第4話 ただアイテム投げるだけの地味なお仕事です?
「で、どうするか決まりました?私達何か手伝えることありますか?」
森の中ほどの少し開けた場所で、ミリアはアルフレッドに話しかける。
この場所は周りより少し高くなっていて、目の前の大岩の影から眼下を除き見ると、そこにはゴブリン達が巣にしていると思われる洞穴の様子が伺える。
「いや、見たところ、見張りのゴブは3~4匹だし、巣の中にもそれ程数はいなそうだしな。さっさと行って片付けてくるよ。一応念の為にいつでも援護に入れるようにだけしておいてもらえると助かる。」
「はーい。じゃぁ、気を付けてね。」
そう言って見送るミリアの背からアリスが声をかける。
「あの……いいんですか?」
「いいの、いいの。ここで私達が出ても邪魔なだけだからね。ここで大人しくしてるのが一番なのよ。アリスちゃんもアルがどんな戦い方するのか興味あるんでしょ?」
「それはそうなのですが……。」
「いいから、いいから。はい、ここに座って。」
釈然としない様子のアリスを招いて自分の横に座らせるミリア。
この場所からなら、全体を見渡せるので、アルフレッドに何かあってもすぐに対応できる、という事をアリスに伝えると、アリスは納得したのか、腰を下ろして、熱心に周りを観察し始めた。
程なくすると、視界にアルフレッドが入ってくる。
彼は、見張りのゴブリン達の背後から、そっと近づいて行っている。
「あのままじゃ、見つかるのではないでしょうか?」
背後から、と言っても遮蔽物も何もない場所を移動するアルフレッドの行動は、アリスにはあまりにも無防備に見える。
「大丈夫よ。アルの纏っているマントにはかなり強力な認識疎外の魔法が付与してあってね、見えない所から近付けば、真後ろに立っても気付かれない筈よ。もっとも気配を遮断できるわけじゃないから、余り近付き過ぎるのはダメだけどね。」
「そうなんですね。でも、私にははっきりと認識できますし、ミリアさんも認識してますよね?」
アリスは疑問に思った事を口にするとミリアは丁寧に答えてくれる。
「それは、私達が例外として登録されているからよ。戦闘中、パーティの仲間を見失ったら困るでしょ?」
「そうなのですね……あ、何かを投げてますが、アレは何でしょう?気づかれないのでしょうか?」
アリスが見ている前で、アルフレッドは小石のようなモノをゴブリン達の周りに投げている。
ゴブリン達は、ボーっと遠くを眺めているが、たまに物音に気づき、そちらを見る事もあるが、特に何も見つからないため、暫くすると、また遠くを眺め出す。
基本的に、ゴブリン達は知能が低いため、目の前に何かが起こったり、何か自分の興味を引くものを目にしたりしない限り、自ら行動を起こすことはなく、愚直に与えられた事をこなす。
例えば、ここにいる見張りのゴブリン達に与えられているのは「近づく者がいないか、見張る」ことだと思う。
だから物音がしたとしても、そこに何もなければ、すぐに興味をなくし、見張る作業に戻るのだ。
最も、思考が単純なゴブリン達なので、興味を引くような何かを用意してやれば、意識をそっちに釘付けにすることも容易い。
アルフレッドはそんな彼らの習性を熟知している為、ゴブリンの見張りぐらい、自分に都合がいい様に動かすのは容易いことであり、やろうと思えば、他に気づかれないように、この場から引き離すことだって出来る。
ただ今回は、この場で仕留める事を選んだから、動かないよう、他に興味が行かないようにしているだけに過ぎない。
そうして、見張りをその場に釘付けしながら、慌てずにゆっくりと準備を整えていく。
そして、アルフレッドとの付き合いも長くなってきているミリアには、アルフレッドが何をしているのか?これから何が起こるのか?は、これまでにも散々やって来た事なので手に取るようにわかる。
「アレはね、エンチャントした魔石を配置してるのよ。」
だから、アリスの疑問に解説付きで答えてやる事が出来る。
「エンチャント、ですか?」
「アルの戦い方はね、ああやってエンチャントしたアイテムを使うの。剣や魔法で直接戦うわけじゃないから、見た目地味だけどね、それなりに効果的なのよ。」
ミリアの説明を受けながらアリスが見守っている目前では、アルフレッドが何か呪文を唱えた途端、ゴブリン達の足元に穴が開き、そこにゴブリン達が埋もれるという光景が繰り広げられていた。
「確かに……」
地味ですね、と言おうとしたその時、眼前のアルフレッドが、手にした何かを投げつけるのが見えた。
そしてその直後…………。
どぉぉぉぉーん!
