第2話 お姫様の依頼には裏がある?

「では、私達の出逢いに乾杯。」

 アリスが大人びた表情で言いながらグラスを掲げる。

 アルフレッドとミリアは、同じように「乾杯」と言ってグラスを掲げ、中の液体を飲み干す。


 アルフレッド達がいるのは、高級レストラン「シェルフィン」の展望ルーム。

 極一部の限られた人達しか入れないVIPルームだ。

 製造が難しく、王都でも中々見かけない硝子板で囲まれたこの部屋からは、街中が一望でき、眼下には煌めく夜景が広がっていた。


「街の明かりが、まるで星の海の様に見えませんか?私のお気に入りなんですの。」

 そう言って笑いかけてくるアリスの表情は年相応に見えて、アルフレッドの表情も自然と柔らかくなる。


「ホントだぁ~。素敵!アリスちゃんありがとうね。」

 振り返るミリアの笑顔は、きらめく街明かりに埋もれることなく輝いている。

 アリスに態度に何か裏があるのでは?と警戒していたアルフレッドだが、アリスが今見せた、年相応の笑顔、そしてミリアのこんな表情を見て、まぁ良しとするか、とアルフレッドは思うのだった。


 その後も他愛のない会話を交えつつ、食事をすすめていく。

 アリスは、冒険の話を聞きたがり、それをうけてミリアが今までにあったことを、面白おかしく話していく。

 と言っても、大半がアルフレッドのミリアに対する扱いが酷い、と言う話になるところから、いかに普段からミリアが不満をため込んでいたか、と言うことが見え隠れしている。


 その様な会話をしている間にも、料理のコースはすすんでいく。

 一流のレストランだけあって味も雰囲気も文句無しだった。

 ふと気になって、さり気なく料金を聞いてみると、コース内容にもよるが、平均して銀貨20枚前後と言われ、だったらコレくらいの味と雰囲気とサービスは当たり前か、と納得するアルフレッドだった。



