第40話 錬金先輩、共闘する②
「敵の戦力は未知数だ。君達は後退して救助活動を、ここは僕が抑える」
『ゴルルル(いただきまーす)』
秋生が受け入れるよりも早く、二つ首ドラゴンが食いついてくる。
僕はホルスターから銃を引き抜いて後方に射撃。
銃弾が反射してドラゴンの鼻っ柱にたどり着く。
「転送」
バクン!
食いついた先に僕はおらず、代わりに口の中で大爆発が起きる。
『グルォオ(なぁに、これぇ!)』
「すごい! これなら!」
「なんでまだ居るの! 早く退がって!」
晶がドラゴンを圧倒する僕に勢いづくが、帰れって言ってるのにまるで帰ろうとしない。君たちがいると本気が出せないから困ってるのにさ。
「師匠! 僕達も戦えます」
「生徒は転送陣で送り返しました!」
「先生にも連絡済みですわ!」
「……全く。僕は君たちのことなんて知らないのに。あんまり足を引っ張らないでよ?」
拳銃を二挺かついで交差打ち。
ドラゴンはまるで怯んだ様子も見せずに食いついてくる。
そこへ秋生がカバー、晶の魔法がドラゴンの硬い鱗に弾かれた。
「うそ! 中威力のフレイムバーストよ!?」
「ドラゴン族は同種のブレスの耐性を持つ、こいつは炎のブレスを吐くんだろう、その調子で苦手な属性を探ってくれ」
「わかりました!」
晶はすぐに返事をして距離を取った。
共闘できると聞いて嬉しそうにしている。
「く、こいつ! 小さいのになんて重い攻撃だ!」
「力で受け止めようとするのはバカのやることだよ。種族の違いを見極めろ。君の頭は飾りか?」
「ぐっ、その通りです! 無理に受け切ろうとしてました!」
秋生は大きく下がり、盾を持ち替えた。
盾の裏側から取り出したベルトを腰に装着して叫ぶ。
「変身! メタル! チェイサー!」
漆黒に包まれた左半身は剛力系統のメタル。右半身は命中特化のチェイサーだ。
相性は非常に悪いと言えるが、今の僕は秋生がどんなバトルスタイルをしてるのか知らないので文句は言えない。
『先輩、ブレスきます!』
「散会、ブレスが来るぞーー!」
ゴォオオッ!!
転送バレットでドラゴンの背後に転移し、羽の付け根や首の付け根にカチカチスライムバレットを狙い撃つ。
当たっても対してダメージは与えられないが、このちょっとした違和感が相手のストレスを加速させるのだ。
「せぇい!」
盾を遠投の要領で投げつけ、その盾が横回転しながらブレスを吸収、エネルギーをチャージする。まじか、キングに渡してた盾をいつの間に秋生が入手なんて?
それともコーディがローディック師と結託して探索者向けに貸し出ししてた?
僕の知らないところでうまいこと商売しやがって。
ずるいぞ!
転送バレットで秋生達の元に戻れば、癒しの光が僕を包んだ。
「師匠、スタミナの回復を」
「ありがとう。けど師匠はやめて。本当に記憶がないんだ」
「それでも今の行動が無駄だとは思いません」
「そうだね。じゃあ頑張って少しでも時間稼ぎをしますか」
銃を胸の前で交差させる。
「──Ready」
待機音からエンジン音。
体にまとわりつく光は、魔法少女を更に二段階進化させるブーストモードだ。
本来なら友との友情や死を乗り越えることで手に入れる能力を、僕は初期段階で実装してる。ずるいって? 研究者の特権だよ、これは。
「go!」
銃を合体させて長距離砲モードに。
さらにカードホルダーから後輩の固有スキルを三つセット。
チャージなんて要らない。
「ぶちぬけぇ!」
反動を受けながら後方に吹っ飛び、二つ首ドラゴンの首の付け根を貫通する。
一本の首が床に落ち、もう一方がひどく怯えた様に僕を見る。
『ゴルルルァアアッ(痛いな、何するのさ!)』
「あれで死なないのか。タフだなぁ、んじゃあもう一丁」
『ゴルルォッ(タダでやられるもんかぁ!)』
「危ない、師匠!」
「なんで僕が近接苦手だと思うんだろうね。ホイッ」
大きく開けた口に炸裂玉を放り込む。
ついでとばかりにトドメのカチカチスライム君でドラゴンの口の中に縫い合わせる。
足場も地面に縫い付けてやれ。
「逃ぃいいげるんだよぉおおお!!」
笑顔で撤退を申告し、真っ先にダンジョンの入り口に向かう僕に置いていかれまいと普通に走ってくる秋生達。
チッ、そこは転送陣を使うところだろ?