派手な爆音と地響きがここまで伝わってくる。
「……えっと、地味?」
アリスは思わず隣りを見ると、ひきつった笑顔のミリアがそこにいた。
「アルっ、なんなのよっ!」
必死の形相で走ってくるアルフレッドの姿を捉えたミリアはそう叫ぶ。
「文句は後だっ!逃げないとオークに襲われるぞっ!」
アルフレッドは、訳が分からず呆然としているアリスを抱え上げてさらに加速する。
「またなんですかっ、またオークですかっ……ってか何でオークがいるのよっ!」
「そんなん知るかっ!オークに聞けっ!」
文句を言いながらも、慌てて追いかけてくるミリアに、アルフレッドも足を止めることなく叫び返す。
そんな言い合いをしている間にも、オーク達の足音は間近まで迫ってきている。
「クッ、少しでもあいつらの気を逸らす事さえできれば……。」
「あの、上手く行くかどうか分かりませんが、上手く行けば数秒ぐらいなら足止めできますが?」
アルフレッドの呟きに、抱えられたままのアリスがそう応える。
「アリスちゃん、ホント?」
横を走っているミリアが訊ねる。
「えぇ、お姉さま、ギルドの時と同じですぅ。オーク達は鈍いのでどこまで効果があるか分かりませんけどぉ。」
「よく分からんが、足止めできるなら頼む……あそこの開けたところで仕掛けるけど……行けるか?」
「おまかせください!」
アリスが元気よく答える。
「コレでよし……。そっちはどうだ?」
「コッチはOKよ。」
「私の方もいつでもいけるのですよ。」
少し開けた場所につくなり、アルフレッドはエンチャントされた魔石を適当にばらまく。……ばら撒いているようにアリスには見えた。
正確には、その魔石で簡易魔法陣を組んでいるのだが、アリスにはそこまではわからない。
アルフレッド少しだけばら撒いた魔石をイジった後、二人に呼び掛けると、準備が出来たと返事が返ってくる。
「じゃぁ、俺が囮になるから、奴らが所定の場所に来たら頼む!」
オークの群れは、すぐそこまで迫ってきている。
その足音を確認しながら、アルフレッドは二人にそう告げると、魔法陣から十数m離れた場所に立ち、オーク達を迎え撃つ準備をする。
作戦としては簡単だ。
魔法陣の範囲内でオーク達を足止めし、まとまった所で魔石にエンチャントした『
ただそれだけだ。
問題なのはグランドフォールが発動する範囲内に、オークの群れをまとめて足止め出来るかなのだが、そこはアリスたちを信じよう……。
アルフレッドがそんな事を考えている内に、オークの群の先頭集団がアルフレッドの姿を捉え、スピードを上げてくる。
「だから、来るなってばっ!」
迫りくるオークの姿に、冷たいものを背筋に感じながらも、アルフレッドは先頭集団に向けて、手にした薄い緑色の石を投げつける。
『風よっ!』
石がオークにぶつかる寸前に、あらかじめ設定してあるキーワードを唱えると、その石が光り輝き、オークに向けて『
眼の前で激しい突風を、まともに受けたオーク達は、背後から迫ってくる仲間を巻き込んで後方へと激しく吹き飛ぶ。
「今ですっ!」
吹き飛んだ場所が、丁度魔法陣上に重なったところでアリスが叫ぶ。
「水の精霊よ!『ウォータースクライド!』」
アリスの言葉を受けて、ミリアが水の精霊を呼び出し、大量の水を発生させる。
狙いは違わず、地べたに転がるオークと、その周りでもがいているオーク達をまとめて濁流が飲み込む。
そのあまりにもの勢いに、アリスは魔石が流されて、魔法陣が崩れるのでは?と心配するが、アルフレッドやミリアの様子を見ていると、それは杞憂だと確信する。
