第5話 魂は分かれて。
「何を……言ってるんだ? 意味が分からない」
「意味が分からないことはないだろう? そのままの意味さ。今も言ったように、その本には成功病で早死にする人間の名前が書いてあるというだけなんだ」
「成功病なんて、そんなもの……」
「ある訳が無い、と言いたいのか?」
青波の声に被せるようにしてシャルが言う。
「じゃあ有名になった人物が比較的早死になのは何故だ? 一人や二人ならば偶然で済ますことも可能だろうが……この国では年間に一体何人の成功者が早くに亡くなっていると思ってる? 学生ならば社会科の授業で統計データの閲覧ぐらいしたことがあるだろう? そもそも多数の人間が死んでいなければ、成功病だなんて大層な名前がつけられたりはしない」
捲し立てるように喋るシャルを前にして、青波は言葉が喉につっかかって出てこない。本を持った手にじっとりと汗をかいている。
目を伏せたままシャルの声を頭の中で咀嚼する。確かにこの国では有名人になればなるほど早死にする割合は高い。それは統計上でも明らかだ。シャルが言っている事が本当なのだとしたら、この本に名前が書かれている光輝は……長生きしないということになる。
そんな事、にわかには信じられなかった。成功病なんか都市伝説のようなものだと心のどこかで思っていた自分がいたのだ。
そもそも、どうしてそんな事が起こっているのか。シャルと名乗るこの男は自分のことを
成功したら死ぬという仕組み自体が、青波には理解できない。ただ一つ確かなことは、自分は開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったかもしれないということだった。
「なんで……」
「ん?」
「なんで成功した人が……早く死なないといけないんだ」
「ふむ……それは少し順序が違うな」
「順序?」
「ああ、順序さ。成功したから早く死ぬんじゃない。もともと早く死ぬと約束された人間が成功しているんだ」
シャルは言いながら右手をスッと顔の前に掲げる。すると、青波の手の中に納まっていた本がまるで意志を持ったように青波の手から逃れて、一直線にシャルの手に納まった。魔法さながらのその能力に、青波はまた後ずさる。
本を持った手とは逆の手をシャルが指揮をするかのように動かせば、本のページがひとりでに捲れる。ある程度捲れたところでピタリと止めれば、そのページを改めて青波に見せつけるように向け直す。
「青波、安心していい。君が大切だと認識している人間で名前が載っているのは、新庄光輝ただ一人だ。
一度も口に出した覚えのない澄花の名前まで知っている。ここに来て男の存在がいよいよ人間ではないということが現実味を帯びてきた。
……ならばワールドルーラーとはなんなのか。
人の寿命に関与できるなんて、そんなのまるで……
「あんた、」
「ん?」
「神様か、何かなのか」
「……先ほども言ったはずだが? 私はワールドルーラーだと」
「なんなんだよ、それ……」
苛立ちを含んだ声で言えば、シャルが「ふーむ、知能の低い人間にはこの説明じゃ足りないか」と言いながら顎に手を当てる。その際、手に持っていたはずの本が宙に浮いていても最早驚かなかった。
「話せば長くなる、とりあえず座り給えよ」
言いながらシャルが指をパチンと鳴らす。
すると、どこからともなく一人掛け用のソファが青波の背後に現れた。こつんと膝裏に布生地が当たった感覚に振り返ると、シャルが座っていたのと同じようなソファだ。視線をもう一度前に向けると、シャルも先ほどのソファを呼び寄せ、既に目の前で足を組んで座っていた。どうぞ、というように右手で合図され、青波は一度ため息をついてからソファに腰を落ち着かせる。
座ったソファの感覚は柔らかく、それでいて背もたれはちょどいい具合の硬さだ。それが余計にでもこの出来事が夢ではないと言い聞かせてくるように感じる。
「さて、佐伯青波。君がここにたどり着いたのは他でもない、必然だ。ゆえに君の疑問を解消することに協力しよう。まずは……ワールドルーラーとは何かを君は知りたがっているようだな」
