第十六話
巻頭カラーの話をもらった日から一週間ほどたったある日。
俺は和音の下着を見ていた。
いや、漁っているとかではなく。俺のネームが抽象すぎるからと種類を指定するための資料として、今朝手渡されたものだ。
どれだけあるんだ?
色は白、青、赤、黒。布の種類も普通のから、すべすべのものまで用意してくれていた。
もちろんこれらは新品である。
これが和音のお古なら、俺は警察のお世話になるだろう。
色とりどりの下着に付箋で種類の名前を書いてくれている。
「先輩~。籠っていないで、遊びましょうよ~」
「七緒……」
下着を持ったまま目があって固まる。
「……。和音~、先輩が下着をあさって盗んで、楽しんでますよー」
振り返って、大声でそんなことを言う。
「やめろ! 近所迷惑になる」
立ち上がって口を押さえようとしパンツを踏んでしまって、七緒の方に倒れてしまう。
「たた、にゃう!」
「痛、あれ柔らかい? 七緒、大丈夫か?」
クッションのような柔らかいものに視界を遮られながらも、七緒に声をかける。
「先輩、重いですよ~」
上の方から七緒の声が聞こえてきた。
「ああ、悪い」
その柔らかいものを掴みながら、起き上がろうと試みる。
「にゃ? ひゃ、先輩痛いです」
なぜか七緒が痛がりだす。
「すまん、すぐ退くから」
なんとか体を起こし掴んでいたものを見て、慌てて手を離す。
「いや~、大胆ですね~」
ニヤニヤとした顔でそう言てくる。
俺が掴んでいたのは七緒の胸だったのだ。
「本当にごめん。でも、これは勘違いだから」
そこから五分ほどかけて、俺は七緒に説明し納得してもらう。
この日は七緒と和音の三人でゲームをして過ごすのだった。
・・・・・・・・・・
「よし、できた」
朝から書いては消してを繰り返して、ようやく出来上がったネームを保存し一息つこうとリビングに移動する。
電気ケトルのスイッチを入れお茶の用意をして、ソファーに座った。
あれから完成し販売された巻頭カラーの評価を見て、俺は気が付いた。
いや、思い出したといたほうが正しいかもしれない。
和音の絵の人気が凄いのだ。
読者の評価の多くは和音の絵に対するもので、俺のシナリオは逆に悪い評価が多い。
シナリオを
描いてもらった感想に目を通していく。
この書かれている天月先生と言うのは、人気ラノベ作家で他の雑誌で漫画も描いてる凄い先生だ。
今の読者アンケートの人気は三位以内だが、和音の力と言っていいだろう。
もし、このまま俺の実力が上がらないなら和音のためにも引退すべきだろうな……。
「兄さん。眠れないんですか?」
突然声がして、声の方を見ると和音がリビングの入口に立っていた。
「いや、ネームを書いていただけだよ」
俺はそう返して、お茶を飲む。
「そうですか。それでそれはなんですか?」
和音はすぐそばに来て、俺の持っている紙を見てそう聞いてきた。
「アンケートの感想だよ。和音の絵凄い評価高いぞ」
「そうなんですか? 見せてください」
和音はそう言いながら、俺の手からアンケートを奪い取る。
そのまま目を通していき、びりびりと破き始めた。
「か、和音?」
俺は驚いた声を出してしまう。
「兄さんが朝から元気がない理由が分かりました。こんなことで悩んでいたんですね」
やぶった紙をゴミ箱に投げ入れて、機嫌悪そうに言ってきた。
「俺、そんなに元気なかったか?」
「はい、ありません」
きっぱりと言い切ってくる。
「でもそこに書いてる通りだと思うぞ? 和音がもっとメジャーになるには、俺よりもうまいシナリオを書ける人と組んだほうが良いと思うし」
「メジャーとかどうでもいいです。私は兄さんと漫画を作りたい、ただそれだけなんですよ? それとも、兄さんはただ売れる作品ができればそれだけでいいんですか?――」
和音の言葉を脳内で反芻していく。
そうだよな……。俺は売れる為とかじゃなくて、好きで書いてたんだもんな。
「で、どうなんですか?」
黙り込んだ俺に、答えを催促してくる。
「そうだな、ありがとう。俺は書きたいから書いているんだ。周りが何と言おうが和音が絵を描いてくれる限り、俺は話を作り続けるだけだ」
「そうですか。では、これからもよろしくお願いしますね? 兄さん」
俺の返答に和音は嬉しそうにそう言ってくれた。
その後俺達は日が昇るまで、漫画作りに没頭するのだった。
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