第10話 エターナルブレード

「遅い、遅いですよ。いつまで待たせるのですか!」

 扉を開けた途端、そんな声がアルフレッド達を出迎える。

 その声に驚き、身構えるミリアとアリスだが、アルフレッドだけは余裕を崩さない。


「ガイナックスだったか?こんな薄暗いジメジメした所で何やってるんだ?」

「おや、覚えていてくれましたか、光栄ですね。何をしていたかって?大した事じゃありませんよ、単なる陰謀です。」

 ガイナックスも、飄々と答える。

「陰謀って……どういうことなのですかっ!」

「陰謀は陰謀ですよ。モンスターを大量に召喚するだけの簡単なお仕事……だったんですがねぇ。」

 アリスの問いかけに、飄々とした表情を崩さないままガイナックスが答える。

 しかし、その纏う雰囲気が微妙に変わった事に気づいたミリアが、アリスの前に出て庇う。


「まだモンスターが居ない所を見るとお仕事の途中って事かしら?」

「はぁ……私のお仕事の邪魔をしたあなた方がそれを言いますかねぇ。折角遺跡内に仕掛けた魔道具を尽く取り外しておいて……。」

 ミリアの問いかけに、ガイナックスは頭を抱えて言う。


「魔道具?」

 ミリアが頭を傾げるが、アルフレッドには思い当たる節があった。

「魔道具ってこれの事だろ?」

 アルフレッドが一つの道具を取り出して見せる。

「あ、ソレのこと。」


 その道具は、遺跡各地で巧妙に隠されていた魔道具の一つだった。

 かなり巧妙に偽装がされていた為に、却ってアリスには一目でわかるのだった。

 使用用途がよく分からなかったが、こんな魔道具でも、売れば少しは路銀の足しになるだろうと、集めておいたのが、結果としてガイナックスの計画の邪魔をしたらしい。


「何を邪魔したか知らないですけど、ザマぁなのですよ。」

 アリスがミリアの背から顔を出して、ガイナックスにべぇーッと舌を出す。

「おやおや、そんな顔をしたら可愛い顔が台無しですよ。」

「「……」」

 ガイナックスの言葉にミリアとアリスが顔を見合わせる。


「(どうしよ……ヤッパリロリコン?)」

「(怖いですぅ……あの目、変態さんの眼ですぅ。)」

「……聞こえてますよ。誰がロリコンですかっ!」

「「「アンタ」」」

 ガイナックスの叫びに、三人が揃って指をさすと、ガイナックスがハァとがっくり肩を落とす。


「……そーですか、そーですか、もういいです。下級モンスターの大量召喚は失敗ですけどねぇ、私も魔族としての意地ってモノがあるんですよ。」

 ガイナックスの周りの空気が代わる。

「ヤバいな。」

 アルフレッドが二人のを庇うように前に出る。

「揶揄い過ぎたかも。」

 ミリアもアリスを庇う様に立ち位置を変える。


「あなた方の冒険はここで終わりですよ。計画は失敗してしまいましたが『動乱の姫巫女』と引き換えなら収支は合うでしょう。」

「動乱の姫巫女だとっ!」

 ガイナックスの言葉を聞いて、アルフレッドの表情に初めて動揺の色がうかがえる。


「動乱の姫巫女?」

「あなた方が知る必要はない事ですよ。」

 ミリアの疑問を無視するように言い放つと、ガイナックスが何やら呪文を唱える。

 その呪文に呼応するかのように背後の床が光り出す。


「あなた方の相手はこいつですよ。コイツがこの世界に顕現する為には大量の生体エネルギーが必要なのです。だからこいつは今腹ペコでしてね。あなた方を喰らった後は、地上に出て人類を喰らいつくす事でしょう。あ、心配しなくてもいいですよ。コイツは大喰らいで燃費が悪くてね、地上の街一つ喰らい尽くしても、せいぜい1週間程度しかこの世界に留まれないですからね。まぁ、命が惜しければ、さっさと逃げ出す事です……無駄でしょうけどね。」


