第12話 番外編 ある付与術師の1日……
ある穏やかな昼下り……。
事件は、村外れの宿屋でおきた。
「あぁ、失敗か。」
俺が横たわっているのを見てそう呟く。
しかし、いつもより視点が低い気がする。
俺は辺りを見回し、ある物の前に移動する。
「フム……これは面白い。」
俺はおもむろに服を脱ぎ、目の前の姿見に自分の姿を映し出す。
光を浴びると透き通るような金髪に、意志の強さが窺える様な碧の瞳。
均整の取れたプロポーション……その双丘の大きさはBからCといったところか。
「これがミリアの身体かぁ。」
俺は自分?の胸先にそっと指を這わせる。
途端に、ビクッと身体中に電気が走ったような衝撃を覚える。
「マジか。これだけのことで感じるのか?」
俺は本来であれば感じることのない感覚に、ある種の感動を覚える。
そして、少し名残惜しいが、胸に当てていた手を下ろし、下着に手をかける。
「では、いざいかん!未知なるデルタゾーンへ!」
その途端、いきなり頭を殴られる。
「何やってるんですかっ!」
振り返ると「伝説の剣」……になる筈だった剣を構えた俺?が立っていた。
「何って、未知なる発見を……。」
「やめてくださいっ、私の身体を見ないでくださいっ!」
「私のって事は、やっぱり中身はミリアか?」
「そうですよ!何でこんな事になってるんですかっ!」
どうやらいつもの如く実験に失敗して、俺とミリアの身体が入れ替わってしまったらしい。
◇
「早く戻してくださいよぉ!」
「イヤイヤ、せっかくだから今しかできない実験をだなぁ……。」
俺は手をワキワキさせながら、俺ミリアに近づいていく。
「な、何をする気ですか?」
「いや、この状況で俺の身体・・・・は反応するのかな?と。」
そう言いながら俺は上着をそっとずらす。見えそうで見えない、でも、ちょっと屈めば、先端が見えるかも?そんなギリギリを攻めた格好で、ミリア(外見俺)に迫ってみる。
通常であれば、そこまでやられたら、流石の俺でも確実に反応すると言い切れるが、果たして中身がミネアならばどうなのだろうか?
反応したとした場合、それは俺の身体だからなのか、ミリアの心が反応してるのか……フム、まさしく興味深い。
「ということで、ねっ?」
「ねっ?じゃありません!……ってダメっ!イヤっ!」
「いいじゃないか、いいじゃないか。」
「ダメェー!」
俺はミリアを捕まえてズボンを脱がそうとするが、中々に抵抗が激しい。
「いいじゃないか。お前だって興味があるんだろ?」
「そ、それは……。」
俺(外見ミリア)の言葉に、今まで激しかった俺(中身ミリア)の抵抗が止み、俺(外見ミリア)のされるがままになっている俺(中身ミリア)………ややこしい。
「……初めて……なの。……優しく……して……。」
普段であれば、グッと来るシチュエーションであり、理性を最大限に発揮せねば本能の赴くままに行動するケダモノになるに違いなかったのだが……、いかんせん、俺の顔で言われても、単にキモいだけだった。
「エヘヘ、アルのココ、私でもちゃんと反応するんだ。」
可愛らしいことを言うミリア……だが、何度でも言おう、俺の顔で言ってもキモいだけだから。
どちらからともなく、距離をつめ、俺とミリアの顔が近づく。そして……。
「あのぉ……ココでそう言うのは困るんですけどぉ?」
突然ドアが開いて、顔を出す幼女……この宿の看板娘アンリちゃん(9歳)だ。
半裸のエルフの美少女(俺)が、フツメンの男(ミリア)を襲っているのを見たアンリちゃん………。
今、まさにキスをしようとする瞬間を狙う辺り、将来有望だと言えよう。
そんなアンリちゃんが俺達を見て呆れたように言う。
「そう言う事する場合は、それ用の別室を利用して下さい。あ、もちろん別料金いただきますよ。」
そう言って、手を差し出すアンリちゃん。
「「すみませんでした!」」
慌てて平伏する俺とミリア。
俺達に余分な宿代を払う余裕なんてないのだ。
いつか、伝説の剣が出来るまでは……。
◇ ◇ ◇