肯定の代わりにジッとシャルを見据える。
シャルもまた、ニッと口角を上げて話し始めた。
「まず断っておくが、ワールドルーラーは神ではない。神は私より上の存在だ。ではワールドルーラーとは何か? という話に戻ってくるが……ふむ、人間にもわかるように言えば、神から指名されてこの世界のバランスを保っているとでも言うべきか」
「世界のバランス……?」
「青波、君は恐竜がなぜ絶滅したか理解しているか?」
突然そんなことを振られて、青波は首を横に振る。確か気が遠くなるほど大昔に隕石が地球に衝突した衝撃で絶滅したという話だった気がするが、なんとなくシャルが求めている答えはこれではない気がしたからだ。
「簡単な話だよ。彼らは増えすぎたんだ」
「…………」
「あの時代、生物最強は間違いなく恐竜達だった。彼らはそれゆえに他の生命を淘汰し、いつの間にか増えすぎた。聞いたことがあるだろう? ある一定の生物が増えすぎると自然と抑制の力が働いて、その生物の数を減らして地球のバランスを保とうとする……密度効果というやつさ」
「人間の数が多いということ? ……でも二一〇〇年頃の核戦争のせいで、人間の数はかなり減ったはずじゃないか。新日本の人口だって、今じゃ四千万人程度しかいない」
青波が反論すれば、シャルが指を左右に振って「ノンノン、そうじゃあない」と続ける。
「いいかい? そもそもの前提が違うのさ。核戦争が起きる前の人口が在り得ないくらい多くて、減った今がようやくここまで減ったレベルということだ」
「……は?」
「つまりだな、昔に比べると現代で確かに人間の数は減っただろうが、それでもまだまだ人間は地球からすれば多すぎるということだ。多すぎるからバランスを保つ必要がある。ようやくここでワールドルーラーである私の出番になってくるわけだが……これが中々難しくてな」
シャルが肩をすくめて見せる。難しいと発言しつつも、困っているようには見えなかった。
「そこで私は考えたんだ。成功する人間とそうじゃない人間、この二種類で寿命に差をつけようと」
顔の前に右手を持ってきて、ピースををするように指を二本立てて見せる。
「隣の芝生は青く見える……というな。成功する人間に対してそうじゃない人間は憧れの眼差しを向けたり、もしくは嫉妬の眼差しを向けるだろう? まぁともかく、だ。成功する人間はそうじゃない人間達よりもカースト的には上にいると言っていい。良い思いをする機会も多いだろう。だからこそ、だ」
言いながらシャルは二本指の内、片方の指を半分だけ隠すように反対の手で握りこんだ。
「良い思いをすることの多い成功者の寿命は、その分短くてもいい。ゆえにその魂を半分貰っている」
「……待って」
「んん?」
「さっきあんたは、順番が違うと俺に言った。成功した人間が早死になんじゃなくて、早く死ぬと約束された人間が成功しているって……今の話だと、やっぱり前者じゃないか」
気に入らないといった風に青波は食い下がる。今の言い方だとまるで「いい思いをするのだから半分魂を奪って早死させている」という風にしか聞こえない。
「まぁ待ちたまえよ」
やれやれといった風にシャルが続ける。
「話は最後まで聞くものだ。確かに魂を半分貰って寿命をその分短くしていることは否定しない。だが重要なのはそのタイミングだ」
「タイミング、だって?」
「そう、タイミング。最初にも言ったが成功したから早死にするんじゃあない……と言うことは、だ。成功する人間は最初からそれが決まっていて、生まれた瞬間には魂が既に半分の状態だってことさ」
「生まれた瞬間……? なんで、そんな早くから……」
魂が半分の状態なんて、改めて咀嚼してみれば恐ろしい言葉だ。要するに寿命が半分になってしまっている状態で生まれて来るということであり、仮に成功者になると言えど普通の半分しか生きられない――
「――いや、でも待ってよ」
「なんだい?」
引っかかった言葉を思わずそのままシャルに投げる。
