第007話 ランダムさん「探さないでください」

 次の日。


「それじゃあ、ステータスの説明をするね」

「ああ」


 昨日は亜理紗が意気消沈してしまい、そのまま続けられそうになかったので、彼女を家まで送った。


 別にいいと言ったのだが、昨日と同じ場所で続きを教えてもらうことになって今に至る。


「おじさん、レベル上がってるよね?」

「ん? ちょっと待ってくれ」


 亜理紗の言葉を聞いて自分のステータスを開いてみる。


「四まで上がってる」

「レベルが上がると、ステータスポイントってものが貰えるんだけど、それを能力値に振り分けることで、自分の能力を高めることができるの」

「ああ、これか。なるほどな」


 ステータスにはPHY、DEX、PSI、RES、LUKの五つの能力値がある。それぞれ身体強度、器用さ、魔力、抵抗力、運を示しているとのこと。


 能力値にポイントを振り割ると、対応した能力が強化されるらしい。ポイントを振るだけで強くなれるなんて便利なシステムだ。


「レベルが上がるごとに貰える基本ステータスポイントは一~三でランダム。それに職業による追加ポイントが加算されるの。下級職で一ポイント、上級職で一~二ポイント、最上級職で一~三ポイントね。しかも、レベルアップ以外で貰える方法で今分かっているのは、初めての称号を誰かが獲得した時のボーナスくらい。つまり、職業とレベルアップ毎のステータスポイントの数字が物凄く大事になってくる。職業は世界が変わった時にランダムで再選択されてしまってもうどうしようもない。だから、皆レベルアップする前に神社で祈ったり、祈祷を受けたりしてるよ」

「そうなのか」


 ステータスポイントを手に入れられる手段が限られるのなら、レベルアップした時の数字の平均が高い人の方が優位に立てる。多分職業によるヒエラルキーが形成されてるんだろうな。


「亜理紗の職業はなんなんだ?」

「ふっふっふぅ。よくぞ聞いてくれました!! こぶしみかどって書いて拳帝けんていだよ!! 最上級職なの!!」


 気になったので尋ねてみると、亜理紗は嬉しそうにドヤ顔で言い放つ。


「へぇ~、亜理紗にぴったりな職業だな」

「えへへ、でしょ?」


 俺が褒めると、彼女はほんのり頬を朱色に染めてはにかむ。


 姪っ子が嬉しそうにしている姿はやっぱり可愛いな。


 思わず頬が綻ぶ。


「私は今レベルが十六。レベルアップで貰ったステータスポイントは全部で六十だったと思う」

「おお、かなり高いじゃないか」


 十五回レベルが上がって六十ポイントってことは平均四上がっているってことだ。亜理紗はかなり運が良いと思う。


「凄いでしょ。おじさんも十くらいはあると思う。確認してみて」

「分かった」


 俺は亜理紗の指示に従い、自分のステータスポイントを確認する。


「ん?」


 見間違いと思って目をこすってからもう一度確認してみるが、その数字は変わらなかった。


「どうしたの?」


 困惑していると、亜理紗が俺の顔を覗き込む。


「なんだか、ステータスポイントの数字がおかしくてな」

「どういうこと?」

「ステータスポイントが四十八ポイントあるんだ」

「はぁ!? それってホント!?」


 俺の答えを聞いた亜理紗は目を見開いて俺に詰め寄ってきた。


「ああ。俺も見間違いかと思ってなんども見返しているけど間違いない」

「ログはどうなってるの?」

「んーと、これか」


 俺は亜理紗の肩を押さえて落ち着かせ、ログが書いてあるウィンドウを見つけて遡ってみる。


「称号を三つ取った時にステータスポイントを十ポイントずつ取得しているらしい」

「ってことは残り十八ポイントはレベルアップで増えたってこと? それって全部六上がってるってことだよね。どういうこと!?」


 話を聞いた亜理紗は、喚きながら俺を睨みつける。


「そんなこと俺に言われてもなぁ……」

「三回連続で六貰えるなんておかしいんだからね!!」

「はははっ。そうなのか」


 亜理紗が責めるように詰め寄ってくる。しかし、俺はゲームに馴染みがなさすぎてその凄さを実感できない。多分亜理紗が大袈裟に言ってるに違いない。


「おじさん、次のレベルが上がるまでモンスター倒してきて!!」

「はいはい」


 亜理紗は威嚇する犬のように吠えるので、俺は急いでケムーシーを倒しまくってレベルを一つ上げて戻ってきた。


「また六……ランダムさん、どこに行ったの!? 戻ってきて!!」


 そして、俺のステータスポイントはまた六増えた。亜理紗は天に向かって叫んだ。


「……それで、おじさんは一体なんの職業なの?」


 少しの間放心していた亜理紗が、我に返って俺に尋ねる。


「サモナーだな」

「サモナーって最上級職じゃないのに……そもそも称号を三つも持ってるのもおかしいし……」

「まぁまぁ、いいじゃないか。サモナーってどんな職業なんだ?」


 答えを聞いた亜理紗が俯いてブツブツと呟き始めたので、俺は宥めて話題を戻した。


「良くないよ!! はぁ……でも、そうだね。サモナーはおじさんに向いていると思うよ」


 憤慨する亜理紗だが、大きくため息を吐いた後、表情を戻して説明を始める。


「そうなのか?」

「昔から犬猫好きだったでしょ?」

「まぁな」


 兄貴の家では犬と猫を数匹飼っている。俺は兄貴の家に遊びに行くたびに彼らと戯れるのを楽しみにしていた。


 ペットたちも俺に懐いていて、家の中に入ってくるとすぐに駆けて寄ってくるから可愛くて仕方がないんだよな。


「サモナーはゲームのファンタジー生物を呼び出して使役することができるんだよ」

「へぇ、現実に呼び出せるのか」


 レベルとモンスターだけでなく、そんなところも現実離れしてしまってたのか。でも、そんな不思議な生物を召喚できるなんて気になるな。


「うん。だからサモナーとか、モンスターを仲間にできるテイマー系の人は強さとは別の意味で人気があるよ」

「なるほどな」


 地球にいない生物を呼び出して使役したり、未知のモンスターを仲間にできるのなら注目の的だろうな。可愛い生物なら猶更だ。


 モフモフに人類が勝つことはできない。そういうことだな。


「おじさん、レベル五になったんだよね?」

「ああ。そうだな」

「召喚枠ができて、召喚っていうスキルを覚えてるんじゃない?」

「ん? おお、確かにあるな」


 彼女に言われてステータスを確認すると、言われた通りに召喚獣の枠が一枠できていて、スキルに召喚というスキルが表示されている。


「せっかくだから召喚してみようよ」

「おお、それはいいな」


 亜理紗に促され、俺はさっそく試してみることにした。

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