ある日、ある町の人気のない宿屋の一室……。
ここには今、俺とエルフの女の子……ミリアの二人っきりしかいない。
宿の人間には金を渡して、近づかないように言ってある。
もちろん、これからすることがバレないようにするためだ。
俺だって馬鹿じゃない。ちゃんと反省を活かすことが出来るのだ。
「じゃぁ、始めるか。」
俺はミリアを見つめてそう言うと、ミリアは少し怯える様に身体を小刻みに震わす。
「ほ、本当にするんですか?」
「今更何を言ってるんだ?お前も乗り気だったじゃないか?」
今になって怖気ついたのか、ミリアの声が震えている。
「あの時は、その……。でも私、こういうの初めてで……。」
「大丈夫だよ、ミリアは俺の言うとおりにしていればいい。」
俺はミリアの肩に手を回し優しく告げる。
「……わかりました。優しくしてくださいね。」
そう言って潤んだ目で見上げるミリアは、贔屓目なしに可愛かった。
◇
「アッ、ダメっダメですぅ!」
「大丈夫だよ。」
「だ、ダメですっ。そんなに強くしたら……アッ。」
「くっ……きついな。」
「ダメっ、ダメですぅ……あぁ……壊れちゃうー。ヤメて、やめてぇぇ~……。」
ミリアが、ダメ、ダメと首を振るが、ここまで来てやめられるか。
俺は穴?の場所を確認すると、ソレに手を添え、力一杯押し込んだ。
「あぁぁぁぁーーーーーーーー。」
ミリアの悲鳴が部屋中に響き渡る。
◇
「ダメって、ダメって……あれだけヤメテって、言ったのにぃ。」
目じりに涙を浮かべて、責めるようにミリアが言う。
「いや、行けると思ったんだよ。」
「どこがですか!どう見てもムリじゃないですか!」
ミリアが指さす先には、割れてしまった魔石の残骸が残っている。
俺の手に持っている剣の柄には魔石をはめ込む穴をあけてあり、そこに無理矢理押し込んだ結果だった。
「やっぱり、この剣の強度に対して、その魔石じゃ無理だったか。」
「そもそも、普通の剣を『伝説の剣』にしようとしたのが無理があるんですよ。」
俺のつぶやきにミリアが応える。
「計算上では、これで行けるはずなんだけどなぁ……今度はもう少し質の高い魔石を使うか。」
そう言って俺はミリアの胸元を見る。
俺の視線に気づいたミリアが、さっと両腕で抱きかかえるようにして胸元を隠す。
「ダメ、この石はダメです!」
「大丈夫、今度こそ成功するからさ。」
「信じられません……いや、何するの……イヤぁぁぁぁ……。」
俺は魔石を取り上げようと、ミリアに襲い掛かり、室内にはミリアの悲鳴が響き渡る。
伝説の剣の完成までは、まだまだ時間がかかりそうだった。
◇ ◇ ◇
「お姉様達は、………いえ、何でも無いです。」
何かをいいかけてやめるアリスちゃん。
今までの話をねだってきたのはアリスちゃんで、自分から聞いておいて、何かを言うのは良くないと思いとどまったのだろうけど……。
だけど、言いかけて中途半端にやめられるのは、気分的によろしくない。
「えっとね、言いたいことがあったら、遠慮なしに言っていいんだよ。ほら、私達はこれからもずっと一緒なんだし……。」
少し恥ずかしそうに言うミリア。
「じゃぁ遠慮なく……。お姉様達はアホですか。」
辛辣で容赦ないアリスの一言で、ミリアはドンっと沈み込む。
「まぁまぁ、それくらいにしておいてやれよ。それよりアリスにお願いがあるんだが?」
「何なんですか?アル様のお願いなら、恥ずかしいけど私……。」
アリスはそう言って、衣類に手をかけ、脱ごうとする。
「あ~、そういうのいいから。」
「なんでですかっ!女の子にここまでやらせて置いてスルーですかっっ!鬼畜っ!外道!ヘタレっ!」
ぜぃぜぃと呼吸を荒げるアリスを宥めるためにも、もう一つの昔話をすることにした。
「あのな、以前に…………。」
◇ ◇ ◇
「あのぉ、くりすますってしってますかぁ?」
ミリアが手を後ろにして覗き込んでくる。
赤いミニスカートのワンピース、首元や袖口、スカートの裾の白いフワフワが暖かそうだ。
ボンッ!
