第41話 錬金先輩、情報共有をする
(それよりさ、後輩あのドラゴンを倒して何か固有スキル取れた?)
帰宅後、リビングにて後輩と脳内でおしゃべり。
まだ鏡花ちゃんは帰ってきておらず、カゲルさんの奥さんの加奈さん(同年代)と一緒にお茶しながらワイドショーを視聴している。
どこの局も概ねうちの学校の話題にかかりきりだ。
一部始終を知ってるので、今更興味湧かないんだよね。
と、言っても養ってもらってる関係上、お誘いを無碍にするわけにもいかないんだけどさ。
『あ、言い忘れてましたね。どうでもよかったので後回しにしてました』
確かにレベルアップやクイーンへの進化に比べたら、固有スキルなど取るに足らない感じか。
(まぁ一応聞いとかないとさ、僕が戦う時に使えるかどうかで困るし)
『そうですねー。単純にブレスです。あの個体は二つの首を持っていたので酸のブレスと毒のブレスを獲得しました』
へー。
(待って。酸と毒?)
『ええ。炎や氷もありましたが、そっちは取得しませんでした』
(取得? なんか初めて聞くセリフが)
もしかして後輩の固有スキルってポイント割り振りによる取得制だった?
通りで倒しても取得できない可能性があるわけだ。
まさか僕が使うために選んでたとは。もしかして僕に似合う、似合わない選定基準があったりなかったりするんだろうか?
後輩の事だからそこまでやってそうだ。
まさかスキルまでコーディネートされてるとは。なんでもありか!
いや、モンスター化してやれる幅が広がったら喜んでやりそうだな。
ついにそこまでできるようになった!
とか言って。
『言ってませんでしたっけ? 固有スキルを取得するには私の決定権を乗り越える必要があります』
(じゃあゴブリンを倒してスキルを取得しなかったのは?)
『大したスキル持ってないなーってスルーしました』
(なるほどね)
つまり取れるのに取らなかったわけか。
いや、取れる制限もあるのかもしれないし、全てを悪くいうのはやめようか。
彼女なりに役に立とうと思って行動してくれてるのだから。
『あ、そうそう。今まで作ってた分体ですが、クイーンになったお陰で自分で賄わなくてよくなくなりました!』
(と言うと?)
『他のダンジョンに住むスライム種を掌握したのでその子たちが絶滅しない限り私の体積は減りません』
(じゃあ? 実験は最終段階になる感じ?)
要約すれば探索者への提供が可能になるレベルかどうか。
餌を無償でもらい続けるのは申し訳ないので、転送陣を経由してのトレードを即時にするアレだ。
発行する前にこっちでいくつ判明したのかも擦り合わせる必要があるんだけど、どれを倒してどれを得たのか知ってるのは後輩くらいなんだよな。
僕は実際にカードに書いてある模様で判別してる。
剣のマークは物理攻撃UP。
盾のマークは物理防御力UP。
杖のマークは魔法攻撃力UP。
魔法陣のマークは魔法防御力UP。
ガラスが砕けたマークは物理防御力貫通系。
魔法陣が砕けたマークは魔法防御力貫通系。
みたいなさ、模様でわかりやすく教えてくれてる。
『私のお眼鏡にかなえば、ですけどね』
(ダメじゃん)
全モンスターの固有スキル計画は暗礁に座した。
だが逆にそこを利用して判明したスキル群を製作してもらった。
正直雑魚スキルが使えるようになっても、使用者は困るものな。
どのカードがどれから取れるのかを僕は探索者のリスナーと共有する義務がある。
ちなみに倒したモンスターのランクは後輩の捕食鑑定によって公にされる。
死後に悪事を暴露されるなんてモンスターも可哀想だなと思わなくもないが、まずは情報からだ。
<Fランク>
スライム【物理攻撃無効】
ラビット【敏捷+50】
バット【聴覚系スキル封印】
ウルフ【肉盾召喚】
水くらげ【貫通:防御力-100】
<Eランク>
眠り草【敵グループ全員睡眠】
スワンプクラブ【防御力+150】
お化けキノコ【スキル封印】
<Dランク>
メタルアント【貫通:防御力-200】
レッドローパー【貫通:防御力-300】
<Cランク>
ジャイアントラット【耐久+50の肉盾召喚】
ヘビークラブ【物理攻撃力+100のグループ攻撃】
<Bランク>
ワイバーン【30秒間浮遊】
ジャイアントボア【物理攻撃力100の体当たり】
<B+ランク>
レッドキャップ【物理攻撃力150の軍隊召喚】
<Aランク>
マッドクラブ【耐久+200の大群召喚】
<A+ランク>
ミノタウロス【物理攻撃力200のプレス】
<Sランク>
オルトロス【敵グループ全員、物理防御無視、10秒毎最大体力の1%減少】
<SSランク>
ベヒーモス【物理攻撃力300の体当たり】
炎【敵グループ全員に魔法攻撃力300の火属性魔法】
氷【敵グループ全員に魔法攻撃力300の氷属性魔法】
雷【敵グループ全員に魔法攻撃力300の雷属性魔法】
毒【敵グループ全員に物理・魔法防御無視、毎秒最大体力の5%減少】
酸【敵グループ全員に物理・魔法防御無視、武具破壊】
うーん、この。
なんと言うかブレス吐かれてたら普通に全滅もあり得てたのでは?