「さて、そろそろ本題に入りましょうか?」

 デザートが出てきたところで、アリスがそんなことを言う。

「本題?」

 この場に似つかわしくない単語が、アリスの口から発せられたのに驚き、アルフォードは彼女を見つめる。

「えぇ、本題ですわ。アル様やお姉さまをここに呼んだ……ね。」

 アリスはニッコリと微笑みながらそう告げた。


「えーと、アリスちゃん?私、そろそろ帰っていいでしょうか?」

 ミリアが恐る恐ると言った感じでそう告げる。


 アリスの笑顔を見た時、ミリアは「この笑顔、見た事がある」と思うと同時に、この先自分に何が起きるのかを、一瞬のうちに悟ったのである。

 そう、アリスの笑顔は、アルフレッドが自分に対し、無茶ぶりをするときの笑顔と同じだったのだ。


「あら、お姉さま。そんなこと言わずに、ここのデザートは絶品ですのよ?」

「え、えぇ、美味しいけど……アルぅ~。」

 助けを求める様にアルフレッドを見るミリア。

「アル様、ここのお食事はどうでしたか?」

そのミリアの様子を見ながら、アリスはアルフレッドとの会話を続ける。


「いや、そのな、確かに美味しかったが……。」

 アルフレッドが言い終わらないうちに、アリスは言葉を重ねる。

「それは良かったですわ。では依頼料の一部としては十分ですわね。」


「「えっ?」」


 アリスが何を言っているのか分からない、という顔をするアルフレッドとミリア。

それに対し、アリスはただ笑顔を向けるだけ。


「ここの支払いは依頼の報酬に含まれていますので、安心してくださいな。お姉様、お代わり頼みますか?」

 デザートのケーキのお皿を掲げながら、アリスがミリアに問いかけるが、ミリアはフルフルと首を振る。

「えっと、一つ確認したいのだが?」

「ハイ、何でしょうか?」

「依頼の報酬って、昼の護衛依頼の事だよな?」

 ニコニコと笑っているアリスに、アルフレッドは恐る恐る訪ねる。


「イヤですわ。アル様ったら何おっしゃってるんですか?昼の依頼料はすでに支払い済ですわよね?」

「じゃぁ、依頼料って言うのは……。」

「勿論、これからお話する依頼の報酬ですわ。」

「その依頼を受けないと?」

「それはぁ、やっぱりぃ、ここの支払いをしていただきませんとぉ……。」

アリスはわざとらしく、身体をくねらせる。


「……ちなみにいかほど?」

 惚けたように言うアリスに、一応料理の値段を聞いてみる。

「そうですわねぇ。お二人に喜んでいただきたいと思って少し頑張りましたからぁ……大体おひとり様銀貨30枚でしょうかぁ?」

 その金額を聞き、アルフレッドはミリアを見るが、彼女はフルフルと首を振り、両手で大きくバッテンを作る。


 アルフレッドが受け取ったお金は、素材や触媒を購入したせいで、宿代程度しか残っていないが、どうやらミリアの方も似たような状況らしかった。


 くっ、まさか、こう言う手で来るとは……。


ハメられた!とアルフレッドは思うが今更である。


 取りあえず、話は聞いてやるとしても、依頼については絶対に断ってやる。それがせめてもの仕返しだ、と心に決める。


 こういう脅しを受け入れる謂れもなく、こんなことを許す訳にはいかない。

 支払いについては……まぁ、訳を話して皿洗いでもすれば何とかなるだろう。


「……それで、依頼というのは?」

 何があっても断ってやる、と、アルフレッドは目の前のアリスを睨む。


「ハイ、私の護衛です。」

 嬉しそうにそう答えるアリス。

「それだけか?」

「これ以上は、正式に受けていただいてからお話いたしますわ。それで依頼料なのですが……。」


 アリスが出してきた条件は、1日当たり銀貨2枚、襲われた時など危険があった場合、その程度に応じての危険手当は別途あり、そしてここの支払いと依頼を受けている間のこの街での滞在費という事だった。


 条件としては悪くなく、普段であれば受けても構わなかったが、この様にハメて来る相手の依頼など素直に受けれるわけがない。


 アルフレッドは、断りの言葉を告げる為にアリスを見る。

 彼女は物怖じもせずニコニコと笑っている……が、テーブルの上に置いた手が微かに震えているのが見えてしまった。

 それを見たアルフレッドは、彼女にはここまでするほど深い理由があり、必死なんだという事が分かってしまい、言葉に詰まる。


「仕方がないですね。その依頼受けてあげます。」

 横からミリアが口を挟む。


 ミリアはそのままアリスの背後へ移動し、後ろからそっと彼女を抱きしめる。

「アリスちゃんが、ヘタに隠し事をせず、ちゃんと話してくれるならね。」

 ミリアがそう囁くと、アリスの身体から力が抜けるのが分かる。


 ミリアも、途中からだったが、アリスが無理をして演技をしている事に気が付いていた。

 そして、その小さな体が震えている事にも……。

 だからだろうか、気づいたらアルフレッドが答えるより早く、口と身体が動いていたのだ。


 アリスは驚いた顔でミリアを見あげ、そしてアルフレッドに視線を戻す。

「ホントに……受けていただけるの……ですか?」

「まぁ、金がないからな。ここの支払いなんか、とてもじゃないが無理だしな。」

 アルフレッドはそっぽを向きながら、そんな風に言う。

 その姿を見て、ミリアはクスリと笑い、素直じゃないんだから……と、小さな声で呟く。


「ありがとうございます……。」

 そんなアルフレッドやミリアに対し御礼を告げるアリスの眼から一滴の涙がこぼれる。

「あれっ?なんでだろう、おかしなぁ……。」

 アリスは慌てて目元を拭うが、緊張が解けた反動か、次々と溢れ出す涙を抑える事は出来なかった。


  ◇


「まだ怒ってるの?いい加減機嫌直してよぉ。」

 アリスとの食事を終えた帰り道、アルフレッドと腕を組んで歩くミリアが、絡ませた腕をさらに引き寄せながら、甘えた声を出す。


 ミリアが纏っているのは、薄い青を基調とし、レースをふんだんに使用したワンピースタイプのドレス。


 ミリアが動く度に、膝丈より少し上でふわりと翻るスカートの裾が、可愛らしさを演出している。


 アルフレッドの腕を包み込んでいる、少し開いた胸元が、いつもより強調されているのは、きっと色々盛っているからだろうと推測されるが、そんなことを正直に言わないだけの分別は、アルフレッドも持ち合わせている。