「仮に今から生まれる人間の中から成功者にするべき人を選んで魂を半分奪ったとする。だけど、その半分の魂になった人間が絶対成功するなんて保証はないじゃないか。そうじゃない人間になってしまったらどうするんだ。寿命が半分しかない上に成功も出来ないなんてそんな……」
「ふーむ、なるほど。いかにも人間らしい心配だ」
本人にはそのつもりはないのだろうが、なんだか挑発されたような気持ちになってしまう。反抗するようにジッと睨んだ青波の視線を受けても、シャルはまたどこか愉快そうに目元で笑う。
「そうじゃない人間には、ならない。魂が半分になった人間は成功を約束されるんだ」
「何を根拠に」
「根拠? 根拠ならあるさ。なぜなら成功者から奪う半分の魂には……その人間が本来背負うはずだった負がすべて乗っかっているからだ」
「は?」
「理解できないかい? もっと嚙み砕いて言えばだな、成功者に残った半分の魂には可しかない。そして私が奪った残りの半分の魂にはその人間に訪れるはずだった負が全部含まれている。ようするに失敗の要素は全て半分の魂と共に体からなくなっている。結論付ければ、成功しか起きない人生が最初から約束されている……ということなのさ」
「…………!」
膝の上に置いた拳が無意識に震えた。それは恐怖心からではない。どこからともなく沸き上がってきた悔しさからだった。
成功病と呼ばれるその仕組みを……普通であれば絶対に信じないような説明を聞かされたにもかかわらず、それが青波自身の心に存在していた疑問という名の穴に、何のためらいもなくストンと落ち着いたのが悔しかったのだ。
魂が半分にされるかわりに、負がなく成功しかない人生が約束された人間が存在する。
それがこの現代で成功した人ほど早く死ぬという
「…………」
目を閉じて、顔を天井に向ける。瞼の向こうに照明の光を感じた。
呼吸を落ち着かせるように息を吐いて、再び目の前のシャルに視線を合わせる。
「……質問してもいい?」
「なんなりと」
「成功する人間が早死にすることが最初から決まっているっていうのは理解した。だけど、俺の記憶が正しければ、成功したでろう人生を送っている人間でも……早死にではない人がいると思う。それはどう説明する?」
確かにシャルが説明したように、何かしら有名になっている人や成功したと思われるような功績を残した人間は早死にすることが多い。
だが、多いだけであって絶対ではないと気が付いた。現に有名な歌手で今年六十五歳を超える男性もいれば、七十歳近くだが映画やドラマに引っ張りだこの大女優だって存命している。仮に魂が半分で寿命も半分になっているというならば、彼らはもうとっくに亡くなっているはずだ。なぜならば現代の最高年齢は百八歳で、それ以上長生きした人は……少なくとも新日本和国になってからは存在しない。寿命の満了が百八歳だったとしても、半分だと五十四歳以上は生きられないということになる。しかし、この新日本にはそれ以上の年齢で生き続けていながらも成功者と呼ぶにふさわしい人間が確かにいるのだ。
これは、どういうことなのか。
その噛み合わない矛盾の答えがあるならば提示してほしかった。
「ほぉ? そこに目がいくとは……どうやら君は馬鹿ではないようだ」
「はぐらかさずに、答えを聞かせてくれ」
「いいだろう。答えは簡単さ、彼らはそうじゃない人間に生まれたのに、自らの努力で運命を変えたのさ」
左手の指をくるりと回しながらシャルが続ける。
「確かに私はこの世界の命を二種類にわけた。だがね、人というのはどうにも不思議なもので、何十人……いや何百人にひとり……そうじゃない人間に生まれたにもかかわらず、運命を自らの手で捻じ曲げて成功する人間が出てくる。無論、そいつらから私は魂を奪っていないわけだから、必然的に彼らは成功した上に寿命を全うできる、というわけだ」
言うならばイレギュラーな存在だな、とシャルが言いながら、少しばかりソファから身を乗り出して続ける。
「世界の均衡を保つためには、正直なところイレギュラーはなるべく御免被りたいところだが……私にとっては、そういう運命に抗う人間の無様な姿を拝むのも幾分か愉快でね」
「…………」