内心舌打ちしながら大爆発を起こすダンジョンの向こう側を見やる。
フロアを二つ抜けた先、入り口にカチカチスライム君で作ったゲートを四重にに設置して凌ぐ。
いい加減死んでくれと思いながら爆発が止むのを待った。
秋生達は帰らないので仕方なくドラゴンの死体を確認する場に同席させる。
(後輩、チェック)
『死亡、確認。逆にこれで死んでなきゃどれだけの化け物かって思いますね』
(死んでくれてよかったよ。あれが効かなきゃ打つ手なしだった)
『では、ご飯のお時間ですねー、いただきまーす』
カードを一枚取り出し、ドラゴンに投げつける。
するとカードがドラゴンに刺さるなり、カードの色が変わっていく。
『お、これは随分と食べごたえがありますね。先輩にも味合わせてあげたいくらいです。んまーい!』
流石にモンスター肉を生で食す趣味はない。
モンスターならではの味覚で後輩がドラゴンを完食。
僕の手元に戻ってきた。
『あ、なんか今のレベルアップで私スライム種の中で一番になりました。クイーンですよ、クイーン』
(クイーンになると何かいい事あるの?)
王は別に居るのか? それとも人格が女性だからクイーンになるのか?
わからないことばかりだ。
『スライム種なら言うこと聞いてくれるみたいです!』
(一歩前進って奴か。取り敢えず今回のイレギュラーはこいつが原因か?)
『記憶を探る限りでは迷子っぽいです。お母さんがこっちに来ていると』
(ドラゴンのマザーが? だがそれっぽい存在は見かけてないのだろう?)
なんてこった。災いの元じゃないか。
いや、逆に言えば後輩もそれに近しい存在になったと言うことか?
ダンジョンは人類に何をさせようとしてるのか。
これがさっぱりわからない。
モンスターを用いて襲ってくる時点で友好的ではないしな。
『近くにいたらすぐにわかりますし、索敵かけておきますか?』
(そうしてくれ。じゃあ今回は解決って事で、奥の部屋は厳重に封印しとこう。天井に炸裂玉をぶら下げて、これでヨシ!)
「終わったんですか?」
「一応調査の方はね。このドラゴン、次からベビードラゴンと称すが、どうも母親と逸れた迷子の個体らしい。調査の結果、マザードラゴンが潜伏してるらしいので気をつけてほしいとのことだ」
「さっきのカードでそこまでのことがわかるんですか?」
痛いところを突く。こうなったら誤魔化してやれ。
「ああ、望月グループの最新技術だ。この技術を流用して、近い将来モンスターの固有スキルを武器に纏える様になる筈だ。僕はそのモンスター素材回収班を担っている。君達は? どうやら僕のお知り合いの様だけど」
近況報告も兼ねて改めて自己紹介。
秋生はあれからランクを着実にあげてBランク上位に至った様だ。
たった三年ですごい進歩だよ。
それに比べて僕なんて日に日におじさんらしさを無くしていってるもん。
ブースターモードを解除して、魔法少女モードを解く。
秋生達も元の学生服へと戻っていた。
ダンジョンをでて、避難経路を確保している先生に報告。
「先生! ドラゴンの赤ちゃんが迷い込んでいました」
「望月君が出向いてくれたか。しかしドラゴンベビーだと? となるとマザーが近くに存在するか」
クイーンの事かな? 多分、きっとそう。
「念の為にトラップを敷いてきましたが、学園ダンジョン側には来なくても、別のダンジョンに向かう危険性はあります。組合の方にご連絡を」
「わかった。成績優秀な君が言うのなら無視はできんな。君たちの噂も聞いているよ、大塚君に小早川君、清水君。君たちは非常に優秀な探索者だと聞く。うちのトップは望月君だが、君もウカウカしてられんな?」
だから僕も探索者になれって?