 高級レストランでの食事という事で、気合を入れておめかししたミリアの姿は、それなりに長い付き合いになるアルフレッドにしても新鮮なものであり、ぶっちゃけ、どぎまぎしていて、普段のような軽口が叩けるような状況ではなかった。


「おぅ、まぁ……別に……怒ってはいない。」

 だから、殊更ぶっきらぼうな口調になるのも仕方のない事ではあった。


「えへっ。」

 ミリアは、何が嬉しいのか、笑顔を振りまきながら掴まっている腕に更にしがみついてくる。


「歩き辛い……。」

「もぅ、ムードないなぁ。それに折角買ったんだからもっと褒めてよぉ。」

 そう言いながら、ミリアは少し離れると、ドレスを見せる様にくるりとターンをする。


 遠くの街明りをバックに、近くの淡い街灯に照らされた彼女の姿は、幻想的と言っても過言ではない程輝いて見える。


「あぁ、可愛い可愛い。」

 だから、アルフレッドは内心の動揺を押し隠すように、ワザと軽い調子でそう答える。


「もぅ!心籠ってないよぉ!」

 少し膨れっ面をしながらも、ミリアの顔には笑顔が浮かんでいた。


「お前、酔ってるだろ?」

「エヘッ、酔ってないよぉーだ。」

「酔っぱらいはみんなそう言うんだよ。」

 アルフレッドは、呆れつつも、ミリアの身体を支える。

 ミリアは、重心を預けながら、アルフレッドに寄り添う。


「アリスちゃん、何か色々抱え込んでそうだよね。」

「あぁ、厄介事の塊にしか見えないな。」

 歩きながら、ぼそりと呟くミリアに、アルフレッドはそう返す。


「うん……でも放っておけなくてつい……ヤッパリ怒ってる?」

 ミリアがアルフレッドの顔を覗き込むように見あげてくる。

 アルコールが入っているせいか、上気して赤く染まった頬、少し潤んだ瞳……元より、エルフ特有の整った顔立ちの所為で、普段より可愛く見えてしまう。

「怒ってないって……ミリアが言い出さなくても、結局は依頼を受けていたさ。」

 アルフレッドは、動揺を抑えながらそう答える。

「だよねぇー。アルってば女の子にやさしいもんねぇ。」

 このロリコン、と笑いながら見上げてくるミリアのおでこにデコピンを入れる。 

 アイタタと額を抑える姿が、また何とも可愛らしく、アルフレッドの鼓動がさらに早くなる。


 ミリアが可愛く見えるなんて、きっと俺も酔っているんだ……。

 アルフレッドはそう思いつつ、寄りかかってくるミリアを支えながら、宿への道をゆっくりと歩いていくのだった。



 チュンチュンチュン……。

 小鳥の囀りと、窓から差し込む陽の光を浴びて、アルフレッドは目を覚ます。


「ふわぁぁぁ……眠ぃ……。」

 上体を起こし、大きく伸びをするが、眠気はなかなか取れない。

 昨晩は、妙に可愛かったミリアの顔がちらついて、なかなか寝付けなかったのだ。


「ハァ、どうかしてるぜ。」

 アルフレッドは大きく頭を振り、顔でも洗おうかと、ベッドから降りようとすると、足元に何かが転がっているのに気づく。


 足元に転がっている物体を見て、アルフレッドは、再度大きくため息を吐く。

「やっぱ、昨日のは気の迷いだったんだな。」

 そう呟きながら足元の物体を足で転がして声をかける。


「おい、ミリア。いい加減起きろよ。」

 足元に転がっていたのは、ミリアだった。

 多分寝惚けてベットから転げ落ちたのだろう。

 そのまま戻ろうとしてシーツを掴んだまま力尽きた……というのが多分正解だと思う。


 寝巻は乱れ、口の端からは涎をたらし、その顔はどんな夢を見てるのか分からないが、だらしなく緩んでいる……この様子を見ていると、昨夜の帰り道に見た姿は、夢だったのではないかと思うぐらいに落差が激しい。


