謁見の間


 ここ数年ですっかり慣れたふかふかのクッションに揺られながら辿り着いた王城。

 何度見ても金かかってんなぁとしか思えないが世界的には美しい城として有名らしい。

 王城に来るイコール厄介ごとの方程式が出来ている俺様からしたら来るだけでテンションが下がる逆パワースポットだ。いっそ流星でも落ちてこねぇかなぁ。

 ごちゃごちゃうるせぇ使者に適当な相槌をうちながら連れられたのは謁見の間。


 個室とかじゃなくて開幕謁見の間という時点でもう役満だ。帰りてぇ。

 だが俺様以外に招集されている面子的にどう考えても逃げることの許されない場だと一目でわかる。


「聖女ユール、参上いたしました」

「うむ」


 傅いてやった俺様に偉そうに頷いたのはこの国の馬鹿王。横に立っている王妃の操り人形と評判だが、操る側の王妃が鬼のように優秀なので一生操られててくれと全国民に願われている馬鹿王だ。

 そして横に無表情で立っているのが件の王妃。

 俺様が今まで生きて来た中でも最も敵に回したくない存在で、この女が居る限り何でも最終的にハイと答えるしかなくなる恐怖の象徴。この女のお陰でこの国が回っているので誰も逆らえない絶対的な権力の象徴だ。

 更に反対側でにこやかに微笑んで居るのはこの国の王女。

 見た目だけは俺様に匹敵するくらいには麗しく金髪碧眼ゆるふわウェーブのまさにお姫様といった容姿をしているが、中身は王妃にそっくりで国のためならする女だ。あまりのキマりっぷりに俺様は影でゴーレム王女と呼んでいる。


「先程、隣国のホロウスティアの千里眼の魔女から魔王復活の兆しアリとの伝令が届いた」


 ざわつく謁見の間に微動だにしない王妃と王女。

 ある程度聞かされていたので反応しなかったが、何も聞かされてなかったらこちらも動揺を隠せなかっただろう。


 魔王、それはおとぎ話の象徴にして災害の代名詞。

 完全に殺す事ができないせいで不定期に封印から復活しては被害を撒き散らすゴミ野郎。

 復活の予兆があった時点で異世界からの勇者召喚とパーティ選別が行われる。パーティの結成は輪番で担当していて今回はルルレカリアこの国が担当。

 魔王が完全に復活する前に再封印さえできれば被害は少ないので早めの対応を求められる。

 そして今回世界救済の象徴としてのパーティに聖女の俺様も選ばれちまったというわけだ。は~〜ー……やってらんね。


「聖女ユール、そなたには勇者パーティの一員として救世の旅に出てもらいたい。困難な旅になると思うが世界のためどうか引き受けて貰えないだろうか」

「世界のため、謹んでお受けいたします」

「おぉ、ありがとう。聖女ユールの信仰心は素晴らしい」


 こんだけの衆目の前で宣言させて逃さねーようにしてるくせになぁーにがお願いだ。こんなん命令と何も変わらんわ!

 しらけながらも聖女としてあるべき振る舞いを心がける。ったく舌打ちくらいさせろよ。


「勇者召喚の儀は明日執り行う。その際聖女ユールにも同席してもらいたい」

「はい」

「救世の旅は我が娘、メリルローズも魔術師として同行する。そなたも面識はあったと思うがこれからは旅を共にする仲間として新たな関係を築くことになる。短い時間になるが二人きりで親睦を深めると良い」

「聖女ユール、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」


 はぁー最悪。

 ゴーレム王女と二人で何話すんだよ。

 政治と法律についてでも語るのか?そんなん5秒で眠くなるぞ。顔だけは良いから眺めてる時間にしようにもどうせいつものように完璧な角度から微動だにしないんだろうと思うと多少ブスでも愛嬌のある娘でも愛でた方がマシだ。

 王女の案内を受けて移動しながらも救世の旅について考える。


 この救世の旅の最悪な所は報酬が完全後払いな所だ。先払いだったら最悪15になった瞬間逃げてやろうって思えるのに後払いだから最後まで行かないとタダ働きになる。

 しかも任期までに救世の旅が終わらなかったらかなりまずい。

 成長抑止の神器の使用限界があるし満期ということで契約完了で代行聖女引退したら、引き継いだ代行聖女に手柄を全て奪われるのだ。クソすぎる。

 そんな金と誠意が足りねぇ話になったら俺様は間違いなくブチギレるので、救世の旅を何とか任期の内に終わらせたい。

 だが結局は勇者次第だ。

 勇者が雑魚だったら救世の旅は長引くし、勇者が強ければ早く終わる。

 明日の勇者召喚で当たりを引けたら良いんだがなぁ。

 眼の前を歩いているのに衣擦れの音すらたてないバケモンの案内されるがまま、自室密室へ連れ込まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る