だったら、と、アリスは自分の役割を遂行する為に動く。
「行きますっ!『サンダー・シュート!』」
アリスの持つ杖の先から稲妻がほとばしり、オーク達を包み込む。
オーク達の身体が一瞬ビクッと震え、そのまま硬直する。
ミリアの放った水を伝わり、その場にいるオーク全員が電撃により感電し、その場から動かなくなる。
「おー、怖っ。アイツ等怒らせない様にしないとな。」
アルフレッドはそんな事を呟きながら、仕掛けた罠を起動させるためにキーワードを唱える。
『
オーク達のいる場所に置かれた魔石が光を放ち、その光が魔法陣を形成していく。
そして、その直後、オーク達のいた場所が陥没し、オーク共々、その大地に穿たれた大穴に飲み込まれていった……。
「アルーっ。」
ミリアたちがアルフレッドのもとへ駆け寄る。
「アル様、凄いですぅ!あれだけの数のオークを一瞬にして……素晴らしいですぅ。」
アリスが、目をキラキラさせながらアルフレッドを持ち上げる。
「いやぁ、これも、アリスたちが足止めしてくれたおかげだよ。」
最近はその様に持ち上げられたことがないアルフレッドは、満更でもなさそうに笑いながら、アリスやミリアの事を褒め称える。
「それはいいんだけどね……掘り出せるの、コレ?」
ミリアは、お互いに称えあう二人を冷めた目で見つつ、オークが埋まっている先を指さす。
所々から、オークの手や足など一部のパーツは見て取れるが、陥没し、完全に埋まってしまっているそこから、オークを掘り出すのは至難の業だというのは、誰の眼から見ても明らかだった。
「…………。」
「掘り出せるの?」
「……。」
「掘り出せるんですかぁ?」
何故か、ミリアに並んでアリスまで聞いてくる。
「……依頼はゴブリン退治だったよなぁ。ゴブリンの所に急ごうかぁ。」
そう言って歩き出そうとするアルフレッドをジト目で見る少女二人。
「無理なのですね。」
「最初から素直に言えばいいのに。」
「……こんなのどうやって掘り出せっ言うんや!」
アルフレッドは地面から生えているオークの腕を掴みながら叫ぶ。
しっかりと埋もれているその腕は、当然の事ながらびくともしない。
「ハイハイ、分かってるって。取りあえずゴブリンの巣に行くんだよね。」
ミリアが、アルフレッドの肩を叩きながら先に行くように促す。
釈然としないまま歩き出すアルフレッド。
「地味な戦い方……ですかぁ……。」
背後からついてくるアリスがそんな事を呟いていた。
◇
「これは……また……。」
「……何もありませんねぇ。」
ゴブリンの巣があった場所に戻ってきたアルフレッド達。
その周りの様子を見て、ミリアとアリスが思わずため息を吐く。
巣と思しき洞穴はその入り口が崩れ落ち、見張りがいた辺りは爆風の影響で周辺の木が薙ぎ倒されている。
アルフレッドが、オークから逃げる際に放った、爆裂の魔石の影響だった。
「まぁ、討伐部位が残っているだけでもマシなのかしらね。」
ミリアがそう言いながら半ば地面に埋まっているゴブリンから耳を斬り落とし収納バックへしまい込む。
通常、モンスターの討伐依頼の成否の確認として「討伐部位」と呼ばれる、モンスターの一部分をギルドに提出する必要がある。
例えばゴブリン50匹の討伐の場合、50匹分のゴブリンの遺体を運ぶなんて言うのは実質不可能に近い為、一部分のみで確認するのだ。
ちなみにゴブリンの場合は耳だったりする。
「それって、左右の耳を持っていって2匹分とかいう人いないのですかぁ?」