「むにゃぁ……あるぅ……ダメェ……。」

「ったく、どんな夢見てるんだ……起きろよ。」

 アルフレッドは、彼女の肩に手を掛けて揺さぶってみる。


「うーん……コッチだってばぁ……。」

 ミリアの腕がアルフレッドの首に回され引き寄せられる。

 不意を突かれてバランスを崩したアルフレドとミリアの顔が間近に迫る。

 目の前にあるミリアの顔を見て、アルフレッドの心臓は早鐘のように激しく脈打つ……あとほんの少し顔を近づければ、ミリアの唇が……。


 アルフレッドは何かに導かれる様に、顔を近づけていく……。


「むにゃぁ……そうよ~、アルは、私のペットなんだから言う事聞くのよぉ~。」

 あと数ミリで接触するという所で彼女の口から紡がれた寝言に、アルフレッドは我を取り戻す。


「起きろっ!」


 アルフレッドは身を起こして、ミリアの頭を思いっ切り叩く。

「痛っ~~……えっ何?なんなの?」

 痛みではね起きたミリアはキョロキョロと辺りを見回す。


「お早う、目ぇ冷めたか?」

「ウン、おはよぉ……ふわぁ~~……あれ?アルが元に戻ってる?」

 大きな欠伸をした後、不思議そうな顔でアルフレッドを見つめるミリア。 


「寝惚けてんのか?俺は変わってねえよ……ったく、どんな夢を見てたんだか……。」

「そっかぁ……夢かぁ……女装して首輪をつけたアルが「ミリアお姉さまの言う事ならなんだって受け入れます」って言ってたの可愛いかったのになぁ……って痛っ!何するんですかっ!」