 ガイナックスの言う通り、呼び出された魔物はすでにアルフレッド達をエサとしてロックオンしている。

「では、私は巻き込まれないうちに退散しますよ。あなた方の健闘をお祈りします……まぁ二度と会う事はないでしょうがね。」

 ガイナックスはニヤニヤ笑いながらそう言うと、忽然と姿を消した。


「クッ、転移か。」

「それより、アル、あれどうするのよっ!」

 ミリアがモンスターを指さす。

 ぬめっとした円筒形の胴体の上方でウネウネと動く多数の触手。

 更にはその胴体部分から幾本かの触手が伸びて辺りを探っている。

 本体の動きは鈍いものの、それを補うかのように触手の動きは機敏だ。


「ローパーか……厄介だな。」

「ローパーって、あのエロ魔獣ですかぁ。」

「エロ魔獣って……まぁ間違ってはいないけどな。それの強化された奴だ」

 何故アリスがそんな事を知っているのか……アリスの教育方針に本気で疑問を抱くアルフレッドとミリア。


 ローパーはその触手で獲物を絡み取り、生体エネルギーを取り込む魔法生物だ。

 基本雑食で、生きているものは全てローパーの餌となるが、特に人型を好んで襲う習性がある。


 中でも人族の女性に異常なまでの執着を抱いており、他の生物は捕えてすぐ上方にある口から体内に取り込むが、女性が捕まった場合、すぐ食べられることはなく、その触手が、味わうように女体を這いずり回り、少しづつ生体エネルギーを奪っていく。

 更に、その触手から分泌される体液には催淫効果があり、捕らえられた女性は時間が経つとその効果により性的興奮を覚え、生体エネルギーを吸いつくされるまで、その快感は続くという、まさに女性にとっては、スライム、オークに並ぶ『絶対に捕まりたくないモンスター』TOP3に入る天敵である。


 尚、貴族の中には、ローパーの幼生体を調教して、女性への調教に使うという変態嗜好を持つ者が一定以上いるため、高値で取引されていたりもする。

 しかし、人間が魔獣を買うことは難しく、逃げ出したり捨てられたりしたローパーが生体となって街を騒がすという事件がしばしば起きている。


「ミリアとアリスは後方から援護を。絶対に掴まるなよ。」

 アルフレッドはローパーの前に出て魔石を投げつける。


『ボムっ!』


 ローパーにあたる瞬間にキーワードを唱えると、魔石が弾け、爆発がローパーを包み込む。


「ヤッパリ『爆炎』程度じゃ利かないか。」

 アルフレッドは触手の攻撃を躱しながら、手持ちのアイテムを投げつけていく。


 ローパーの厄介な所は、その魔法に対する耐性の高さで、その為初級魔法程度では足止めにもならず、ダメージを与えるのであれば最低でも中級魔法が必要になる。


 逆に、物理的であれば確実にダメージを与える事が出来るが、素早く、そして斬られてもすぐ再生する触手があるため、近づいてダメージを与えるのも一苦労する。


 だから通常は、タンク役の一人が触手を引き付けている間に、他のパーティメンバーが本体を叩くのがセオリーなのだ。

 一般的なローパーでさえ、そのような感じなのに、眼の前にいるのはさらに強化された特別製なので、魔法主体で戦うアルフレッドたちとは、相性が最悪の相手だった。


「仕方がないか……苦手なんだけどな。」

 アルフレッドは腰の剣を抜き、ローパーに向かって駆け出す。


「アル様っ!……天に遍く女神様、彼の者へ女神の加護を……『ブレッシング!』」

 祝福の光が、アルフレッドの身体を包み込む。

「アリス、助かるっ!」

 祝福の光を受けたアルフレッドは、さらに加速してローパーに斬りかかる。


 ズシャッ!