学校側が生徒の志望校を捻じ曲げるのもどうかと思うが。
「僕は別に探索者と言うわけじゃありませんよ? 彼らと比べるものでもありませんし」
「それが惜しいというのだ。君たちからも彼女を引き止めてくれないか?」
「師匠が探索者以外を望むなら、僕達は無理強いできませんよ」
「うむ、君達は望月君と面識があるのかね?」
この先生は何がなんでも僕を探索者に仕立て上げたい様だが、制約が多くて無理なんだよね。
後輩の進化を優先する都合上、組合の存在は邪魔だ。不自由でしかない。
だったらフリーの研究者の立場の方が色々掛け合えるし。
唯一の問題があるとすれば僕の見た目くらいか。
「彼女が中学時代に教えを受けました。先輩は僕達を覚えてなかったですが、僕たちにとってはかけがえのない思い出です」
「そうか、彼女は元々探索者だったのか。通りで筋がいい筈だ」
先生はうんうんと頷きながら秋生の思い出に耳を傾ける。
「と、報告は以上です。僕は望月家の一員としての使命をまっとうするのを優先してますし、彼らとのことは過去の事として受け止めてください。僕自身、あまり覚えてないのです」
「辛い過去を持っているのだったな。あまりほじくり返す必要もないだろう。改めて感謝する。日本の探索者の質も上がったが、まだまだ海外勢のSランクには大きく差をつけられるばかりだ」
「いつか僕たちがSランクになって見せますよ」
「ハハハ、その時を楽しみにしてるよ」
結局、無駄な時間ばかり使った。
気絶したクラスメイトは無事職員室で目を覚ました様だ。
僕はクラスに帰って猫耳しまい忘れてるよ、と指摘を受けて不貞寝した。
後輩が擬態してるので変身が解けてないわけじゃない。
すげー恥かいた。もー耳まで赤いじゃんこれー。
『可愛かったので、つい』
(ついじゃないんだよ、もう!)
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「行ったか?」
ダンジョンの壁の一部が崩れて、そこから現れたのは随分と体が縮んだアキラだった。
「さっきのは高校生くらいか? まさかうちの子と互角に戦える人間が残ってるとは」
ピンチはチャンス!
親として息子に勝って欲しい反面、勝ったら勝ったで連れ返されるかもぐもぐされる未来が見えるのでできる事ならいい感じに逃げ帰って欲しいとアキラは願う。
誰だって親は自分の子供が殺される場面を見たくないのだ。
愛情がない親なんていない。
ドラゴン族の愛情が人類とあまりにかけ離れすぎてて受け入れ難いだけだ。
「今のうちに……」
途中でつまみ食いしたトカゲにその姿を変化させ、そそくさと壁を歩いて距離をとる。
よし、出口だ。あそこにちょうどいい女生徒が居るな。
上手いこと移り変わって脱出してやる! ひゃあ、久しぶりのシャバだぁ!
……問題はどうやって注意を引くべきか。
万が一負けることはないと思うが、さっきの探索者の力を見るに案外この周辺の探索者の力は強いのか?
正直再生能力しか自慢できないアキラ。
騙し討ちで捕食してきた実績しかないので格上に勝てるかと言われたら難しい問題だ。
だが人間相手ならワンチャン……そう思って物陰からじっと対象を見つめるのだった。
「晶、どうかしたの?」
「さっきそこで誰かがこちらを覗いてた気がしたのよ」
「晶ちゃん、モテモテだねー」
「そんな感じの視線じゃなかったのよね。まるでモンスターのヘイトを取ったみたいなゾッとする感じ。今も首筋にまとわりついてるわ」
あまりに鋭い反応にアキラはびっくりして身を隠した。
近くに勘の鋭いものが居る。非常に厄介だ。
しかしあの少年、どこかで見たことがあるな。
遠い昔どこかで……どこだったか思い出せない記憶。
いっそこのままで表に出るか?
アキラはトカゲの尻尾を持つ児童の格好で前に出る。
スレンダーな格好だとすぐに息子達に捕捉されるので、十分に力を抑えた格好で油断させるのだ。狡い男である。
「……誰かそこに居るの?」
「誰?」
「やっ、来ないでぇ」
アキラの迫真の演技によって、うまく同情を誘うことに成功。
うまく油断させてガブリと行こうとしたところで、アキラすら思わぬことが起こる。
その首に隷属の首輪が嵌められたのだ。キツく、首輪が閉められる。
殺意に対して反応する様で、人間を取って食おうと言う気持ちを引っ込めると首輪本来のサイズへと緩んだ。
「えっ」
なんで?
信用してたのに騙された気持ちになりながらアキラは戸惑う。
なぜ騙せると思ったのか。
現在の世界情勢では元人間であろうとモンスター化した人間の救出方法はないと言われているからだ。
それで何人もの親友、家族が食い殺される事件が起きている。
秋生が慎重になるのは無理もないことだった。
なお、この首輪は組合からBランク上位者に預けられる品である。
見つけ次第確保して人類の味方で居させるための措置。
要は人類に敵対行動ができなくなるための枷でもあった。
「ごめんね、こうでもしないと君を助けられないんだ」
「やだ! これ取って!」
「そうだよね、だからこその首輪なんだ。君は今日から僕達の家族として生活してもらう事になる。たくさんお手伝いして、モンスター化したけど危険じゃないことをみんなに知ってもらってようやく安全性が獲得できるんだ」
「やだ!」
アキラのイヤイヤ攻撃に秋生は苦笑いする他ない。
人の造形を残していてもモンスター化した人類は気性がモンスターのソレに引っ張られる。食生活や、善悪の有無。今まで人間として培ってきた生活基盤が歪んだ存在、それがモンスター化の特徴でもあるのだ。
特に食事の好みがモンスター化する前とした後で大きく変わる。
普段の食生活よりも生の食感や血の有無、歯応えにこだわる様になり、食えば食うほど凶暴になる事から食事がレベルに依存してるのではないかと言われていた。
同時にモンスターも長く生きてる個体は非常に厄介だとも警告されている。
半端者のモンスター化人間でさえこの有様なのだ。純粋種であればどうなるか?
