属性違い


 会話もなく重苦しい沈黙だけが支配する控室で待機しているとノックの音が響く。


「ユール、レラ殿今よろしいかしら」

「どうぞ」


 メイドが開けた扉からこちらに歩いてくるゴーレム姫。余りに足音や衣擦れの音がしないので一時期浮いているのだと思い込んでいた。今日も暗殺者顔負けの存在感なさである。

 そんな姫様の後ろからはまた見覚えのない女が着いてきている。


「新しいパーティメンバーを紹介しますわ。さぁ、フィリィ」

「ちょ、ちょりーっす…フィリィでぇ〜す…」


 フィリィと名乗った女は軽いノリで挨拶をしながら礼する。ただ、礼の所作、姿勢の良さからも明らかに本業騎士の所属だと思われるフィリィは己の発言に顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 い、言わされてる……!


「フィリィは見ての通り騎士です。私達に無いものを持っているので是非にとお願いして来ましたの」

「まぁ……、フィリィさん、どうぞよろしくお願いします」

「レラ。よろしく」


 私達に無いもの、と言われて思わず視線を顔から下げて胸元にやってしまいそうになったが僅かに残った理性と鉄壁の聖女ガードで堪えた。いやだってすっげぇんだもんフィリィの胸。


 


 語彙力が死んでしまうがあんな巨山を見たら男なら思わず山頂を見たくなるだろ!?明らかに胸元のボタンが悲鳴を上げている。そんなおっぱいで騎士なんて無理でしょ!?貧乳至上主義なところがあった聖女教会ではめったにお目にかかれない至宝にさすがの俺様も雄が出てしまった。だが俺様も聖女のプロ、秒速で落ち着きを取り戻す。

 まぁ確かに男の娘、ロリ、普通乳ときたらそら巨乳が欲しいわな!しかし巨乳枠として来たのは解るがその明らかに慣れてない妙に緩めなキャラ付けは一体……?

 そんな疑問の視線に気付いてか、姫様は粛々と説明してくれる。この姫様だと以心伝心というより読心だな。


「フィリィは男性を前にしてしまうと少々厳しく接してしまう癖がありますの。勇者様に対しても新兵の扱きと同じ態度を取りかねないと懸念していたので、いっそ振る舞いを変えるために形から試してみてはどうかと提案してみましたわ」

「素晴らしいお心掛けですわ」

「さ、さんきゅー」


 可哀想に……これはおそらく昨日の勇者召喚の歴史で姫が講義していた、昨今は高圧的、暴力的に見られがちな女性キャラの人気が低いという過去の傾向からキャラ変させられたんだろうな……。レラの売れ残り具合からしてかなり信憑性がある。かなり千年前は逆にキツめの性格の女が人気だった事を思えば時代さえ違えば妙なキャラ変をさせられることもなかっただろうに……。レラは時代に適応できないロートルだということを浮き彫りにさせた勇者女性指南に黙祷。


 一言挨拶をしたっきり興味なさそうにそっぽを向いたレラはそのままにフィリィと俺様と姫様で交流を深める。

 姫様との以心伝心アイコンタクトで察したが、見るからに腹芸ができなさそうなフィリィは勇者のハーレムメンバーの裏事情は告げられていないらしい。あくまで勇者の魔王封印の儀の戦力として連れてこられたと思っている。

 だったら不自然なキャラ変に疑問を抱け。


「フィリィ様は鎧から王国騎士団の方とお見受けしますが…」

「はっ!第四騎士団団長、フィリィ・オルテガであります」

「フィリィ」

「ふぃ、フィリィたんでぇ〜す。よろぴく…」


 酷いもの尊厳破壊を見た……。

 第四騎士団と言ったらアレだ、魔物討伐のエキスパートでこの国最高の暴力装置のはず。鬼のオルテガとかドラゴンスレイヤーとか呼ばれてる団長の姿がこれか……?

 あまりの残酷さに流石の俺様も声が出ないぜ。

 羞恥心のあまり鬼化しかけている。フィリィにこっそり沈静の聖魔法をかけたら俺様のカス聖力でもなんとか生えかけていた角を引っ込めることができた。勇者召喚前に憤死しそうなんだが。


「とはいえメリルローズ様、今は勇者様もいらっしゃいません。私達の前では楽にしていただいてもよろしいのではありませんか?」

「い、いえ、聖女様…過大なご配慮ありがたいのですが下手に意識の切り替えをする方が困難であるため日常から今後はギャル?らしく過ごしますと申し出たのは自分なのです」

「フィリィ……貴方の努力と献身はとても素晴らしいものです」


 だが言わせてもらいたい。

 無理すんな。


 いや、もちろんアングラな世界ではそういう需要があるのは俺様だって知ってるぜ。

 本来のフィリィは男を押しのけ、25歳という若さでありながらこの国で最強の名を冠する騎士。強いだけではなく、身分としても辺境伯たるオルテガ家の長女というのも相まって騎士団でも高嶺の花として君臨していたはず。そんなフィリィが己を殺して明らかに不似合いな男に媚びるための言葉遣いをさせられる……教会史にあった七代目大司教クッコロー・ヒメキㇲなら泣いて大喜び間違いなしだ。

 俺様やレラのせいでロリペドに偏っていた勇者パーティ(仮)のお色気要素を一手に担うにはこの真面目さは無理だろ……。

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