「くだらん夢見てるんじゃねぇ!」

 乱れた衣類を直しながらそう言うミリアの頭を叩くアルフレッド。

「ったく……ヤッパリ昨日は俺も酔ってたんだな。」

 頭を抱えたミリアを放置して、洗面所に向かうアルフレッドは、ミリアに聞こえない様にそう呟くのだった。



「それで今日はどうするんですか……これ美味しぃ……。」

 目の前に座るミリアが、ジャムをたっぷりと付けたパンを頬張りながら聞いてくる。

 アルフレッド達は、宿の1階にある食堂で朝食をとりながら、今日の予定について話をしているところだった。


「取りあえずは、アリスの所に行くしかないだろ?詳しい話を聞いてからじゃないと、予定が決められない……ジャムついてるぞ。」

「えっ、嘘、どこ?」

 ミリアのほっぺにジャムがついていることを指摘すると、顔を赤くしたミリアは慌ててふき取る。


「まだついてますわよ。」

 横からハンカチを持った手が伸びてきて、ミリアの口元を拭う。

「ありがと……ってアリスちゃんっ!?」

 いつの間にかアリスがミリアの横に座っていた。


「おはようございます、アル様、お姉さま。」

 アリスが朝の挨拶をしてくるので二人もつられて挨拶を返す。


「アリスちゃん、何でここに……。」

 驚きながらも、辛うじてそれだけを口にするミリア。

「それはもちろん、お二人の監視……ではなくて、お二人に会いに来たのですわ。」

「今、監視って言ったよね?この子監視って言ったよね……。」

「気のせいですわ。それより、お食事が終わったら、お二人のお部屋でお話しできますでしょうか?」

 オタオタしているミリアを放置して、アリスはアルフレッドに訊ねる。


 ここの食堂は、安い割に味も良く、宿泊客以外でも利用が出来るため、朝から賑わっている。

 そのため、ちょっとした雑談ならともかく、重要な話をするには向いていない。

「……そうだな、部屋の方がいいだろうな。」

 アルフレッドは少し考えてから、アリスにそう答えた。




「では、改めまして、アルフレッド様、ミリアルド様、依頼を引き受けて下さりありがとうございます。」

 食事を終えた後、部屋に戻ると、アリスは居住まいを正し、深々と頭を下げる。


「まぁ、やり方にちょっと不満はあるけどな。」

「アル、そんな言い方ないでしょ。」

 アルフレッドの不機嫌さを隠さない口調をミリアが咎める。

「お姉さま、いいんです。確かにあのやり方は褒められたものじゃありませんから……それでもなお、依頼を受け入れて頂いたこと感謝申し上げますわ。」

 更に頭を下げようとするアリスを、アルフレッドが止める。


「それはもういいから……、それよりどこへ何しに行くのか?とか期限はいつからいつまでか?とか詳細を話してもらえるか?」

「そうですね、時間は何物にも代えがたく貴重なものですからね。」

 そう言って、アリスは依頼について話し始めた。


 アルフレッド達がいるミルトの街は、セイファート大陸の南方一帯を治めるアスラム王国の中でも南に位置するザンスカール地方・ロイド領の端にある小さな街だ。


 小さいとはいっても、周りの村落や森からの恵みは豊富で、山を越えたところにある港町からの、新鮮な海産物や、海を越えた貿易品など、流通の中継点となっている為にそれなりの賑わいを見せている。

 ロイド領としても大切な街だという事は、娘が住む為の屋敷を構えている所からも伺える。


 そして何より、ミルトの街が有名なのは、30数年前に、突如として現れた勇者が、最初に訪れた街と言われているからだった。


 魔王の脅威が本格的になって来た頃、突如としてこの街を訪れた勇者は、この町を拠点として付近の遺跡を探索して回ったという。

 勇者が何を求めて遺跡を巡っていたのかは明らかにされていないが、勇者が何かを得たのは間違いないらしく、何らかの力を得た勇者はこの街から旅立ったと言われている。



「……つまり、その勇者が回った遺跡を、アリスも巡り回りたい、そう言う事か?」

「その通りですわ。」

「でもなんで今更遺跡巡りなの?」

 ミリアが聞く。

 勇者が回った遺跡と言えば聞こえがいいが、勇者によって魔王が封印されて30年経つ。

 その間に起きた勇者ブームによって、各地の遺跡は調べ尽されていて、今更廻っても新しい事が分かるわけでもない。


「そ、それは、ほら、私が勇者様のファンで、勇者様の見た景色を見たいから……ほら、『聖地巡礼』ってやつです。」

 アリスの言葉の端々に動揺が見られる。

 嘘は言ってないけど、何かを隠している、というのは明らかだった。


「建前は分かった。それで本音は?」

 だからアルフレッドは直接切り込む。

 隠し事を抱えた依頼人から、依頼を受けるほど危険なことは無いのだ。

 今までのアリスの様子からすれば、犯罪にかかわる事ではないと思うが、隠されている内容によっては、危険度・難易度が跳ね上がる可能性もある。

 それらの事を見据えて準備をしないと護衛依頼など務まらない、だから詳細な情報は必須だった。


「昨日も言ったように、今更隠し事はナシだ。正しい情報がないと、護れるものも護れなくなるからな。」

 アルフレッドの真剣な眼差しを受け、アリスも誤魔化しきれないと観念したのか、ゆっくりと口を開く。

「聖地巡礼というのは嘘じゃありませんわ。ただ、その理由については、今は話せません。……私だって、出会って間もない方に全てを曝け出す事が、どれほど危険か位は知ってますのよ。」

「隠し事されると、いざという時に後手に回るぞ?」

「承知してますわ。」

 アリスとアルフレッドが睨み合う。

 間に挟まれたミリアはどうしていいか分からずオロオロしていた。


「……まぁ、いいだろう。これ以上は時間の無駄のようだ。」

 先に折れたのはアルフレッドだった。

 口にした通り、ここで睨み合いを続けるより、この後の依頼を通じて探った方が早いと判断したのだ。


「分かっていただけて何よりですわ。」

 アリスは表情を緩め笑顔で答えながら、アルフレッドに気づかれない様にそっと体の力を抜く。


 アリスは余裕の表情を崩さないようにしていたが、その実内心ではかなり怯えていた。

 実戦の経験もロクにないお嬢様が、それなりに修羅場をくぐってきた現役の冒険者の威圧を受けて、平気でいられる方がおかしいのだ。

 本当なら、このままへたり込みたい所だったが、アルフレッドの言うように時間を無駄にするわけにはいかない。

 だから、アリスは気力を振り絞って、次の行動を口にする。


「ご理解も頂けたようですし、早速出発いたしましょう。」

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