考えただけでゾッとする。
「これ、外してー! やー!」
「ごめんなさいね。今はこうでもしないと世間の目は貴女を悪いものと見るわ。モンスターに殺された遺族が多すぎるの。元人間であったとか関係ないの。モンスターだからと言うだけで殺すべきだって声も上がるの。これはそのための措置なのよ」
「でもこれやなのー」
ビエーンと泣きじゃくるアキラ。
コアの妻として振る舞っていた時、ここまで涙もろくなかった。
まるで精神が見た目に引っ張られるかの様な感情の発露にアキラは自分で自分が抑えられない。そして泣き疲れてそのまま寝てしまった。
これでは自分の理想の姿と大きくかけ離れる。しかし精神と肉体的疲労をこの体が受け止めるにはあまりに容量が大きすぎた。
「寝ちゃったわ」
「よほど疲れてたんだろう。僕達が見つけなかったら餓死してたかもしれない」
「本当に保護するの?」
「もし師匠が居たら、きっと見捨てないと思うんだ」
「それを育ててこそ優秀な探索者だって言いそうだわ」
「そうですね。四人目の育成も考えないといけないし」
「振られちゃいましたものね」
聖夜リコ、もとい望月リコの勧誘を失敗したことにより、チャレンジャーは新たなメンバーを迎えるための勧誘手段を考えていた。
もとよりバランスなど度外視。ここに新たにガンナーを迎え入れる前提での熟練度上げ。しかし本人から振られてしまって途方に暮れている三人に新たな希望が舞い込んだ。
元々バランスなどあってないようなもの。
じゃあそれぞれが四人目に合わせて動けばいいのだ。
「問題はこの子を誰と一緒に住まわせるかだ。僕は寮暮らしだし」
「なら私がお世話しますわ。実家にいますし送り迎えも専用のハイヤーです。表に出ることもありません。ですがその前に一度組合で手続きをいたしましょう?」
「それがいいかもね。なんならその活動費を配信で稼ぐのはどう?」
「今更か?」
母親のことで懲りたと言わんばかりの秋生に、優希はちっちっちと指を振る。
「あれは管理を当事者以外に任せた結果よ。秋生のおばさま、こっちの業界にあまり詳しくなかったのでしょう?」
「まぁな。僕の応援ぐらいしかしてなかったと思う。当時の僕は生きることで精一杯だったし、年齢的に登録ができなかった。配信そのものは師匠が実験として僕のお小遣い稼ぎくらいに考えてたからね」
「だから今度は私達が師匠の立場になって、この子の養育費を稼ぐと言うのはどうかしら?」
「モンスター化人類を主軸に?」
「クレームとかきそうだわ。モンスター死すべし! って人は意外と多いわよ?」
「いっそ先輩チャンネルの模倣としてつけ角、つけ尻尾で行く方向でどうでしょう?」
「うまく行くかなぁ?」
「当初はマイナス感情が大きいでしょうが、なぁに、先人がいます。先輩の真似をさせてうまく軌道修正をしましょう」
優希は何か考え事があるようだ。
秋生達は今は優希に任せようと一度組合に戻ってから解散した。
流石にこんなことが起こった直後に授業なんてやってられずに自宅待機命令が下されるた。
…………
………
……
「はっ、ここは!」
「あら、目が覚めましたかクララ」
「くらら、誰?」
「貴女のお名前ですよ」
寝起きのアキラが脊髄反射で受け答えすると、自分が寝ている間に何をされたのか、姿見を目の前に持ってこられて判明する。
「ぐぅううえええええ!!」
バターン!
それは今までのTSメスドラゴン生活史上、最も恥ずかしい格好だった。
黄色を基調としたふりふりつきのレースのドレスに、装飾過多なアクセサリーの数々。
まるで趣味の悪い着せ替え人形のようだと叫びながら思った。
「あら、叫ぶほど嬉しかったかしら?」
「いやーー、これやーだー」
ついには泣き出してしまうアキラもといクララ。
残念だが自由を放棄し他人に依存する道を選んだ時点で選択権などないのだ。
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