしで活動休止してたのに600万人もいてびっくりしたけどその原因はそう言った理由だったからか。
「そうなんだ」
「だからセンパイは凄い! それよりも後輩ちゃんは?」
「それを話すのはここじゃ少しな。中で話そう」
「センパイの部屋?」
「一応居候だから騒がないように」
「お邪魔します」
玄関の外での話を切り上げ、家の中を案内する。
「あらリコちゃん、お客様?」
「研究関連のお知り合い」
「まさか隠し子!?」
僕がフラスコを振る仕草をすると、何を思ったのか加奈さんがそんな事を口にした。いくらアメリアさんの見た目が幼くたってもこれでもれっきとしたレディ。
ギリギリ高校生に見られない僕と比べるのはあまりにも失礼だろう。
「そう、ヒジリの隠し子よー。パパに会いにきたの。ママがここの住所に行きなさいって渡してくれて」
「!?」
何故か加奈さんの悪ノリに乗ってきたアメリアさん。
興信所で貰った住所の案内を差し出し、加奈さんに渡す。
受け取った加奈さんはむむむ、とその紙に視線を落として次のインスピレーションを読み取ろうとする。
「そうなの。聖さんはウチのヒカリに隠れてそんなことを……こうしちゃいられないわ。今から家族会議よ!」
何を思ったか、カゲルさんや鏡花ちゃんを巻き込む方針にしたようだ。
この人、後輩以上に後輩の特性を持ってる! 黒いから気をつけろとはこういうことか? 悪ノリとサプライズを同時進行してくる非常に厄介なタイプだ。
放っておけばより被害は広まる一方、こうなったら僕の取れる手段は……
「えいや!」
ぽこん!
その話題を断ち切るべく悪ノリを始める二人の頭部にチョップをお見舞いした。
「きゃ、リコちゃんがご乱心よ」
「いやータスケテ」
二人して被害者面である。解せぬ。
「いい加減にしなさい。彼女はこう見えて30オーバー。アメリア・カスターさんだよ、米国のSランク探索者の」
「あら、あら……あらあらあらあら。まぁ、そうだったの。生前はヒカリがおせわになりました」
「生前? センパイ、どういう事?」
「どこから話せばいいのか、君の知る後輩ちゃん、望月ヒカリは一年前のハワイ島沖ダンジョン災害で命を落としてるんだ」
「ジョークにしても笑えないわ」
「だから、家の外じゃ話せなかったんだ。この家族はすでに受け入れて、次のステップに向かっている。僕もまた、彼女の意思を受け継いでいるんだ」
「後輩ちゃんが、そんなことになってるなんて知らなかった。じゃあ配信での後輩ちゃんは?」
そんな疑問を寄せるアメリアさんに、僕の頭上に鎮座するゲーミング猫耳をプレゼントする。
『はいはーい、いつでもどこでもニコニコサービス! ニャンニャンプラントの企画運営望月ヒカリでーーす!!!』
「なっ!! この声どこから聞こえて?」
僕は疑問符を浮かべるアメリアさんの頭上からゲーミング猫耳をむんず、と鷲掴みにして手元に持ってきた。
「これ、ヒカリなんだ」
『おっす、オラ望月ヒカリ。今後ともよろしく』
まだ若干アメリアさんの頭上に残ってるのか、白々しい挨拶を交わす後輩に、アメリアさんは目が点になった。
「後輩ちゃん!?」
『イエース。オフコース』
「その胡散臭い返しは後輩ちゃんだ!」
どんな認知のされ方されてるのやら。
「一応補足、彼女はダンジョン災害に巻き込まれ、ハワイ島住民諸共ダンジョンに飲まれた。生死不明とされてるが生存は限りなく絶望的だ。そこまではいい?」
「うん」
「でも僕は諦めきれなくて元の拠点にあった場所まで単独で探索した。そこでスライムにしては変に人間くさい個体と出会った」
「それが、この子?」
『イエース。オフコース。先輩の愛が種族の垣根を乗り越えて私を見つけてくれたんです!』
「と、この子によって多少脚色されてるが、こんなこと言い出すのも間違いなく……」
「後輩ちゃん!」
「そうだね。だから拾って飼ってる。僕は彼女がどうすれば人間に戻れるかを模索してて、配信どころじゃなかった」
「そうだったんだ……アタシ、そんなこと全然知らなくて」
「責めてる訳じゃない。知らなくても仕方ない。こんなこと発表した所で世間から目の敵にされるだけだ。だから身内には話した。話した上で協力してもらっている」
「はい、そうですよ。ヒカリちゃんともどもリコちゃんはうちの養子としてお預かりしてます。リコちゃんはウチの娘と一緒に高校に通っているの!」
「ハイスクール!」
僕の補足に加奈さんの返し。
アメリアさんは目を輝かせた。
「アタシも行く! センパイと一緒に登校する!」
うぅむ、これはどうしたものか。
どうやってお断りの言葉を返そうかと迷っていると……
「あら、じゃあ一緒に行く? メリアさんはそうね……ウチの遠縁の姪としましょう。というかやっぱりここは聖さんの隠し子としておきましょう」
「なんで!?」
なんでって……その方が面白いからよ。と小声で言ったのを僕は聞き逃さないからな?