討伐部位を集めるミリアの手伝いをしながら、アリスが疑問を口にする。
「うーん、冒険者になりたての新人が一度は考える事だよね。」
ミリアは苦笑しながらアリスに説明を始める。
その間も作業の手は休めないあたり、彼女も立派な冒険者だという事を証明している。
「確かにね、左右の耳を別々のゴブリンのものとして水増ししようと考える冒険者もいるんだけど、ギルドに設置してある特別な魔道具によって同個体か別個体かはすぐわかるのよ。だから、そんなこと考えちゃダメよ。」
「そうなのですね。ちなみに今回の場合、巣の退治なんですよね?討伐部位だけで、巣を潰したかどうかわかるものなのですか?」
アリスも、ミリアに倣って討伐部位を集めながら訊ねる。
「そのあたりは冒険者の信用の問題ね。依頼時の状況と討伐部位の結果と報告から、ギルドが成否を判断するんだけど、一応、後でギルドの専用の部隊が確認に行って査察するからね、問題ないのよ。
それで、明らかに虚偽の報告をしたことが分かれば、依頼の完遂は取り消されてペナルティを課せられるわよ。
そして、そのような事が続けば、信用がなくなるから、報告だけじゃ成否を判断してもらえず、調査が終わるまで待たされることになるから、場合によっては、それで期限が切れて失敗扱いにもなったりすることもあるのよ。
だからね、虚偽の報告は自らの首を絞めるに等しいのよ。それが分かっているまっとうな冒険者なら、当然そんな事はしないし、分かっていない冒険者はその内抹消されていくからね、結果として虚偽の報告をする冒険者はいないって事になるのよ。」
「そうなんですねぇ。勉強になりますぅ。」
ミリアとアリスがそのような会話をしながら、作業を続けている所にアルフレッドが戻ってくる。
「アル、洞穴の方はどうだった?」
アルフレッドは崩れた巣の入口を調べていたはずだったので、その成果を訊ねる。
「崩れていたのは入り口付近だけだったからな、そこは問題ないんだが……。」
「……厄介事?」
口籠るアルフレッドの様子を見て、何か面倒な事があったという事を悟るミリア。
言われなくてもそれくらいは分かるぐらいには、付き合いは長い。
「あぁ、見て貰った方が早いな。……こっちだ。」
先を歩くアルフレッドの後をミリアとアリスが追いかけ、アルフレッドに続いて洞穴の奥へと進んで行く。
それほど深い洞穴ではなく、三人は程なくして最奥の広くなっている場所へと辿り着く。
「これは……。」
「……どういうことなのですか?」
眼前の光景を見て首を傾げるミリアとアリス。
二人の目に映ったものは、縛られているゴブリン7匹と、裸に?かれた人間二人、そして何も纏っていないオークが1頭……全て息絶えている。
「オークは俺が倒した。俺が入ってきた時、その二人を襲っている最中だったからな。ちなみにその二人はその時点ではもう息はなかったぞ。」
「……何が起きていたのか分からないです?」
「これが厄介事?」
アルフレッドの言葉を聞きながら考え込むアリスと、何が厄介なのか分からずに訊ねてくるミリア。
「状況をから見た推測なんだがな……。」
アルフレッドはそう前置きをして自分の考えを話し始める。
「まず、その二人は隣りの領の兵士らしい。」
「何でそんな事が分かるの?」
アルフレッドの言葉に疑問を投げかけるミリア。
「そこの鎧だよ。」
アルフレッドは二人の遺体から少し離れたところに転がっているハーフプレートを指さす。
「本当ですぅ、この紋章はガーランド領のものですね。」