 アリスの祝福によって強化された身体能力により、アルフレッドの振るう刃は容易くローパーの触手を斬り裂く。

 しかし、ローパーの触手は斬られる先から再生していくため、斬っても斬ってもキリがない。

 それでも切り払いながら本体へと進むしか倒す方法はない、とアルフレッドはひたすら剣をふるっていく。


「アルっ、避けてねっ!……風の精霊エアリス、私に力を貸して……『エア・カッター!』」

 触手を斬り結んでいるアルフレッドの背後から迫る別の触手を、ミリアの放つ風の精霊魔法が切り刻む。

「お姉さま凄いですぅ。私もやりますよぉ……『サンダーボルト!』」

 アリスの放つ稲妻が触手を焦がし、ローパー本体に穴を穿つ。

魔法に耐性の高いローパーに対し、ここまでのダメージを与えることができる時点で、二人の魔力はかなり高いことが証明されたようなものなのだが、それ故に、ローパーは二人を極上の『餌』として認識する。


『グゥギィィィィィ……。』

 ダメージを受けたローパーが暴れ、触手が縦横無尽に襲い掛かる。

 アルフレッドは、触手がミリアたちの方へ向かわない様に、触手を斬り払っていく。

 しかし、数が多く、アルフレッドをすり抜ける触手がミリアたちを襲う。


「キャッ!」

「アリス、危ない!」

「ふぅ……お姉さまありがとうですぅ。」

 アリスを絡めとろうとする触手が、ミリアの放つ矢によって消滅する。

「いいから、次、来るわよっ!」

「大丈夫、任せるのですよ……『エナジーウォール!』」

 更に迫りくる触手を、アリスは電撃の障壁によって防ぐ。

 触手は障壁にあたると、バチバチッと、音を立てて焦げていく。


「クッ、キリが無いな……。」

 アルフレッドは、迫る触手を切り刻みながらそう呟く。

 何本かの触手がミリアたちの方へ向かったのは分かっているが、眼の前の触手を相手にするので精一杯で、それらを防ぐ余裕がない。

 ミリアとアリスは何とか撃退しているが、これ以上後ろに行く触手が増えると捌き切れないかもしれない。


「赤字だけど仕方がないな……。」

 アルフレッドは何本目かの触手を斬り捨てると、収納から赤い魔石を取り出し、剣の柄にある穴に嵌め込む。

「ぐぅぅぅ……フレイム・バースト!」

 アルフレッドが剣に魔力を注ぎ込むと、赤い魔石が光を放ち輝き、刀身を炎が包み込む。

「どぅりゃぁぁぁ!」

 アルフレッドが剣を横薙ぎに払う。

 斬られた触手はその切り口から炎に包まれ燃えていく。

 何本目かの触手を焼き払うと、ローパーの攻撃が少し収まる。

 その隙をついて、アルフレッドは一旦後方へと下がる。


「アル、大丈夫?」

「アル様っ!」

 ミリアとアリスがすぐさま駆け寄る。

「大丈夫だ、まだ本体が残ってる。油断するなよ。」

 アルフレッドは視線をローパーに向けたままミリアとアリスに注意を促す。

「ミリア、炎の精霊は呼べるか?」

「ゴメンなさい、今の状況では下級精霊を呼び出せるかどうかってところ。」


 ローパーは火属性に弱いのでそう聞いてみるが、ミリアの答えは芳しくない。

 元々、森の妖精のエルフは、その生活習慣から火の精霊とはあまり相性がよくなかったりする。

 中には火の精霊を毛嫌いする者もいて、種族全体を通して、火の精霊魔法を使える者は少ない。


 森を飛び出したミリアは、冒険を重ねるうちに苦手意識がなくなり、今では六属性全ての精霊を呼ぶ事が出来るが、それでも得意不得意があり、精霊力の弱い場所では使える精霊魔法が限られてくる。


「いや、気にするな。風の精霊が呼べるだけでも助かる。……っ、来るぞっ!」

 前方から触手が迫りくる。

 炎を纏った剣を片手にアルフレッドは触手に斬りかかる。


 ズシャッ!ズシャッ!


