第11話 俺たちの冒険はこれからだ!

あのローパーとの一戦をおえて数日が経った。


この数日は、とにかく、目が回るほど忙しかった。…………主にアリスが。


エルザの村に戻り、ギルドに報告した後、ロイド伯からの使者がひっきりなしにやってきては、ミルトの街と行ったり来たりを繰り返している。

アリスはその対応に追われ、ここ数日はろくに顔も合わせていない。


「暇だねぇ。」

今のアリスが聞いたら、目を剝いて怒り出しそうなことを言うミリア。

「あぁ、暇だな。」

しかし、それも仕方がないことで、いくらアリスが忙しくても、一介の冒険者であるアルフレッド達には関係のないことだからだ。


正直に言えば、この街を去っても構わないのだが、領主様……つまりアリスの父親(正確に言えば養父)への説明を一緒にして欲しいと、アリスに泣いて頼まれたため、領主がここに来るまでの間、足留めをくっているというわけだ。


「まぁ、暇だと言うなら、やることは一つだよなぁ?」

アルフレッドは、瞳を怪しく光らせ、ミリアに躙り寄っていく。


「えっと……アル、顔が怖いよぉ。」


アルフレッドがにじり寄った分、ミリアはズリズリと後退る。

しかし、すぐにベッドがあるため、コレ以上は下がれない所まで来てしまう。


更に躙り寄るアルフレッド。


ミリアはそのままベッドに上がり後退を続けるがすぐに壁に当たり追い詰められてしまう。


「ね、ねぇ、ちょっと落ち着こ。ね、ねっ?」


「俺は落ち着いてるぞ。まぁ、随分ご無沙汰だったからなぁ。ミリアが不安に思うのも分かる。だから、お前はじっとしていて、全て俺に任せて置けばいいんだ。」

「でも……アルに任せたら、また、その………無理矢理……、する……んでしょ?」

ミリアがか細い声でそう呟く。

「…………出来るだけ前向きに善処しようではないか。」

「その目……絶対に配慮する気ないよね?」

「えぇい、うるさいっ!こうなったら力づくで………。」


アルフレッドはミリアにのしかかり、その胸元を弄る。


「あ、いやっ………ダメだってば……。」


「あのぉ、アル様?流石に無理矢理は良くないと思うのですが?」


唐突に声が掛かる。

アリスの声だ。

いつの間にか帰ってきていたらしい。


「無理矢理って……何のことだ?」


アルフレッドはミリアを見るが、ミリアもわからないと首を横に振る。


「え、でも、アル様が無理矢理ミリアお姉様を手籠めにしようとしていたんですよね?」


その手が証拠です!と詰め寄ってくるアリス。


「この手?俺はただ調合素材を貰おうとしてただけだが?」

アルフレッドはそう言って、ミリイの胸元に突っ込んでいた手を引き抜く。その手には色鮮やかな宝石をあしらったペンダントトップのネックレスが握られている。


「ふわぁ、大きぃですねぇ。」

そのペンダントトップの宝石を見たアリスが感嘆の声を上げる。

「エンチャントと宝石は切っても切り離せない仲だからな。それなりの付与をするためには、やはりそれなりの宝石が必要になるんだよ。」

上位付与に必要な特殊な魔石は、特殊な保管方法が必要なため、専用に付与したストレージにまとめて入れてある。

それが、ミリアが持っているペンダントだということだ。


「えっと、つまり………。」

「アリスがどんな勘違いをしたか知らんが、俺はしばらくご無沙汰だった聖剣作りをしようとしてただけだ。……この間、壊しちまったしな。」


すると、アリスがいきなり掴みかかってきた。

「そうですっ!エターナルブレードですっ!アル様は後で話すと言いながら、ちっとも教えてくれないじゃないですかっ!」

さぁ、早く話せ、と迫るアリス。

「いや、俺たちは今から聖剣作りをだな……。」


「うっさいですっ!そんなガラクタより、エターナルブレードですっ!」

いや、ガラクタって、あーた………まぁ、仕方がないか。



「つまりアル様は賢者様で、勇者様パーティの一員だったと。エターナルブレードはその時に勇者様から託された、そう言う事ですかぁ?」

 アルフレッドの説明を聞きながらも不思議そうな顔をするアリス。

「そうそう、よく分かってるなぁ。」


 アルフレッド達は、今領主の別荘の客間に通されている。

 アリスが宿に戻ってきたのと入れ違いに領主一行が到着したとのことで、アリスは休むまもなくもどることになったのだが、エターナルブレードについての説明がまだだとアリスがごねた為に一緒についていくことになったのだ。

 そして、客間で待っている間に、アリスの熱意に負けてアルフレッドの過去についての説明をしたのだが……。


 アルフレッドは、実はあらゆる魔法が使える『賢者』だった事、その力を請われて勇者と共にパーティーを組み、勇者パーティーとして各地を廻り、魔王軍に立ち向かい、最終的には魔王打倒直前まで追い詰めたものの、力及ばず封印するしかなかったこと。