「きゃっ!」
思わず見とれてしまい、付与のタイミングが遅れた為、聖剣の元素材が爆発する。
「危ないじゃないですかぁ!」
「そんなに可愛い格好で声かけてくる方が悪い。」
俺は残骸となった金属の塊を、脇に放り投げながらそう言い放つ。
「えっ?」
俺の言葉を聞いたミリアの顔が真っ赤に染まる。
「それで、くるスミスって誰なんだ?」
俺は内心しまったと思いつつ、気付かないふりをして話を振る。
「スミスさんじゃなくて「くりすます」です。古い文献を見つけたのですよ。」
そう言って古ぼけた本を見せてくる。
「文献によれば「くりすます」の夜は聖なる力が宿り奇跡が起きるって言われてるんですよ。」
ミリアがドヤ顔でそう言ってくる。
「それは本当なのか?」
本当であればその力を取り込んで聖剣が出来るかもしれない。
「どうすれば、その力が手に入るんだ?」
俺はミリアに聞いてみる。
「それがですねぇ……この文献によれば「こすぷれ」というのが必要らしいです。」
この姿がそうですよ、とミリアがくるりとターンを決める。
「あと男性は「きぐるみ」というのを着るそうです……ここに図がありますよ。」
ミリアが見せてくれた図には茶色い寝袋に頭に枝が生えたようなものが描かれていた。
◇
「これでいいのか?」
見よう見まねで作った「きぐるみ」を着てミリアに訊ねる。
「ぷぷっ……可愛いですよぉ。後はですねぇ……二人で食事をして、キラキラを見ながら、男の人は女の人にプレゼントをするって書いてあります。」
「おいっ!本当にそう書いてあるのか?」
「本当ですよぉ、ほらっ。」
そう言って文献を見せてくるが何が書いてあるかさっぱりだ。
プレゼントを渡している図があったので、あながち嘘でもなさそうなのだが………。
「仕方がない、行くぞ。」
◇
「ほら、プレゼントだ。」
俺はミリアに途中で買ったプレゼントを渡す。
「ダメですよぉ。渡すときは『愛を囁く』って書いてありますよ。」
笑いながら言うミリア。
完全に楽しんでるな。
こうなったら……俺は彼女の耳元に口を寄せて囁く。
「ま、まぁいいんじゃないですかぁ?」
俺の言葉に、ミリアの顔は真っ赤に染まり……、何故か愛おしく思えて、気付いたら抱きしめていた。
結局、朝になっても聖剣は出来なかった……。
◇
「…………で、そんな昔の女との惚気話がどうしたんですか?」
ジト目で見ながらアリスが言う。
「私、昔の女扱い!?」
「いや、だからな、そういう事じゃなくて……ってかミリア、あの文献どうした?」
アルフレッドはアリスの冷たい視線を避けつつ、床にのの字を書いているミリアに声をかける。
「私………まだいるのに……。」
「と、とにかくだなぁ、今年こそはその「聖なる力」とやらを手に入れて……と考えていて、アリスにも協力してもらえないかと……。」
拗ねて落ち込んでしまったミリアを見て、埒があかないと思ったアルフレッドは、何とかアリスの協力を得るため説得を試みる。
「ハァ、まぁいいですよ。「くりすます」について神殿に伝わっていることを教えて差し上げます。」
「ホントか!助かる!」
「じゃぁまずは衣装から……。」
◇
アリスに言われたものを嬉々として用意しているアルフレッドを見ながら、アリスは小さくため息をつく。
「くりすます」の本当の意味を知ったとき彼はどういう反応をするのだろうか?
それが楽しみでもあり怖くもある。
ただ……とアリスは考える。
この機会に、自分たちの関係を一歩前進させたい。
「くりすます」はその切っ掛けを演出するものだと神殿にはそう伝えられている。
愛する者達の想いが、奇跡を呼び起こす。
それが「聖なる力」なのだと……。
「アル様……満足してくれるかな?」
出会った頃より、少しは成長した胸に手をやりながら、大きな木に飾りを付けているアルフレッドを見上げる。
「考えるより行動あるのみ!だね。乙女パワーを甘く見ないでよね。」
アリスはそう呟くと、身を清めに行くことにする。
アルフレッドに声をかけ、途中、まだイジケているミリアを引きずりながら浴室へと向かうのだった。
アルフレッドは気づかない。この後その身に起きるであろう惨劇を………。
付与術師は聖剣を作りたい……。 @Alphared
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