 斬っても斬っても再生する触手を相手に切り刻んでいくアルフレッド。

 刃に纏った炎によって切り口が焼かれるため、再生する迄に少しの間ができ、それが無ければ触手の連続攻撃にアルフレッドは対応できなかったに違いない。


「くぅ……まだこれだけの力があるのかっ!」

 アルフレッドは迫る触手を斬り払いながら、次の一手を考える。

「確か、エクスプロージョンを封じた宝石があったはず……。」

 何とか、触手の攻撃を躱しながら本体までたどり着き、エクスプロージョンを叩き込めば……。

 アルフレッドがそこまで考えた時、背後で魔力が増大するのを感じる。

「ヤバいっ!」


「「きゃぁぁぁぁぁ~~~!」」

 アルフレッドが振り返ると、地面から突き出した触手が、二人を捉えるのが見えた。

「ミリアっ、アリスっ!……ぐわっ!」

 その隙を逃さず、触手がアルフレッドに襲い掛かり、アルフレッドの身体を宙へと跳ね上げる。


「アルっ!」

「アル様っ……くっ、離すのです!」

「ミリア……アリス……グッ……」

 触手に絡み取られ身動き取れない二人の前で、アルフレッドの身体に触手が突き刺さり、跳ね飛ばされる光景がくり広げられる。

「アル、アルっ……いやぁぁぁぁ!」

「アル様……天に遍く女神様、彼の者に癒しを……アッ……。」

 アルフレッドに回復魔法を掛けようとしたアリスだが、呪文を唱える途中で今までに感じた事の無い感覚に襲われ、詠唱を止めてしまう。


「アッ……ン……な、何なの……ですか……やんっ……ダメ……。」

 触手が舐る様にアリスの身体をはい回り、その度に、今まで感じた事の無い感覚が身体中を襲う。

「お、お姉さま……。」

 アリスは、助けを求める様に、ミリアの方へ視線を向ける。

「……アンっ……くっ……あっ……ダメェ……いやっ……あ、あぁ……。」

 しかし、ミリアも触手に捕らえられ、襲い来る快感に対抗するのが精一杯のようだった。


「だ、ダメですぅ、そこは……あんっ……。」

 触手がアリスの胸を弄る。

「うぅ……アル様にも触られたことがないのにぃ……あっ……だめぇ……。」

 アリスは悔しくて涙が溢れ出す。

 年頃の少女らしく、初めては好きな人と、と夢を見ていただけに、この様な場所でモンスターに弄ばれている現状が許せなかった。


「あ……ん……イヤっ……。」

 しかし、思いと裏腹に、身体中を駆け巡る快感に負けて身を委ねそうになる。

 今はまだ耐えているが、いつまで持つか……。

「あっ……いあっ、そこは、そこだけはだめぇ……。」

 触手がアリスの太ももに絡みつき、更に這い上がってくる。

「イヤっ、イヤっ……イヤっ!アル様、助けてっ、アル様、アル様ぁぁぁぁ!」

 アリスの悲痛な声が響き渡るが、それに応えてくれるものは誰もいない……。



「イヤっ、イヤっ……イヤっ!アル様、助けてっ、アル様、アル様ぁぁぁぁ!」

 アリスの悲痛な声が響き渡る。

「いやぁぁぁぁ~~~!」


 ……くっ、アリスが……ミリアが……呼んでる……。

 触手の攻撃を受け、一瞬ではあるが気を失っていたアルフレッドの耳に、アリスとミリアの悲痛な叫び声が飛び込んでくる。


「ぐぅ……。」

 アルフレッドは何とか立ち上がり周りを見る。

 手にしていた炎の剣は弾き飛ばされて手元にはなく、前方ではミリアとアリスが触手に絡み取られている。


「くっ……仕方がない。これだけは使いたくなかったが……。」

 アルフレッドは封印していた切り札を切る事にする。

 来るべきの為、この力を解放したくはなかったが、アリスとミリアを助けるには、今は他に方法はない。

 アルフレッドは収納から二振りの剣を取り出し、宝玉を取り付ける。


「ミリア、アリス今行くっ!」