近くにいたアリスが、その鎧の胸元に掘られている紋章を見てそう言う。
「それで、そのゴブリン達を縛ったのは、たぶんその二人だろう。人質にして、ゴブリン達に言う事を聞かせようとしたか、あるいは、すでに何かしていたか……こればっかりは、ガーランド領の領主が何を考えていたかによるけどな。」
「なんで領主が出てくるの?」
「紋章入りのハーフプレートを着てたって事は、それなりの地位にいるって事ですよぉ。」
ミリアの疑問にアリスが答える。
「つまりぃ、その二人は領主の命を受けて何かをしにここまでやってきた……そういう事ですよね?」
確認してくるアリスに、アルフレッドは頷く。
「まぁ、そう言う事だな。ただ、こいつらの誤算は近くにオークがいたって事だな。」
「えっと、つまり、……どういうこと?」
考えが纏まらず、降参という感じで聞いてくるミリア。
「推測でしかないが、ガーランド領の兵士が、何か密命を受けてここまで来た。ゴブリン達がいたので利用しようとしたのか、利用するためにゴブリン達を見つけたのかは分からないけど、とにかくゴブリン達に何かをさせようとしていた。しかし、偶々近くにいたオーク達が人間の匂いに気づきやってくる。そこに、偶然にもゴブリンを退治しようとした冒険者……つまり俺たちのことだな………が来たので、オークの大半はその冒険者を追いかける。ここに残ったオークは、冒険者よりその兵士を襲う事を選んだんだろう。」
「えっと……つまりは……アルの所為?」
「なんでそうなるっ!」
「まぁまぁ、アル様もお姉さまも落ち着きましょうよぉ。」
「……そうだな、問題はそこじゃないしな。」
アリスのとりなしを受け、アルフレッドは大きく息を吸って気を落ち着かせる。
「どういうこと?」
アルフレッドの言葉を怪訝そうに聞き返すミリア。
その横ではアリスも、興味深そうにアルフレッドの次の言葉を待っている。
「この件をギルドに報告するかどうかって事だよ。」
「えっ?報告しないの?」
「報告しないんですかぁ?」
「いや、報告していいならするんだけどな……本当にいいのか?」
アルフレッドは転がっているハーフプレートを指さしながらアリスを見る。
「あ……うん、そういう事ですかぁ……困りましたねぇ。」
「えっと、アリスちゃん、どゆ事?」
ミリアだけが訳が分からずに首を傾げていた。
◇
「えーと、そろそろ説明して欲しいんですけどぉ?大体なんで野営なのよ?」
森の中、比較的安全な場所で野営の準備を終えたところで、ミリアが聞いてくる。
「食事の用意は出来たのか?」
「出来たわよ。だから聞いてるんじゃないの。」
「アリスは?」
「……シチュー持ったままボーっとしている。」
「そうか……まぁ、さっきの質問に答えるなら、街に戻ったらギルドに報告しなきゃならんわけだが、アリスの事情を確認してからじゃないとマズいって事ぐらいは、もうわかってるだろ?」
「まぁ……そうね。」
アルフレッドの言葉に渋々頷きながらアリスの方へ視線を向けるミリア。
ミリアもアリスの事を気にしてはいるのだった。
「……まぁ、取りあえず食事をしながらな。」
アルフレッドは焚火の前で座り込んだままのアリスに目をやってから、ミリアにそう告げると、ミリアは「仕方がないわね」というように頷いた。
「おいしいか?」
今日の食事は、とれたてオーク肉をふんだんに使った具沢山のシチューだ。
ここ最近の食事内容からすると、かなり豪勢な部類になる。
ミリアがアリスを元気づけようと考えているのがよく分かる。