「いいね、じぃじもどうにかしてセンパイと縁を持っておけって言ってた!」
「だからって既成事実を捏造してこいなんて言ってないと思うよ!?」
「もう、リコちゃん。お父さんのことが悪く言われたからって過剰反応しすぎよ」
「ファザー?」
「そう、この子は聖さんとヒカリちゃんの子供として養子に入れたの。今更一人増えた所でどうって事ないわ」
「あるよ! 僕の信用に関わる!」
「では聞くけど、36にもなって子供の一人もこさえてない男性が世間からどのように思われているか知ってらっしゃる?」
「ぐぁあああああああああ!!」
加奈さんの正論が僕に会心の一撃。僕のライフはもうゼロだよ。
「勝ったわ! 母は強し。という事で今日からあなたは望月家の槍込ファミリー養子組ね、メリアさん」
「わーい! じゃあリコとは姉妹?」
「腹違いの姉妹ということになるわね。聖さんたら女たらしなんだから!」
なんで僕が、こんなにダメージ受けてるの?
そもそも子供どころか張本人だよ。
クローンの方がなんぼか健全まであるぞ?
いっそ作るか? クローン。
そこで僕の理想の肉体を作ってやる。
パーフェクト槍込聖だ。俄然創作意欲が湧いてきたぞ!
「リコが燃えてる」
「お部屋はどうしようかしら?」
「リコちゃんと一緒でいいんじゃない?」
「でもリコ、ついてる」
「今のリコちゃんならついてないわよ」
「ついてない!?」
さっきからなんの会話してるのさ。
ついてるだのついてないだの。
僕が男だと困るみたいな前提じゃないか。
「センパイ、ついてないのか?」
「絶賛後輩に拉致されてる。鏡花ちゃん、この家の娘さんと一緒に暮らす前提条件がそれだ。そもそも、僕から手を出す訳ないだろ?」
「後輩ちゃん、拉致って何?」
『転送陣でその部分だけ現実世界から見えない、触れない状態です。あ、排泄はこちらで処理してますのでお気遣いなく』
「ほえー。女になったわけではない?」
「シンボルが消えて、男ではなくなったが、女にはなってないので無性って所」
「なるほど、じゃあ大丈夫か。リコ、アタシ寝相すごく悪い。だから一緒に寝ると蹴飛ばす危険性ある」
ああ、その時にはだけて勘違いされる可能性があると。
なら大丈夫だ。
「ベッドは僕たちの体には大きすぎるキングサイズ。そしてカチカチスライム君で手足を縛り付ける機能がついてる。解除法は誰かが塩を振るまで安息だ。ベッドだって頑丈だぞ? 安心しろ。君が暴れた所で寝室が破壊されることはない」
「本当か!」
表情がパッと明るくなる。
やっぱりそれが心配だったか。
でもその割には僕がついてるかついてないか非常に気にしてたがなんなのだろう?