 両手にそれぞれ剣を持ったアルフレッドは、そのまま二人を捉えている触手に向けて飛び出す。


「煌めけエルシオン!」

 アルフレッドは右手に持つ白銀の剣を振るい、ミリアを戒めている触手を斬り裂く。

「アル……あ、ありがと……う。」

 戒めを解かれ、自由を取り戻したミリアが、まだふらつく身体を必死に整え、数本の矢をつがえてローパー本体へ次々と放ちアルフレッドの援護に入る。

 顔がまだ赤い所を見ると、ローパーから受けた影響が抜けきっていないのだろうが、即攻撃を仕掛けれるところは、彼女が熟練の冒険者であることを証明している。 


「唸れシャドウブレード!」

 左手の漆黒の剣をアリスに向かって投げつけると、アリスに絡みついている触手を切り刻み、アルフレッドの手元に戻ってくる。

「あ……アル様ぁ……。」

 触手が切り裂かれ自由を取り戻したアリスだが、助かったという安堵感からアリスはその場にへたり込む。

 流石にアリスにはローパーの攻撃はつらかったようだった。

 アルフレッドはアリスを庇うようにしながら剣を構え、迫りくる触手を斬り裂く。


「アリス、悪いが余裕がない。自分の身は自分で守ってくれ。」

 アルフレッドは最後の触手を斬り裂くと、アリスにそう告げる。

「アル様はどうするの。」

「俺は、アイツを倒す!」


 アルフレッドは収納から一つの宝玉を取り出す。

「それは……。」

 あまりにも凄い魔力を内包している宝玉を見てアリスが驚く。

「切り札だよ。」

 アルフレッドはそう言いながらその宝玉を中心にして二振りの剣を重ね合わせる。


「その剣はまさか………。」

 その場に現れた光輝く剣のシルエットを見て、アリスは息をのむ。

 ……アリスの記憶が確かであれば、あの剣は……。


「出でよ、我が手に。古の契約に従いその姿を現せ!」

 アルフレッドの言葉に応えるかのように、光り輝く一振りの剣がアルフレッドの右手に現れる。


「やっぱりっ!勇者様がもってらした『エターナルブレード』!」

 幼い頃から憧れていた勇者の物語。

 そこに出てくる伝説の剣「エターナルブレード」を持ち、アリスを、街を守るために、ローパー本体へ駆けていくアルフレッドの背中を、感動したまま見送る。


「本当に存在した……エターナルブレードを持つ勇者様……アル様……。」

 感動のあまり周りへの注意が疎かになる。


 ズシャッ!


 アリスをねらっていた触手に矢が突き刺さり弾ける。

「何ボーッとしてるのっ!戦えないなら下がりなさいっ!」

「でも、ほらっ、伝説のエターナルブレードですよっ!」

「そんなの知らないわよっ!気になるなら後でアルに聞きなさい。今はそれどころじゃ無いでしょっ!」

 怒鳴るミリアの声を聞いて、アリスが気を引き締める。

 そうだ、今はあれを倒さないと……。


「それもそうですぅ。………大きいの行きます!天に遍く女神様、彼の者に裁きの光を……シャイニングフレアっ!」


 アリスの持つ最大の上級魔法『シャイニングフレア』

 神聖魔法の最上位に位置する魔法で、その消費魔力の大きさと、女神との親和性が高くないと使えないことから使用者は数少ない。

 逆に言えば、この魔法を使える者は魔力量が大きく女神との親和性が高い事を証明するもので、巫女姫に一番近しい証しとなる。


「アル様ぁ~、よけて下さいぃ~~!」

 魔法の輝きがローパーを包み込み、聖なる炎により、その身体を焼く。

 しかし、その巨体が災いして、全てを飽きつくすまでには至らず、暫くすると再生を始める。


「そんな……あれだけの攻撃でもダメなの。」

「いえ、お姉さま、アル様が……。」

 アリスが指さす先には、シャイニングフレアの光を反射して金色に輝く刀身を煌かせながらローパーに斬り付けているアルフレッドの姿があった。


 ズシャッ!ズシャッ!


