第七話
「……なかなか面白いプロトだと思います。この方向で詰めていきましょう」
「ありがとうございます」
肉屋のコロッケを堪能した俺は、早速書いたプロトを文月さんに送った。
するとすぐに電話が着て、読んで感想をくれたのだ。
和音は今日買った漫画を読んで部屋でキャラ作りをしている。
「兄さん! 起きていますよね? おとなしく出てきてください」
電話を終えて一息ついていると激しくドアがノックされて、怒った和音の声が聞こえてきた。
「どうした?」
声をかけながらドアを開けると、なだれ込むように入ってきた。
「変態、変態。なんてものを読ませるんですか⁉」
そう言って、手に持っていたものを俺の顔に投げつけてくる。
「おわっ、痛。なに? 雑誌?」
床に落ちたものを拾う。
表を向けて声を詰まらせる。
その本の表紙は「お兄ちゃん、大好き」と書かれていて、半裸のに二次元の女の子が描かれていた。
「私にこんなのを読ませて、どういう神経をしているんですか? バカなんですか?」
和音の罵倒が続く。
「ち、違う。俺は買っていない! 鶯さんのいたずらだ」
俺は雑誌を持ったまま、弁解をする。
「本当ですか? そんなことを言って、私の事をそんなふうに見てたりして……」
「ないない。妹にそんな感情ありえ――へぶし!」
言い切る前に和音の蹴りがわき腹を抉って、膝をついて倒れてしまう。
「バーカ」
和音はそう言い捨てて、雑誌を拾い上げて去っていった。
・・・・・・・・・・
「あの……兄さん」
昨日の事件から一夜明けて、朝食の時間も夕食の間も一言も話さなかった和音が、リビングでテレビを見ていた俺にようやく話しかけてくれた。
「ど、どうした? デザートなら冷蔵庫にプリンがあるぞ?」
機嫌を取れないかと帰りに買っておいたのだ。
「ありがとうございます。そうではなく、見てほしいものがあるんですが……」
「どうしたんだ? 別に今は暇だから大丈夫だぞ」
和音は「待っていてください」と言ってリビングから出ていき、二階に上がっていく足音が聞こえてくる。
少しして、桜色のクリアファイルを持って戻ってきた。
「それは?」
「昨日読ませていただいた漫画と、兄さんの書きたい方向性からキャラクターを作ってみました」
手渡してもらったクリアファイルから紙を三枚取り出して、上から順番に見ていく。
一枚目の紙には幼なじみと書かれている。
髪はショートでボーイッシュな見た目に仕上がっていて、八重歯をのぞかせている立ち姿が描かれていた。
「うん、完璧に思い描いたとおり……。いや、それ以上のできだよ」
「それは良かったです。次はどうですか?」
淡々と言いつつもどこか安心した様子で、次の絵を見るように言ってくる。
次はメインヒロインのようだ。
長い金色の髪に青い瞳、俺が求めていたイギリス系のヒロインがそこには描かれていた。
「凄い、もう話を書きたくてしょうがなくなるよ。でも、俺が書いたネームは今のところ二人のはずなんだけど……。どうして三枚あるんだ?」
昨日に話の流れとヒロインとして、幼なじみとイギリス系の女の子が登場する事しか言ってなかったはずなんだけど……。
三枚目の紙には妹と書かれていて、ピンク色のポニーテール姿の無邪気に笑った女の子が描かれていた。
「その、メインヒロインが一年下という事だったので、妹キャラを描いてみました」
なるほど、よく分かっているな。
俺もヒロインとの共通のつながりか出会いのきっかけに悩んでいたが、妹を出せばそれは解決できる。
幼なじみとキャラがかぶらないように気をつければ、凄いいい話ができそうだ。
「うん、すごくいい。いい提案をありがとう。今日、明日で漫画を作ってみよう」
「ありがとうございます。では、ネームができたら、渡してください。描いてきますので」
「了解だ」
それから俺達は休日を使い果たして、漫画の第一話を完成させる。
月曜日は生徒会の仕事があると和音が言ったので、火曜日に二人で文月さんと会う約束を取り付けて、放課後にワンストップの会社に行くことにした。
・・・・・・・・・・
「また来ましたね」
「まぁ、これからも行くことになるだろ。俺達は所属してるわけだし」
「でも、二人で来る必要はないと思うんですけど? 呼ばれているならともかくですが……」
ビルの前で和音が俺の方を見て、そう言ってくる。
「いや、ほら、あれだよ」
俺はてんぱってしまう。
「何ですか? 兄さん?」
不思議そうに聞いてくる。
「……心配だからだよ」
照れた顔を見られたくないので、そっぽを向いてそうもらす。
「兄さん。過保護ですね」
どこか弾んだ声でそう言って、俺を置いて会社の中に入っていく。
「あ、待ってくれよ」
俺もあわてて、後に続いて中に入る。
受付を済ませて、文月さんが待つ会議室に向かう。
「お越しいただきありがとうございます」
扉をノックするとドアを開けて、文月さんが出迎えてくれる。
中に入り和音と横並びに座って、向かいに座る文月さんに持ってきた原稿を手渡す。
「拝見します……」
文月さんが原稿に目を通していく。
俺は緊張しながら、表情を窺う。
和音は用意してもらったお茶を飲みながら、落ち着いた様子で評価を待っているようだ。
十分ほどで原稿から顔を上げて、俺の方に視線を向ける。
「どうでしたか?」
「とても初めてとは思えませんね……。内容はテンポよく、作画も男性好みに描けてると思います。ただ……」
俺が「ただ? 何ですか?」と先を促すと確認するように和花の方を見て……。
「パンツが足りない気がします」
眼鏡を光らせて、真顔でそう言ってきた。
「パンツですか?」
怪訝そうな顔で、和音がそう聞き返す。
「はい、この話は男性がメインターゲットなのでそう言う描写は多く入れるべきかと」
確かにその通りだと俺は言われて気付いた。
今の原稿だと冒頭の着替えのシーン以外にそう言った描写は描かれていない。
「でも、兄さんが貸してくれた漫画にはそう言った描写は少なかったはずですが……」
俺の方を見て、確認してくる。
「悪い、俺のミスだ」
素直に謝って、頭を下げた。
和音に遠慮して、ひかめな漫画しか渡さなかったからだ。
「いえ、攻めているわけではなく質問してるんですが――」
和音がしゅんとしてうつむいてしまう。
「それで、描いたらよくなるんですか?」
和音は顔を上げて、不思議そうに俺達を見ながら聞いてきた。
「なりますね」
「なるな」
文月さんとほぼ同時に答える。
「期限まであまりありませんが、できれば取り入れてくれませんか?」
「分かりました」
和音はそう返事をしてメモを取っていた。
その後は、俺の原稿の追加すべきところを聞いて、その日は解散となった。
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