ハッピーおじさん~不幸のどん底に落ちた男、幸運値が限界突破し、姪っ子の配信でバズるも、気づかないまま規格外ダンジョンを食糧庫代わりにして最強を超える召喚獣や従魔達とスローライフ~
第017話 知らない所でもハッピー(別視点)
第017話 知らない所でもハッピー(別視点)
■とあるプレイヤー視点
「皆逃げなさい!!」
私は突然現れたその存在を前にして今回の臨時パーティの仲間達に告げた。
「グォオオオオオオッ!!」
私たちの前に現れたのは、ゲーム内でオーガ呼ばれる巨大な鬼のようなモンスター。大体レベル四十~五十くらいにならないと倒せない強さだ。
しかし、現実世界はまだ変貌して三カ月。
世界最高レベルのプレイヤーでも二十六。私は二十一で、国内でもトップレベルのプレイヤー。他のメンバーは十五~二十の間。とてもではないけど、今のパーティのみで討伐するのはほぼ不可能に近い相手だ。
そんなモンスターと私たちは遭遇してしまった。本当についてない。
今日は、プレイヤーズギルドからの依頼を受けて、山間部奥地の調査のためにその場所を訪れていた。
途中まではなんの異変も兆候もなく、和やかなムードで雑魚モンスターを倒しながらマッピングしていた私たち。
しかし、もうすぐ山の山頂に近くなってきたというところで、いきなりこのオーガが現れた。今までこれほど強いモンスターが現実に現れたという報告はない。
完全にイレギュラーな事態だった。
「きゃあああああっ」
「し、死ぬ!?」
「誰か助けてくれぇええええ!!」
私たちは必死に走り出して、オーガから逃げようとする。
「グォオオオオオオッ!!」
しかし、オーガの現実世界での身体能力は予想よりも高かった。プレイヤーである私たちが徐々にその距離を詰められていく。
「しめた!!」
「あの橋を渡れば追いついてこれないぞ!!」
「早く渡りましょう!!」
幸いかなり長い吊り橋があり、そこさえ越えればいくらオーガでも飛び越えてはこれないだろうというだけの距離がある。
ただ、オーガが黙って待っているとは思えなかった。
「こっちに来なさい!!」
私は他の三人が橋を渡り始めたのを確認した後、オーガを挑発するように叫ぶ。私の職業はマジックガンナー。魔力を弾丸として打ち出して攻撃とする職業だ。
何度もオーガに銃撃を打ち込んで自分への敵愾心を煽る。
「グォオオオオオオンッ!!」
私の目論見は成功し、オーガは私の方を追いかけ始める。
「先輩!!」
「なんでこんなことを!!」
「戻ってください!!」
仲間たちは沈痛な面持ちで私に向かって叫ぶのが視界に入った。
「あなたたちはこのことをギルドに知らせなさい!! いいわね!!」
それだけ言って私はオーガを彼らから引き離すべく、チラチラとオーガを窺いながら森の奥の方に走る。
「グォオオオオオッ!!」
「ちっ」
オーガが拳を振り下ろした。私は間一髪のところで転がり、その一撃を躱した。そして、すぐに飛び起き、再び走り始める。
「はっ」
「せやっ」
「たぁっ」
攻撃と回避をギリギリのところで繰り返しながらひたすらに走り続けていると、森を抜けて岩壁が目の前に現れる。
しかも、左右にも同じように高い岩壁があり、コの字型になっていて、逃げられそうにない。
「グッグッグッグッグッグッ」
私が逃げ場を失ったのを理解したオーガはくぐもった笑い声を上げた。
「私も腹をくくるしかないみたいね……」
両手に銃を構えてオーガと相対する。
「グガァァアアアアッ」
「はっ!!」
私はオーガの攻撃を何とか躱して銃撃を放つ。
――バンッバンッ
銃撃はオーガの体に直撃して大きな破裂音を鳴らす。しかし、その部分に傷一つない。
「グッグッグッグッ」
オーガは攻撃が当たった場所をボリボリと掻きながら、どうした、そんなものかと、私をあざ笑う。
「舐めんじゃないわよ!! エーテルバスター!!」