 行く手を遮る触手を斬り裂きながら進むアルフレッド。

 アリスの魔法がかなりのダメージを与えたのだろう、その再生能力は本体に集中していて触手迄回る事はなく、斬り裂いた触手が復活することはない。


「手こずらせてくれたけどな、これで終わりだよっ!」

 アルフレッドは手にしたエターナルブレードに魔力を注ぎ込んでいく。

 過去の事件により、魔法が使えなくなったアルフレッドだが、魔石などの触媒を介することによってその魔力を移すことは可能だった。

 その膨大な内包魔力を余すことなく使える媒介としての剣「エターナルブレード」……。


 過去に勇者が魔王を封印するために使い、核を残して消滅したその聖剣を蘇らせるのが、今のアルフレッドの目的だった。


 そして今、暫定的ながらも蘇った剣がこの手にある……。


「エルっ、力を貸してくれっ……『シャイニングブレード!!』」

 限界まで魔力をため込み、さらには周りに残っているシャイニングフレアの残存魔力迄取り込んだエターナルブレード。

 その刀身を金色に輝かせた剣で、ローパーを思いっきり斬り付ける。

『グ、ガァ……』

 斬り下ろした刃を返し、そのまま斬り上げる。

『グゥゥゥ……ガハァッ……』

Vの字に斬られたローパーは暫く身体を引くつかせ、そして……爆散する。


 ◇


「アルー。」

「アル様ぁ~。」

 ミリアとアリスが倒れているアルフレッドのもとに駆け寄ってくる。

「大丈夫?ローパーはやったの?」

「あぁ、そこに魔石が転がってるよ。」

 ローパーのいた場所に、大人の拳大の魔石が事がっている。

「あー、結構でかいねぇ。」

 ミリアが魔石を拾い上げて収納にいれる。

「そんな事よりっ!……見せてください、エターナルブレードを。何でアル様が持ってるんですかっ。アル様は勇者様なのですかぁっ!」

「おい、ちょっと引っ張るなっ……。」

「えたぁなるぅぶれぇどぉ~、見せてぇ~。」

「だから、そんなに引っ張ると……。」


 パリィィィ~ン!


「あ~あ、やっぱり駄目だったか。」

「あぁ、エターナルブレードがぁ……。」

 アルフレッドの手から砕け散ったエターナルブレードの残骸をかき集めようとするアリス。

 しかし、その残骸は、集めた傍からキラキラと、光の粒子になって消えていく。

 残ったのは、光を失い鉛色になった宝玉が埋め込まれた柄のみ。


「またやり直しだなぁ。」

 アルフレッドはその柄を収納にしまい込む。

「えっと、どういうことですかぁ?」 

 訳が分からないと言う顔のアリスの頭を軽く撫でる。

「詳しい事は戻ってから話してやるよ。」

「ホントですよぉ。絶対ですよぉ。」

「ハイハイ、私からもお願いしてあげるから帰ろうね。」

 猛るアリスを宥めつつ帰り支度を始めるミリア。

「ほんとにですよぉ、えたぁなるぶれぇどぉ~……。」

 駄々をこねるアリスの頭をなでるアルフレッド。

「まだ襲われたショックが残ってるだろ?あんまり無理しないようにな。」


 本来であれば、二人が落ち着くまで休息をとりたいところだが、ローパーの魔石が落ちていた傍に現れた魔方陣を見て、帰る事を決断する。

 あれは帰還の魔法陣だ。であるならば、この場で休息するより、帰った方が早くて安全だろうと判断したアルフレッドは、周りを警戒しながらも、帰途に就くことにしたのだった。



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