と言う結果が脳内に送り込まれた。
僕が後輩の固有スキルを好んで使うのは防御無視の系列だ。
アタック系が武器に依存するので弾丸とは相性悪いんだよね。
なので僕のキャノンモードが強いと言うよりは後輩の固有スキルが強いって感じだ。
『相手が空腹で助かりましたね。ブレスを使うのに相当な量のスタミナを使いますから』
(まぁこれだけ強ければ、連射はきかないか)
『その点、私の固有スキルは連射可能です。凄いでしょ!』
(はいはい、すごいすごい)
『もっと褒めてくれていいんですよ?』
(褒めてる褒めてる。僕が日々無事でいられるのは君のおかげだ)
「リコちゃん、心ここに在らずね。お茶のおかわりどう?」
「頂きます。ちょっとヒカリとお話ししてて」
「あらヒカリちゃんと? この猫耳に擬態してるのよね? 私もお話聞きたいわ〜」
僕の耳の上のスライムをモチョモチョさせる加奈さん。
後輩がカゲルさんと喧嘩してた時はよく仲裁に入ってくれてたそうだ。
めちゃくちゃお世話になってるのに、こんな姿で再会だなんて悲しすぎるよね。
『この人結構黒いので、先輩も気をつけてくださいね?』
(なるほど、同族嫌悪かな?)
『もぉおおおおお!』
図星なのか頭上の猫耳が黒から七色に変色する。
わぁお、ゲーミング猫耳だ。
「ヒカリちゃんはなんて?」
「加奈さんにはお世話になったので、お話しできないのは残念ですって」
「まああ……!」
なんだろう、この微笑んでいるのに一瞬圧が増した感じは。
お仕着せがましい望月家に嫁ぐ時点で偽装が得意とかあるのかな?
鏡花ちゃんからも似たような気配を感じたし。
「お母さん、ただいま! ヒカリちゃんも今日はご苦労様!」
「ぐえー」
発見するなりダイブされた。もうちょっと受け止める側の姿勢とか考えよう?
どう見ても僕の方が体格が小さいのでね、もうちょっと手心を加えてくれると嬉しいかなって。あと胸、顔面が苦しいから早く退けれ!
パンパンと背中をタップしてようやく僕の呼吸が危ういことに気がついてくれた。全く、この家はダンジョンよりヘビーだよ。
そして望月グループを巻き込む大事業が始まる。
もちろん巻き込む以上、カゲルさんも同席してもらう。
場所はリビング。夜食をいただきながら行った。
「それで、話というのは?」
「ヒカリの固有能力が実験段階から特定の能力に限り現場で使用可能になった事を発表させていただく」
「納得できんな。今まではヒカリの肉体を消耗させて使用していたのだろう? そこまでして私は資金稼ぎをしたいわけじゃない」
「あなた、何もそこまで感情的にならなくても……」
「そうよ、父さん。リコちゃんがそこまで無謀な計画を立てると思う? ヒカリ叔母様のことを何よりも大切にされてる方よ?」
それをわかっていながらちゃん付けをやめてくれないのはどうして……?