私は通常の攻撃よりも数倍の威力を誇るスキルを発動させる。その分、魔力消費が激しくてあまり数が打てない。でも、どっちにしろこのままじゃ状況は悪くなる一方、どうにかして打開策を探さなきゃいけなかった。
――ドォオオオオオオオオンッ
先ほどとは比べ物にならない轟音と爆発がオーガに襲い掛かる。
「まさか……ほぼ無傷だなんてね……」
爆発の煙が晴れて姿を現わしたオーガは擦り傷程度。私の渾身の攻撃を受けてもほぼダメージを負っていなかった。
「グォオオオオオッ!!」
「きゃあああああっ!!」
それでも痛みはあったのか、オーガは私に迫り腕を振り回す。呆然としていた私は、躱すことができずに直撃を受けてしまった。
――バンッ
「カハッ」
岩壁に背中を叩きつけられて、口から息が吐き出される。
「ぐっ」
私はなんとか立ち上がった。口の中に血の味が広がる。たった一撃で何本も骨が折れ、かなりマズい状況に追い込まれてしまった。
強すぎる……。
「グッグッグッグッ」
上から影が差して見上げると、そこには口を大きく歪ませたオーガの顔が見える。完全に勝ちを確信しているような笑みだった。
「でも……それでも、私はこんなところで死ぬわけにはいかないのよ!!」
ボロボロの体を無理やり動かして、ポーションを飲んで体と魔力を回復させる。
私には病院で待つ妹がいる。妹は現代医学では治療の難しい病気にかかっている。でも、ゲーム内であらゆる状態異常を治す薬だった万能薬なら治せる可能性がある。
私は万能薬を手に入れて妹の病気を治すまでどんなことをしても生きなきゃならない。
ここの調査を引き受けたのも、万能薬の素材をドロップするモンスターがいないかいち早く確かめるためだった。
「うわぁあああああっ!! イクスバスター!!」
私は最後の切り札を使用する。それは魔力と生命力をほぼ全て使用してレーザーのようなエネルギー弾を放つ技。
FIOには稀に特定の人間だけが使えるスキルを与えられることがある。これは運よく私だけに与えられた固有スキル。私の最大最強の技だ。
この技を放った後の反動がキツくてほぼ動けなくなるのであまり使いたくはないけど、背に腹は代えられない。
――ドゴォオオオオオオンッ
まるで爆弾でも爆発したかのような爆風と振動、そして轟音が響き渡る。私は立っていられなくなって爆風に吹き飛ばされて壁に激突する。
これなら格上のモンスターでもひとたまりもないはずだ。
なんとか顔を起こして煙の方を見つめる。
「そんな……」
しかし、その爆発の中から姿を現したのは体のあちこちが焼けただれ、かなりのダメージを受けているが、確かに五体満足で生きているオーガだった。
「グォオオオオオオオオッ」
オーガは弱いと思っていた私に大きなダメージを与えられたことで、本気になって私に襲い掛かってくる。
反動で全身がほとんど動かせない……ここで終わりなの……?
「ごめんなさい……真里菜……」
私は妹の名を呼んで目を閉じる。
ホントにこんなところで死ぬの? 病院で申し訳なさそうに力なく笑うあの妹を残して? いやだ……死にたくない……。
「だ、誰か……助けて……」
私は涙を流して祈る。
――ズバァアアアアアアアアンッ
次の瞬間、私のイクスバスター以上の轟音が近くを通り過ぎていった。数秒、数十秒、一分、数分、待てど暮らせどオーガの攻撃がこない。
私は薄っすらと眼を開ける。
「え?」
私は無意識に声を漏らしていた。何故なら目の前にいたはずのオーガが綺麗さっぱり消えてしまっていたからだ。
「なによ、これ……」
その代わりに一本道が出来たように森が切り裂かれていた、まるで凄まじい何かが通り抜けたように。
私はその後、意識を失い、気付けば病院のベッドで目を覚ました。
「本当に助かったわ……あれは誰の仕業だったかな……」
私は窓の外の空を見つめて呟く。
わたしがその恩人を見つけるのは、そう遠くない未来。
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