「実はアタシ、男の人のを見るのって初めてで、多分見たら興奮しちゃって夜眠れなくなっちゃう」
「あらー」
「え、そんなことだったの? 自分で言うのもなんだが、僕に男らしさを求めるのは諦めた方がいい。後輩の策略で僕の肉体は非常に女性的だ。かろうじて生えてるが、それだけだからな」
「リコちゃん、自分で言ってて悲しくならない?」
「言わないで」
僕のライフはもうゼロよ……
それはさておき自室へ。リコ’s roomと提げられた扉の奥へ。
そこには女子の部屋とは思えない殺風景な室内。
質素なキングサイズのベッドの他に、研究テーブルに配信用機材がごっちゃごちゃごちゃ。
もし後輩が一緒にいたならもっと綺麗になってただろう。
所詮僕の限界はこんなものさ。
『スライムボディの私では人間と同じようにできませんからねー』
どうしても視野が狭くなるそうだ。
視線の高さも低いし、同じようにするには体積を増やすに限るが、人間と同じ体高になればなったで弊害もある。
それが面積をやたら食う。そして意識してないといろんなものを取り込んでしまう性質だから本体をここに置くのは迷惑をかけると分体を僕のそばに置いて、本体はカゲルさんの研究棟へと移していた。
だから部屋の掃除は僕の生業。
機械の類は音声アナウンスよろしく後輩が教えてくれるが、説明文が専門用語の羅列なのでお察しだ。
錬金術のことなら、ああアレねで即座にわかるんだが、どうも専門分野外はちんぷんかんぷんでいけないね。
「じゃあ、この場所もお名前を変えないとね。学校の方にも私の方からねじ込んでおくわ」
母は強しを地で行く加奈さんである。
僕のことに関わるなら異様な執着を見せる。
これで後輩と血が繋がってないのだから本当に理解できない。
なんだったら後輩と同等の素質を持ってたからってカゲルさんとお付き合いしてるのかも?
実質社長よりも秘書の方が実権握ってるパターンだ。
「これでアタシもリコと一緒に通学できる?」
「早くても来週からになるわね、ビザはいつまで持ちそう?」
「ビザなんてないぞ? これで来た」
そう言って掲げたのはSランク探索者用のビザ。実質他国に出入り自由な奴だ。
ダンジョン災害を受けて以降、世界中でSランク探索者の需要は高まってる。
そこでSランク探索者はダンジョンを沈める意味でなら出入り自由とした。
今の探索者は犯罪履歴があるとなれないことから、Sランクまで上り詰めたものには賞賛を贈る意味でのフリーパスだ。
「そう、なら要請があればすぐに発つのね」
「それを拒否できる権利もある。今の探索者は粒揃い。その粒が立つのも揃えられたのもセンパイの、槍込聖のおかげ」
「そう、なら卒業までは一緒にいられそうね」
なんかうまいこと丸め込んでるけど、働かないSランク探索者に価値はあるのか? だなんて思ってしまう僕はどこか擦れてるのだろうか?
まぁ秋生みたいなのがいる限り日本も安泰だが、つい最近ドラゴンが出たばかりだしな。
「ちなみに学校はドラゴン騒ぎで一週間休校だぞ」
「ドラゴン!? まぁジャパンにもドラゴンくらいはいるか」
「ちなみに赤ちゃんドラゴンなのにSSランクだった。僕の炸裂玉でなんとか倒したが、子供でアレならクイーンがいるだろうと考えてる」
「ドラゴンクイーン? 米国には出てないぞ?」
「うん、だから日本発祥のダンジョンから出たのではないかと言う話」
『ちなみに私はスライムクイーンです。エッヘン! ハワイ島出身ですよ!』
後輩の語りはアメリアさんにスルーされる。
どうせいつものジョークだと思われたらしい。
事実だけど、聞き返されないなら別に説明する必要もないか。
面倒なことになりそうだし。
「それで、後輩の能力を使って今回新たな実験を組み込んだサービスを始めた。これだ」
「カード! まだ米国に渡ってないぞ! 実装はよ!」
「今頑張って作ってるから待ってねー。で、このカード、実は後輩が獲得した固有スキルを載せて発動する!」
カードケースから一枚取り出し、そこへカードリーダーを通して僕に後輩の力が流れ込む。今僕に物理攻撃無効がついた。
「つまり?」
「僕はカードを用いなくても後輩の能力は使用可能だ」
「ならカードを介してたのは?」
「新しいサービスの宣伝とする為だ。何よりかっこいいだろ?」
「カッコいいか?」
「こう言うところだけリコちゃんは男の子よね」
僕は男の子だが?
むすっとした視線を向ければ、加奈さんにほっぺをムニっとされた。解せぬ。
そんなわけで僕とアメリアさんは一つ屋根の下で暮らすことになった。
「センパイ……むにゃむにゃ」
「ぐぅえー」
寝相の方は想定外にやばかった。
まさか寝技で首を絞めにくるとは、物理無効の効果がのってなかったら危なかったぜ。
なおカチカチスライム君ではどうにもならなかった。
きっとアメリアさんならダンジョンの壁すら破壊可能だと思う……ぐふ。
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