ぐちゃぐちゃだった心の空模様が

「すかとろ?」


「スカパラっ! 東京スカパラダイス! どうしたらそんな聞き間違い出来るのよ!」


 同僚の陽菜が笑いながら怒る人の顔で言った。

 最近、竹中直人さんでさえやらないのに。


「それに私たちが今どこにいるかわかってる?」


 私たちは会社のお昼休みにCoCo壱番屋にいた。

「ゼッタイここで口にしたらいけないワードでしょうがっ!」


 たしかにその通りだ。

 ココイチベジカレーの前で、言うべきワードではなかった。


 取り返しのつかないことをしてしまった。

 頭の中がぐちゃぐちゃになった。


 私たちはサブスクで最近どんな音楽を聴いてるか話していたのだ。


「まあいいわ。今日みさき誕生日でしょ。私これから取り引き先に行って直帰するから、これ渡しとくね」


 渡されたのは並ばないと買えない有名店のケーキの箱だ。


「ありがとう陽菜ちゃん」

「食べたら感想聞かせてね。私もまだ食べてないから」


 取引先に向かう陽菜とCoCo壱の前で別れて、会社に戻る途中、角を曲がって来た人とぶつかって、ケーキの箱を落としてしまった。


 だめだ、これでケーキもぐちゃぐちゃだ。


 私はぶつかった人を見た。

 えっ、私の憧れてる水月先輩だ。

「ごめん、なんか落としたよね」

「ええ、私誕生日なんで、同僚がケーキをくれて」

「俺とぶつかったせいで、ごめんな」

「いえいえ、そんな」

「お詫びに何かプレゼントさせてくれない? せっかくの誕生日だし」

「ほ、ほ、ほ、ほ、」

「笑ったの?」

 私は思いっ切り首を振って、

「ほ、本当ですか?」

「うん」

「先輩のデスクに置いてある、あのガラス製の小物が欲しいです」

「ストームグラスね。天気によって結晶が動いて、中のガラスの山が霞んで見えたり、晴れてすっきり見えたりするんだ」

「そうなんですか!」

「あれ近くの雑貨屋で売ってるから、帰りにでも一緒に買いに行こうか」

「はい」

 ぐちゃぐちゃだった心の空模様が、綺麗に晴れ渡った気がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る