第十七話

「何だか今日は眠そうですね? 先輩」


 綾瀬での仕事もひと段落し、倉庫の整理を頼まれた俺の所に七緒がやって来た。


「悪い、顔に出ててか?」


 仕事中にそれは悪いことをしたなと、素直に謝ってそう聞く。


「いえ、それは大丈夫なんですが……。漫画作りが難航してますか?」


「今のところは、順調だな。実は朝まで和音と漫画を作っていてな。それで今日は寝てないんだよ」


「なんと! それで寝不足とは贅沢ですな~」


 七緒はオタクのような口調で、ニヤニヤとそう言ってくる。


「贅沢? どういう意味だ?」


 話しながらも仕事は止めずに、コーヒー豆のはいった袋を二人で奥に運ぶ。


「だって、美少女と朝チュンとか最高じゃないですか」


「いや、妹でそれはないな」


「うわ~。それ、和音には絶対に言わないでくださいね」


 ドンびいたように言われる。


「どうしてだ?」


「何でもです。よし、これで終わりですね」


 これで任された倉庫整理は終了だな。


「で、次は何をすればいいんだ?」


「後は明日の仕込みだけなので、先輩はもうあがって大丈夫ですよ」


 袖で汗を拭って笑顔を向けてくれる。


「そうか? じゃぁ、おつかれ」


 ここは言葉に甘えて、帰宅して早めに休ませてもらうか。


 ・・・・・・・・・・


「ただいま~」


 いつものように声を出しながら玄関のドアを開ける。


 何故かカレーの匂いが漂ってきた。


 その匂いにつられるように、リビングに向かう。


「あら、お疲れ様。葉山君」


 リビングのドアを開けると、なぜか生徒会長の天使さんがエプロン姿で、カレーのはいっているであろう鍋をかき混ぜていた。


「会長、どうして家に居るんですか?」


「和音に頼まれて用事できたの。ついでにご飯を作ろうと思って、勝手にキッチンを借りてるわ」


「そうだったんですね。そういえば、和音は部屋ですか?」


 リビングに姿がないのでそう聞いてみる。


「今は部屋で寝ているわ。今日は寝不足なのにずっと頑張っていたせいね」


 会長は火を止めて、幸せそうな顔でそう教えてくれた。


「それは、和音がご迷惑をおかけしました」


「迷惑なんてとんでもないわ。何時も助けてもらってるもの。さて、カレーが出来上がったから好きなタイミングで食べて?」


 エプロンを脱いで、テキパキと帰り支度をしながら言ってくる。


「あの、会長」


「何かしら?」


 リビングから出ていくところを呼び止めたら、顔だけを俺に向けて足を止めてくれた。


「食べていかないんですか?」


「迷惑じゃないのかしら? 作った後は手紙を残して帰るつもりだったのだけど」


「いや、時間があればでいいんですけど。もう少しお話がしたいので」


「ふふ、新手のナンパかしら? 時間は大丈夫よ」


 会長はそう言いながら、俺の方に歩いてくる。


「そ、そんなんじゃないです」


「ふふ、良い反応ね。じゃぁ、お言葉に甘えて食べていかせてもらうわ」


 甘えるも何もカレーを作ったのは会長なんだけどな……。


 甘えるも何も会長が作ったんですよと、ツッコミたいが声が出せないまま会長のぺ-スに飲まれてしまうのだった。

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