「む、むぅ……そうだが。私たちにも納得できるサービスなのだろうな?」
「それにつきましてはヒカリから」
僕は猫耳を頭から外し、テーブルに置く。
その猫耳が四つに分裂してそれぞれのテーブルの前に移動した。自力で。
僕がそれを頭に戻すのを確認してから鏡花ちゃん、加奈さんが猫耳を装着。
私もつけるのか!? みたいに一人たじろぐカゲルさん。
話進まないからちゃっちゃとつけて。
「む、これは……ヒカリか、ヒカリなのか!?」
『そうよー兄さん。鏡花ちゃんや加奈姉さんもお久しぶりね、望月ヒカリでっす』
ノリが軽い。久しぶりの会話だというのに後輩はどこまで行っても後輩だった。
人間形態だったらきっと渾身のドヤ顔を浴びせてる頃だろう。
僕はテレビをつけ、いまだに話題になってる学校の報道の話題に話を向ける。
食事中にテレビを見るなんてマナーが悪いにも程があるが、この事件と関係のある話なんだな、とすぐにお咎めなしとなる。
「さて、早速今回ヒカリが探索者向けサービスを行えることになった〝進化〟について本人を交えて意識のすり合わせをしようと思う。ヒカリ」
『はいはーい! では不肖わたくし望月ヒカリからお話しさせてもらいます。皆様のお耳を拝借』
「脳内に勝手に話しかけてるだろ、茶番はいいからさっさと本題に入れ」
『ぶー、兄さんノリ悪ーい』
いい年した大人の会話か、これが?
後輩にペースを握られ慣れてないのなら仕方ないか。
基本こんな感じだから諦めてもろて。
『まずはわたくしの現状とこれからについてですね。まずはみんなお察しの通り、私は精神を保ちながら肉体を失った。いわゆるモンスター化した人間です。どういうわけか精神が非常に安定してるのは私の欲求が破壊衝動より先輩を可愛くしたい方が優っちゃってたお陰ですね。よくモンスター化した人間は対象を傷つけるだなんて言いますが、そんなもの愛の力で覆せるんだ、と自負しております』
頭の上で猫耳がぴょんぴょん跳ねる。
「だとしたら、世間で噂されてるあれらの情報は?」
『嘘とも言い切れないのが非常に厄介なものでして』
「叔母様のリコちゃんへの愛が常識を上回った、という事ですわね?」
加奈さんの質問に、後輩が答え、その結論を鏡花ちゃんが答える。
すっごいキリッとした顔でなんの話してるの、君ら。
いや、後輩が僕のこと好きなのは今までの経験で嫌でもわかっちゃいるけどさ。
それっと僕を男として見てくれてのものなの?
そこがわからなくて、僕もどう扱っていいものか判断できないんだけど。
「で、だ。要約するに愛のパワーで自我を保てたヒカリはでもどうしたって人間の頃と同じ食事ができない。僕も一緒になって何を食べれるか探し回ったところ、モンスターのお肉が美味に感じたそうだ。調理はしないで死にたてほやほやの方が好みとも答えてくれた」
「それが今のサービスの根底にあると?」
カゲルさんが結論を急ぐようにテーブルを指で叩く。
「はい。最初こそはヒカリのご飯調達がメインでした。けどヒカリはモンスターを食べてるうちにそのモンスターの持つ固有スキルを獲得する術を得た」
「それをカードに転用したのが今の君が用いてるものか」
カゲルさんが僕の太ももに装着されたカードホルダーを指差し、奥さんと娘さんから白い目で見られた。
いい年したおじさんの太ももくらいで目くじら立てないであげて。
はい! 今のは僕が悪いでーす。
カゲルさんを救うためにもカードホルダーをテーブルの上に置いてカードを全員に見えるように並べた。
加奈さんが気を利かせて食事を片付けてくれる。
「これが、ヒカリちゃんの武器の一つなのですわね」
鏡花ちゃんが一枚拾い上げて光にかざして見せる。
別に透かしとか入ってないよ。薄く伸ばした後輩の分体がスキルのもとをいつでも放てるように待機状態になってるだけだね。
「これはこのままでは使えず、カードリーダーを通すことでリリースされる。からのカードには転送陣が仕込まれていて、投げるだけでモンスターの餌がヒカリの元に飛ばされる。そして餌に応じたスキルを返納するのが今回の事業の発端だ」