普段であれば、オーク肉はすべて買い取り用に回され、アルフレッドが口にすることは滅多にない。
……オーク肉は高額で取引されるのだ。
「ハイ、とても……お姉さま、ウチの専属料理人になりませんかぁ?」
「お給料いくらぐらい?」
細々とシチューを食べているアリスに声を掛けると、笑顔で答え、更にはミリアにも声をかけるアリス。
その無理矢理作ったような笑顔がかなり痛ましいいが、それを分かったうえで、ノリに合わせるミリア。
「そうですねぇ、私のおもちゃ……じゃなくて話し相手を兼ねて日給銅貨3枚でいかがですかぁ?」
「今、この子おもちゃって言ったよっ!しかも安っ!」
「ミリアは俺の大事なおもちゃ……だからな、銅貨3枚じゃぁ貸し出せないな。せめて銅貨5枚は貰わないと。」
憤慨するミリアの肩を抱き寄せながら、アリスに反論する。
「アルまでっ!しかもいい直さなかったよ。そしてやっぱり安いっ!」
シクシクと項垂れるミリアを見て笑い合うアルフレッドとアリス。
「うぅ……私の価値って銅貨数枚……。」
「まぁまぁ、お姉さま、冗談ですからぁ。」
「そうだ、冗談だぞ……半分はな。」
「今、半分って言ったっ!半分ってっ!」
「半分がどの範囲かは置いといて、本当に美味しいですぅ。お代わり貰えますかぁ。」
「うぅ、半分てどっち?おもちゃの方?銅貨の方?……。」
ミリアは涙目になってそんな事を呟きながらも、アリスのリクエストに応えてお代わりをよそう。
そんなバカな話と、食事のおいしさが相まって、徐々にアリスの顔に作り笑いじゃない笑顔が戻って来る。
それを見たアルフレッドとミリアはひとまず安心して、ホッと胸をなでおろすのだった。
「えーと、まずはお二人に謝らないといけないことがあります。ごめんなさい。」
食事を終え、一心地着いた辺りで、アリスがそう切り出してくる。
「それは、隠し事なしで全部話してくれるって事でいいのか?」
「ハイ、全てをお話します。その上で、お二人にあらためてご協力いただきたいのです。」
「協力できるかどうかは、まずは話を聞いてからだな。」
アルフレッドはそう言ってアリスの話に耳を傾ける。
「………。」
「………、」
「………。」
「……どうした?」
いつまで経っても口を開こうとしないアリスを訝しみ、アルフレッドが訊ねる。
「いえ、先日私の事をお話しようとしたら、即答で拒否されましたので……大丈夫かなぁ……と。」
「……話さなくてもいいぞ。面倒事は嫌いだ。」
「わわっ、待って、待ってくださいぃ~~、ちゃんと話しますからぁ~。」
聞く態勢をやめ、立ち上がろうとするアルフレッドを、アリスが慌てて腕を引っ張り止めに入る。
「お願いですからぁ~、聞いてくださいぃ~。」
「……だったら最初から素直に話せよ。」
「いやぁ、今のはアルも悪いと思うけどねぇ…….。」
ミリアの呟きを無視して、アルフレッドは座り直して、再び聞く態勢に入る。
「えっと、ですねぇ、ロイド家の当主は現王の弟って事はご存じですよねぇ?」
「あぁ。」
「でぇ、私はぁ、ロイド家の次女という事になってますからぁ、今の王様は伯父様という事になるのですがぁ……。」
「それで?」
何やら間延びした感じで、ハッキリ言おうとしないアリスに、少し苛立ちを感じながら先を促す。
「実はぁ……お父様なのですよ。」
「「はぁ?」」
思いがけない告白に、アルフレッドとミリアの驚愕の声が響き渡った。
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