「まぁ、大多数は私の思う通りになっているわけだしな。やれるものならやって見せ給えという気持ちで許容しているだけの話だ」
以上が、成功しているのに早死にではない人間が存在している理由だと、そうシャルが締めくくった。
なるほど、確かにそうだ。最初から予定されていた人間でないのなら、魂は半分ではなくひとつのままだ。その状態から自ら努力して成功すればそれは……早死にの呪いからは逸脱した存在になる。
「納得したかい?」
「……したくないけど、理解はした」
「よろしい」
満足そうに頷くと、乗り出していた身を引っ込めて、再度ソファの背もたれに背中を預けた。
「人間の成功は最高のエンターテインメントだよ。そしてその逆……報われない人間の人生もまた、最高のエンターテインメントだ。世界の均衡を保つ為とはいえ、それらは全て私の掌の上で展開している事象に過ぎないということだ。中々に面白いだろう?」
「面白くなんか……ない!」
キッとシャルを睨みつけて拳を更にきつく握りしめる。爪が掌に食い込むのが感触でわかったが、そんなことに構っていられるほど頭は冷静ではなかった。
今目の前にいる男は、人の命を好きに出来る存在だ。しかし、だからと言って、人間の命を弄んでいい理由にはならない。いや、なって欲しくなかった。自分達の生きている人生が、誰かの気まぐれで創作されたゲームのようなものであって欲しくは、なかったのだ。
「世界のバランスだか均衡だか知らないけど、そんなことで人間の……俺たちの人生を勝手に弄ぶなよ!」
「弄んでいるわけじゃあないが? 全ては必然。人間がこの世に生まれた瞬間から、いずれこうなる時が来ることは決まってたんだ。地球あっての人間だ。君たちだって地球がなくなったら困るだろう? ゆえに均衡を保つことは絶対だ」
「…………っ!」
きっと、今自分は酷い顔をしていると青波は思った。
普段喜怒哀楽をそんなに隠して生きているつもりはない。だが、その中でも自分は怒りの感情を露わにすることは下手くそだと思って生きてきた。穏やかに生きていきたくて、たとえ気に入らない事が起きたとしても怒りの感情を相手にぶつけることはしなかった。波風を立てるのが嫌だったのだ。
しかし、そんな青波の中に今、確かな怒りが湧き上がっていた。それは他でもない、自分の大切な人の運命が、得体の知れない存在によって既に決められていたという事実を知ってしまったからだ。
「何をそんなに怒る必要がある? 君に何か影響があるわけでもあるまい。君はそうじゃない側の人間なのだから」
シャルは、拳を握ったまま睨みつけてくる青波の視線なんぞものともしないと言わんばかりに頬杖をついて首を傾げる。
そんなシャルの余裕の笑みを、青波も負けじと暫くジッと見つめていたが、やがて一度顔を伏せて目を閉じた。怒ったところで彼の態度も考えも何も変わらない。暖簾に腕押しをしているようなものだと気が付いたからだ。
顔を伏せたままもう一度ゆっくりと目を開けて、自分の握った拳を開く。
掌にはくっきりと爪が食い込んだ跡が残っていて、爪先と患部には血がじんわりと付着している。こんなに力強く拳を握ったことなんか、多分今までの人生で一度もなかった。同時に、感情をここまで剝き出しにしたのも、これが初めてかもしれない。
「…………」
思えば、光輝や澄花と出会う前……クラスメイトから仲間外れにされていた時、怒ってみればよかったのだが……あの時はそれがどうしても出来なかった。自分自身を守るために怒るということを烏滸がましく感じた。
でも、今は違う。
自分のためなんかじゃない。大切な友達のために……怒った。
波風を立てた自分を、許したい。
青波は大きく息を吐いて、シャルに向き直る。
「もう一つ聞きたい」
「どうぞ」
「シャルが奪った成功者たちの半分の魂は……どこに行ったの」
「……返してほしい、と言いたげな顔だな」
「答えてくれ」
強く催促すれば、また愉快そうにシャルが目で笑う。
それからおもむろに右手を天井に向けて振り上げたかと思えば、次の瞬間、部屋のほとんどを占領している大きな時計台の文字盤に、まるで空間が歪んでできたような穴が出現した。