「なるほどな、それをワンオペで妹にやらせようと?」
「処理速度は人間の時の比ではありませんよ?」
『脳みそがないから疲れないのよー、兄さん。それとスライムってお食事するだけでレベルアップ! 疲れも吹っ飛ぶから人間の時と比べてすこぶる体調がいいわね! なんだったらずっとこのままでいいのだけど……それはそれで世間体が悪いのよ。だから兄さん、協力して! 私が先輩と一緒に行動できるようにして欲しいの!』
「お前がそこまで頼み込むんだったら認めてやらんでもない。だが、常にこれをつけた状態だと何かと面倒だ。もっとコンパクトになれないのか?」
カゲルさんは猫耳を電話の受話器が如く片耳に当てる。
するとシュルシュルとワイヤレスイヤホンの携帯になった。
「最初からできるのになぜやらない?」
『ぶー』
「まぁまぁ、彼女の気分もありますから。ですが言われなければわからないことも多いです。彼女の場合良かれと思ったことが行動に反映されやすいのも確か。ここら辺は人間の時より非常に顕著に現れてますね」
「実際にすぐに行動に移せるからこその弊害が出てると?」
「今までは一つのモノを作り上げるまでにどうしても時間がかかってました。それまでにいくらでも考える時間ができましたが……」
「それがなくなり即座に対応可能になった分、融通が利かないと?」
「融通が利かないのは大学で出会う前からです」
「…………続けろ」
どんな環境で育ったらああなるんだ? と視線で詰問したら、すぐに逸らされた。カゲルさんとしても現在進行形で頭痛の種らしい。
「まぁ、僕が察するに。ノータイムで作れちゃうから考える余地が生まれない。それを良しとするか悪しとするかです。研究者にとってはこの堂々巡りこそが本質。けど彼女はその先までが見えてしまう。羨ましいと思う以上にもったいないなと思ってしまいます」
「言わんとすることは分からんでもないが、君ほどの錬金熟練度持ちでもそう思うのか?」
「僕なんてまだようやくハイハイからあんよができるくらいのものですよ。ここからいろんなものを見渡す期間です」
「君の発言は世界中の錬金術師を侮辱したぞ?」
「僕以下の人間が吠えたところで痛くも痒くもないんで」
ニコッと微笑む。
こういう時、むさ苦しいおじさんだと非難が募るが、可愛い女の子だと肯定されるから凄いよな。
どんどん自分が男からかけ離れていくことに目を瞑ればだが。
「で、うちのグループでこのカードを制作して組合に流すだけでいいのか?」
「はい。最初こそはヒカリの餌を各方面から集めることが目的です。それとスライムの保管場所ですね」
「スライムの保管場所?」
「この事業は全国各地のスライムをヒカリが掌握することによって成り立つ事業です」
「そのスライムの保有量が少なくなったらどうなる?」
「倒される時点ではそうでもないんですが、数が減りすぎると事業が破綻します。だから倒されない保管場所が必要なのです。そして同時にそこはヒカリの個室としても使います」
「妹のための個室を作るという意味でなら同意しよう。しかし個室といっても室内の規模は?」
「東京ドーム三個分あれば十分かと」
絶句するカゲルさん。
まぁダンジョン一つ保有しろって言ってるようなもんだし、分からんでもない。
「一つにまとめる必要はなく、数があればあるほどいいと捉えてもいいか?」
「ここは一つ可愛い妹のためにもお願いします!」
『にいさーん、お♡ね♡が♡い♡』
「わかった、わかったから耳元でそんな甘ったるい言葉囁くな、ゾッとするわ!」
酷い言われようだ。だが、今までの仕打ちを思い返して見ても残当な判断だと思う。
という感じで組合にモンスターの死体回収用カードが配られた。
そしてどのモンスターを倒すとどんな効果を得られる一覧表を配信で開示すると、そこに現れたモンスターを見て絶句する世界中の探索者達。
まさか一介の研究者が単独でS〜SSランクまで仕留めていたとは思うまい。
案の定、炎上した。解せぬ。
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