第二十五話

 綾瀬の店でバイトを始めてからの日々はあっという間だった。


 皿洗いからはじめて、レジ打ちを任され、今ではホールも手伝えるようになった。


 料理に関しては仕事終わりに少しだけ教えてもらっている。


 そんな日常を過ごしているともう、五月も終わりがみえてきた。


 今日も放課後は綾瀬の店でバイトだ。


 今日は何を教えてもらえるのかと足早に店に向かう。


「あ、お兄さん。こんばんわです。今日もお願いしますね」


 店に入ると皿をてんこ盛りに持った、七緒が声をかけてくれた。


「おお、すぐに着替えて手伝うな」


 俺は店の奥に行き着替えをしてから、ホールに出る。


 今日も凄いにぎわっていて、頑張りがいがありそうだ。


 ・・・・・・・・・・


「本当に、お兄さんて凄いですね」


 客の入りが落ち着いたタイミングで、七緒がそう声をかけてきた。


「え? そうか?」


「だって、バイト初めてなのに嫌がらずに毎日来てくださいますしね~」


 ニコニコと嬉しそうだ。


「まぁ、正直言うと家の家事との両立はしんどいけどな。でも、毎日楽しくて仕方ないんだよ」


「うぁ~、社畜ですね。この前のバイトの子なんて、昼間に急に消えたくらいなのに」


「そういえばそんなこともあったな」


 ほんの二週間前の事だが新人の子が何も言わないで昼間に消えて、その日に退職の電話が来たことがあったのを思い出す。


「あ、今私いいことを思いつきました」


 唐突にそう声を出して、キラキラした目を向けてくる。


 まぁ、七緒はいつもこんな調子だけど。


「どうしたんだ?」


 面倒な事じゃなければいいなと思いながら聞く。


「今はこうやって話すくらいの余裕ができたじゃないですか?」


「そうだな」


 バイトを始めて一ヶ月は本当に人手不足で、死にそうになりながらもがむしゃらに働いていた。


 今月の頭に新人の社員の人が一人とバイトの人が三人入って、だいぶ楽にはなっている。


「そこでなんですけど、お兄さんの家って近いんですよね?」


「ああ、十五分くらいかな? それがどうしたんだ?」


「その、あの、家の家事を手伝いに行ってもいいすか?」


 もじもじした後、俺の顔を見上げて不安そうに聞いてきた。


「え? いいのか?」


 俺としては断る理由はない。むしろすごい助かるくらいだ。


「はい、いつもお世話になっていますから。それくらいはさせてください」


 すごく嬉しそうに可愛らしい笑顔を浮かべて、そう言ってくれる。


「じゃぁ、明日にでも鍵を渡すから何時でも来てくれ」


「え? 鍵なんてもらっていいんですか?」


「ないとは入れないだろ?」


 何故か顔を赤くして、驚かれてしまう。


「はい、はい。いちゃいちゃしてないで、働く、働く」


 唐突に後ろから来たバイトの女の人にそう言われて、慌てて仕事に戻るのだった。


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