「もう半分の魂は、あの穴の向こう――アカシックと呼ばれる裏の世界で普通に存在している。ただし、アカシックに渡った半分の魂は先ほども説明したように負を全て背負っている。ゆえに表の世界……私たちの間ではオブヴァースと呼んでいるこっちに残っている魂とは違って、同じ人間として存在しているが、性格も置かれた状況も何もかもがマイナスの方向で違う。同じことと言えば、寿命が半分という点だけだ」
この地球に裏と表があるという事実すら初耳だったが、もはや青波はこのくらいの事では驚かなかった。それよりも今はシャルが説明した事案を自分なりに嚙み砕いて理解することに必死だった。
「要するに……あっちの世界にも成功者と同じ魂を持つ同じ人間が存在しているけど、こっちに残った成功者とは違って、何もかも悪い方向に転んで、悪い人生を送っているってこと? それなのに寿命が半分とか……」
「そう悲観的になることはない。アカシックに流れた魂の半分は皆、オブヴァースで生活をしている
「…………」
「腑に落ちないかい? 君は難しいな。ちなみにだが、もちろんアカシックに君はいないし、君の友達である諸星澄花も存在しないよ。存在しているのは新庄光輝の片割れのみだ」
魂を半分にされていない人間は、
それを認知した時、唐突に青波の頭の中に光輝の顔が浮かんだ。
いつも明るく真面目で、太陽の様に笑う彼の魂の半分は……あの穴の向こう側にいる。それが例え全て負になっていて、
「………シャル」
そう考えたとき、
「一つ、お願いがある」
青波の中で、光輝を早死にさせたくないという思いが強まった。
「新庄光輝の魂を、もとのひとつの魂に戻してほしい。対価が必要なら、俺の命でもなんでもくれてやる。だから……お願いだから、光輝を成功者から外してくれ」
「おおっと……? そう来たか」
「頼むから」
頭を下げれば、「ふーむ」とシャルが何か思案するように呻るのが聞こえた。
「結論から言えば、私が直接君たちに何かしてさしあげる義理はないな」
「……っ」
「だが、青波。君が直々に彼の運命を変えに行くというのなら、話は別だ」
ハッとして顔をあげる。
ソファに座っているはずのシャルが目の前に立っていて、座った青波を見下ろしていた。照明のせいで影になった表情の中で、透き通ったアメジストのような両目が光っている。
「君がアカシックに自ら出入りし、あっちにいる新庄光輝の魂をこっちに連れ帰りひとつに戻すんだ。だがアカシックの新庄光輝も一応一人の人間として生活している。それを上手に言いくるめてこちらに連れ帰ることが出来れば……の話だ。それが叶えばその時は――彼の魂は成功者から外れ、元来のひとつの魂に戻る道があるだろう」
ただし、とシャルは青葉の顎を掴む。
「新庄光輝がひとつに戻ることが叶った時、対価として青波……君の魂は私がもらい受け、宝石として私のコレクションになってもらう」
「…………」
「自分の命と引き換えということだ。それでも望むか?」
アメジストの瞳が鋭く青波の両目を射抜く。
息をするのも忘れて、ただそのアメジストをジッと見ていた。
「…………」
やがて、青波は顎を掴んでいるシャルの手を強く握り返すと、酷く落ち着いた声で続けた。
「……それでもいいよ。俺の魂でよかったら、シャルにあげる」
「…………ほう。では君は、自分よりも新庄光輝の人生を取る、ということだな」
シャルの言葉に、青波は無言で力強く頷いた。
「……よろしい」
次の瞬間、シャルは愉快そうに口角をあげると、顎を掴んでいた手を離してそのまま両の手を二回叩いた。それと同時に部屋の大きな時計台がゴーンゴーンと鐘を鳴らし始める。
呼応するように、どこからともなく風が吹けば、壁や床中に散りばめられた輝く石や、ステンドグラスで着飾ったランプ達が共鳴するかのように光りだした。
「ならば、道は開いてやる。あとは青波、君次第だ」
――さあ、やって見せ給え。
そういわんばかりの表情で、シャルが腕を大きく振り上げた。
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