第六話

 金曜日、俺は信じられないことに学校の正門で和音を待っていた。


 今朝、買い物に付き合って欲しいと言われたのだ。


「まだかな……」


 授業が終わったら、正門で待ち合わせと言われたので足早に来たのだが、和音の姿は見当たらない。


 そこから五分ほどし校舎の方から和音の声がして、足音が近づいてくる。


「はぁっ。お、お待たせしました、兄さん」


 走ってきたのか息を整えてから、頭を下げてきた。


「いや、俺も来たところだし……。時間を決めてなかったんだから、気にすることないぞ」


「はぅぅっ。それでは、行きましょうか」


 何故か顔を背けて、先に歩き出す。


「待ってくれ、どこに向かうんだ?」


 後ろについて行きながら、話しかける。


 そもそもまだ何を買うのか教えてもらっていない。


「えっと、本屋に行きます。兄さんのお勧めや、描く系統の漫画のリサーチです」


「それなら、商店街の方に行こう」


 駅前に行こうとした和音を呼び止めて、そう提案する。


「え? 分かりました。兄さんのお勧めの場所に行きましょう」


 商店街にある本屋を目指して、俺達は歩き出す。


 商店街にある本屋は個人が経営しているこじんまりした本屋だ。


 お肉屋さんやチェーン店のドラックストアなどを横目に進み、目的の本屋の前にたどり着く。


 店先はいつものように週刊誌などの発売されたばかりの雑誌が置かれている。


「いらっしゃい。おや、和樹君。好みの作品が入荷しているぞ」


 店に入ると、本の整理をしていた八十は超えてそうな店主のうぐいすさんが俺を見て、声をかけてきた。


「それは、また一人の時に見させてもらいます」


「む? おや、今日は彼女を連れてきたのか。どうも、店主の鶯じゃよ」


「はうぅぅぅ、違います、まだ…………」


 今、まだって言わなかったか? まぁ、気のせいだよな。


「妹です。今日は一緒に漫画を見に来ました」


「ほう、妹さんか。可愛いのう」


 じーっと、和音を見てきたので前に何となく立つ。


「兄さん? 私、少し店を見て回ってもいいですか?」


 辺りに興味深げに視線をさまよわせていた和音が、そう言ってきた。


「ああ、いいぞ。少し、鶯さんと話したら向かうな」


「はい」


 和音はそう言って、離れていく。


「なぜ遮る?」


「何となくです。そんなことをしていると余計にお客さんが減りますよ?」


 最初に和音が行こうとした駅前のショッピングモールの中の本屋の影響で、この本屋にはあまり客が入らなくなっている。


 それでもコアな漫画などがあるため、俺はよく利用しているのだ。


「余計なお世話じゃ、このシスコンめが……。ところで、妹さんが大変じゃぞ?」


 そう言われて、和音が向かった方に視線を向けると、和音が本を手に持ったまま湯気を出していた。


「和音どうしたんだ?」


 声をかけながら近寄ると、手に持った本が視界に入って固まる。


「に、に、に兄さん、はだ、裸」


 そこまで声に出して、ボッと真っ赤になって煙を出す。


「わぁぁぁ、和音しっかりしろ」


 倒れそうになった和音を抱きとめて、手に持った本を棚に戻す。


 辺りを見るとここは成人コーナーのようだ。


「こらこら、学生は入っちゃいかんぞ」


 鶯さんが笑いながら言ってくる。


「気づいていたなら、止めてくださいよ」


「ほっほっほ」


 鶯さんは笑いながらレジの方に行ってしまう。


「はっ兄さん? どうして私を抱きしめて……」


「気が付いたか……。足を滑らせたんだよ」


 憶えていないようなので、適当にごまかす。


「そうでしたか……。あの、ありがとうございます。もう、離しても大丈夫です」


 そう言われて、まだ抱きしめたままなことに気が付く。


「わ、悪い」


「いえ、私はずっとこのままでも……。そ、それよりも漫画を見ましょう」


「そうだな、漫画はこっちだぞ」


 和音の手を掴んで、成人コーナーを脱出する。


「兄さん、こんなに漫画ってあるんですね」


「もっとあるけど……。俺達が書こうとしてるやつだと、この辺りを押さえておけば大丈夫かな?」


 漫画の並んだ棚から、アニメ化された作品や今から伸びそうな作品を指さしていく。


「へぇ、なるほど……。ではこれを買いましょう」


「そうだな、これは俺も持ってないし買うか」


「そう言えば兄さんも漫画を持っているんですよね?」


「ああ、少しだけどな」


 あぶない、きわどいのを持っているのがばれたら殺されかねない。


 和音は気にした様子もなく、漫画を手に取っていく。


 そのまま俺達はその漫画を買って、本屋を後にした。


「さて、兄さん。夕ご飯はどうしますか?」


「そうだな……。久しぶりにコロッケでも買って帰るか?」


 料理を作れるようになるまではよく利用していた、お肉屋さんが見えたのでそう提案する。


「いいですね! たまにはそういうのも」


 よかった、嫌がってはないな。


 俺達はお肉屋さんに向けて、歩き出した。











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