そして、魔王封印の際、呪いを受けて魔法が使えなくなり、代わりに勇者が魔王を封印、その際に勇者からエターナルブレードを託された事等々……。


 全て事実なのだが、それを説明してもアリスは納得がいかないようだった。


「……ウソですぅ!そんなウソに騙されると思っているんですかぁ?勇者様のパーティは魔王と相打ちになって全滅したはずなのです。そもそも、勇者様が魔王を封印したのは30年前ですよぉ。アル様はどう見積もっても20歳以上には見えませんよぉ、それともアル様もエルフなんですかぁ!」

「ウソって……人の話を端から嘘だと決めつけるのは良くないぞ。……じゃぁこういうのは?魔王を封印した場所に行ったら、偶々落ちてたのを拾った。」

「いい加減にするのですよ!そんな事で騙される安い女だと思ってるんですかっ!」

 憤るアリス。 

「いや、安い女って……それよりアリス、公爵が呼んでいるらしいぞ。」

 アリスを呼びに来たらしい衛兵を指さすアルフレッド。

「うぅ……すぐ戻ってきますからねっ。」

 ブツブツ言いながら部屋を出て行くアリス。

「アル、アリスちゃん怒っちゃったよ?」

「そう言われてもなぁ……まいっか。」

 アルフレッドは、やれやれとため息を吐きながら立ち上がる。

「知らないからね。」

 ミリアも、倣って立ち上がり、アルフレッドと共に部屋を出て行く。


 ◇


「でもいいの?黙って出て来ちゃって。」

「いいのいいの。どうせ俺達に出来る事なんて残ってないからな。」

「それはそうだけどね。」

 エルザの街を出て、かなり歩いた森の入り口、今日の野営場所を決めて一息ついたところでミリアが聞いてくる。

 ここまで黙ってついてきた時点で、アルフレッドの行動を肯定している事に、本人だけが気付いていない。

  

「アリスちゃん、怒るよきっと。」

 鍋をかき混ぜながら、ポツリと言うミリア。

 鍋からは食欲をそそるいい匂いが漂ってきている。

「まぁ、そうだろうなぁ。」

「アリスちゃんの気持ちも分かってるんでしょ?だったら……。」

 ミリアが咎めるような目で見てくる。


「だからといって、公女様で、本当は姫様で、しかも巫女姫候補でもあるアイツを、宛もない旅に連れ出すわけには行かないだろ?」

 アルフレッドが火の調子を見るように、薪を調整しながらそう言うと、ミリアは黙り込む。

 アリスの立場上難しいのは、ミリアだって分かってはいる。

 ただ、アリスの気持ちを知っているだけに、素直に頷けない。


「ところでさ、どこまでが本当なの?」

 だから話題を変える事にしたミリアは、気になっていた事を聞く。

「どこまでって、何が?」

「さっきのアルの過去の話よ。」

 鍋の中身を一口含み、調味料を継ぎ足して再度混ぜながら会話を続けるミリア。

「うーん、そうだなぁ……ミリアはどう思ったんだ?」

 収納から三人分の食器を取り出して簡易テーブルの上に並べながら応えるアルフレッド。

「そうね、全部本当……かな?」

 それぞれの器に料理を盛り付けて、ミリアがそう言う。

 スープの入った器からのおいしそうな香りと、大皿に盛られた彩り鮮やかなサラダが食欲を誘う。


「なんでそう思うんだ?」

「だって、アルがアリスちゃんに嘘を言う訳無いからね。それにアリスちゃんは看破の魔眼を持ってるんだし。」

 早速頂こうと、器に伸ばしたアルフレッドの手をピシャリと叩き、待てをするミリア。

「いや、アリスは俺たちの間では魔眼を使わないぞ。」

 視線を食事に向けたままそう答えるアルフレッド。

「だからよ。アルもそれが分かっているから、アリスちゃんには嘘をつかない、少なくとも大事な場面では……でしょ?」

「……まぁ、そう言うことにしておくか。それより腹が減ってるんだが?」

「まだダメ。全員席に着いてから。」

「はぁ…………、そう言うことだから、早く出てきたらどうだ?」

「そうね、スープ冷めちゃうわよ。」

 二人は近くの茂みに向かって声をかける。


「…………うぅ、二人共意地悪ですよぉ。」

 茂みをガサガサっとかき分けるようにして、アリスが顔を出す。

 気付かれていた気まずさからか、アリスの顔は赤くなっている。

「そんなことより、早く座れよ………腹減ってるんだ。」

「そんな事って言いましたよ、この人っ。普通は「何でいるんだっ!」とか「追いかけてきたのか?」とか言って驚いたり感激したりするんじゃないですかっ!」

 促されるままアルフレッドの横に腰をおろしたアリスだが、アルフレッドの言葉に憤る。

「あー、びっくりしたぁ、ついてきたのかぁ。かんげきだなぁ……。これでいいか?」

「むむむ………。」

「まぁまぁ、みんな揃ったから、頂きますしよ。ねっ?」

 ミリアが割って入り、その場を収める。


「とにかくっ、私はお二人についていきますからねっ。拒否権はないですよ、私を置いていったら即座にS級の指名手配掛けますからねっ!」

 日暮れの森の中にアリスの宣言が響き渡る。


 これから賑やかになりそうだよ、と、誰にともなく呟くアルフレッドだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る