第016話 「私今忙しいの」職業さんは仕事を放棄した

「くらえ!!」


 俺はシャイニングミーに駆け寄って木の棒を振り上げる。彼ら相手では棒を封印していては戦えない。


「ピィ……」

「……」


 しかし、俺はその木の棒を振り下ろすのを止めた。


『シャイニングミーが仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか? Yes or No 』


 なぜなら、突然、目の前にウィンドウが出てきたからだ。


 その内容に合わせるように、目の前でシャイニングミーがフルフルと体を震わせて懇願しているような雰囲気を出している。


「ええぇえええ!? なんでモンスターを仲間にするウィンドウが出てくるの!?」


 俺が動きを止めたことを不審に思ったのか亜理紗が俺に背後に近づいてきていて、表示されたウィンドウを見て驚いていた。


「ん、これは、普通は出てこないのか?」

「勿論だよ。このウィンドウってテイマーって職業じゃないと出ないものなの。なんでサモナーなのにこのウィンドウが出てるの!?」


 問い返すと、亜理紗は困惑する表情のまま声を荒らげる。


「そんなこと言われても俺が知るはずないだろ? ゲームをやったことがあるわけじゃないし」

「それもそうだよね。これもおじさんだから、ということで納得するしかないか。それで、どうするの? 仲間にするの?」


 なんだかひどく貶されているような気がするのは気のせいだろうか。


「うーん、どうしたものか」


 対応に悩む俺はシャイニングミーを見つめる。


 その見た目はなんだかぷにぷにしてて可愛げがある。それだけで仲間に入れて損はない。


「キュンッ」

「キュウッ」


 マヒルとヨルはシャイニングミーを挟むようにして、鼻で突っついている。シャイニングミーは楽し気に揺れた。


「もしかして、仲間にしてほしいのか?」

「「キュンッ」」


 マヒルとヨルに聞いてたら、楽しそうに二人は頷いた。彼女たちがそういうなら仲間にするか。


「それじゃあ、Yes、と……」


 俺は出てきたウィンドウのYesボタンをタッチした。


『シャイニングミーが仲間になりました。名前を付けてください』

「あ、はい、はーい!! 私名前つけたい」


 名前を付けるウィンドウが出てきたところで亜理紗が手を挙げて名づけを買って出る。


「ん? 別にいいぞ」

「ちょっと待ってね」


 俺は特にこだわりはないので亜理紗に任せることにした。亜理紗はシャイニングミーを前にして腕を組んでウンウンと唸る。


「あ、閃いた!!」


 暫くすると、天啓でも降りたかのように晴れやかな表情をする亜理紗。


「なんて名前だ?」

「ワラビモチ!!」


 しかし、飛び出したのは食べ物の名前だった。まさか見た目そのままの名前をつけるとは思わなかった。


「「「……」」」


 俺とマヒルとヨルの間に沈黙が漂う。

 なんて反応したらいいのか分からない。


「えっと……駄目?」


 なんの反応を示さないことで不安になった亜理紗が上目遣いで俺を見つめる。


 くっ。姪っ子にそんな風な顔をされたらダメなんて言えるわけないだろ……。


「俺は可愛いと思うが、最後はシャイニングミーに聞いてみないとな? どうなんだ?」


 俺は苦肉の策として本人に尋ねるという技を使った。その結果、シャイニングミーは肯定するように嬉し気にピョンと飛び跳ねる。


「どうやらワラビモチで良いそうだ」

「やったぁ!!」


 許可された亜理紗は、体を目いっぱい使って嬉しさを爆発させた。


 ふぅ……どうやら助かったようだな。


「よし、お前の名前はワラビモチだ」

「ピッ」

『シャイニングミーは固有名ワラビモチと命名されました』


 俺たちのパーティに新たにシャイニングミーのワラビモチが仲間になった。


「あっ。もう一匹いるぞ?」

「ホントだ」


 そして、近くにはさらにもう一匹のシャイニングミーがふるふると揺れている。


 どうやら俺たちに敵対する意思はなさそうだ。


「亜理紗も一匹どうだ?」

「どうだって、テイマーどころか、サモナーでさえない私がテイムできるわけないでしょ?」


 俺はシャイニングミーを持ち上げて差し出すが、亜理紗は困惑の表情をする。


 俺ができるんだから亜理紗もテイムできると思うんだが……。


『シャイニングミーが仲間になりたそうにこちらを見ている。どうしますか? Yes or No 』

「え?」


 俺の考えが正しいことを示すように、亜理紗とシャイニングミーの間にウィンドウが表示された。


 透けているのでこちらからでも内容が読める。


「お、やっぱりできるじゃないか」

「こんなのおかしいよぉおおおおっ!!」


 亜理紗は叫んだ。


 やっぱり俺にできることくらい彼女に出来ても当然だよな。


 しばらくして興奮から落ち着いた亜理紗は、そのシャイニングミーを仲間にして、ワラビモチと並んでカシワモチと命名。


 俺たちは賑やかな一行となった。

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