アンデッド 20
『探偵社バラウル』
そこはブラックベリーの甘酸っぱい香りに包まれた空間だった。
「エドワードそれって!!」
帰ってきてすぐにメアリーは香りに誘われたようだ
今朝から怒って部屋に引きこもっていたメアリーが自室からひょっこりと顔をだした。
慌てて出てきたのか普段つけているカモフラージュのメガネもつけていない。
オッドアイの瞳が興味津々に輝いていた。
「あぁ、ブラックベリーのパイだ。」
「ジャクから?」
「ジャックに店を聞いたんだけど残念ながら今の時期売ってなくて知り合いに作ってもらったんだ」
「ブラックベリーはこの辺りでは食べないからね。
でも私の地元ではこれ名産で、一年に一度はお祭りだって開かれるくらいポピュラーな食べ物だったの!」
「古里の味なんだな。」
「そうよ。」
ブラックベリーの香りのお陰か、すっかり機嫌の治ったメアリーは昨晩のことを忘れ目の前のパイに夢中になっていた
苦労して頼んだ甲斐があるというものだ
だが作ってもらったために時間はもう深夜
「今日は遅いから明日」
「なに、言ってるの?」
もう既に皿とフォークとお茶までも入れてメアリーは席につこうとしている
「いや、だってもう夜も遅いし」
こんな時間に食べたら翌日の胃にひびくに違いない。
朝から胸やけだなんて勘弁してほしい
「出来立てが一番おいしいに決まってるでしょ?」
当然食べるでしょう?
という表情をされ、機嫌を治すために作った手前逃げることは許されなかった
結局その日の夕食がベリーパイになってしまったのは言うまでもない。
そのことを後悔してデザートは夕食に出さないと固く心に決めたのはまた別の話だ。
数日後
バラウルのオープンに合わせてジャックが店を訪れた
囲炉裏の前にさっさと座り自宅のように座りくつろいでいる
「やぁ、メアリー」
そう何事もなかったように声をかけ、メアリーももう気にしていないようで何事もなかったかのような反応をした
しゃくだが、気にしていたのは俺だけだったということだ。
「今日は依頼料の支払いに来たんだ。」
先日の他人行儀な態度はどこかに消えてしまったらしい。
メアリーに接するようにフランクな態度で「やぁ」と親し気にジャックは俺に挨拶をした。
「先日の仮説通りでしたか?」
「あぁ。君が言っていたこと全て当たっていたよ。
君と話した後、腕時計の話から管理人を問い詰めたところ事件の晩に管理人はデリバリーの人間とその仲間に金を渡されたそうだ。
金を受け取り、犯人を見逃したと言っていたよ。
まさかデリバリーの男が犯人の仲間だったなんて思いもしなかったよ。
しかも、もし腕時計を抑えられなかったら証拠がなくて言い逃れられて終わりだったな。
まだ持っててくれて本当に良かったよ。」
「それで、肝心な墓地の方はどうでした?」
依頼の墓地の件ではなく、銀行強盗のことを心配するのかとジャックは笑った。
「許可も無事おりて、先日話していた墓地を全て掘り起こしてみたんだ。
そこから出たものにみんな息をのんださ。
なにか、聞かされていた僕でさえね。」
「やはり現金でしたか。」
俺の仮説は銀行強盗した金の隠し場所を墓地にしたというものだった。
それが正しければ墓地からは莫大な金が出てきたのであろう。
「現金だった。
それだけじゃない。控えていた番号と照合すると、銀行で保管されたものだと判明した。」
「じゃぁ今回の犯人とやはり同一犯でしたか。」
犯人も馬鹿なことをしたものだ。
もし、あの晩老婆など追いかけなかったらここまでの騒ぎにはならなかっただろう。
そして隠していた金が見つかることもなかっただろう。
だが、何かを隠すという行為は同時に恐怖をもたらすものだ。
やましい気持ちがあるからこそ、他人に知られてしまったときに感じる焦燥感は計り知れない。
「同一犯だろうな。
運がいいことに管理人が犯人たちの顔を覚えていたんだ。
お陰様で腕時計を返す代わりに犯人たちの外見的特徴を詳細に聞くことが出来たよ。
近いうちに銀行強盗の犯人と今回の犯人は捕まるだろうな。」
そう、今回の報告を済ませるとジャックは立ち上がり分厚い紙袋をコーヒーの隣においた。
「ちょっと色をつけさせてもらったよ。
エドワードさん、今後も仲良くしてくれると嬉しいな。」
「ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願い致します。」
後で見てみると手柄をもらったからといってジャックは予定より多くお金を置いて行った。
そして、封筒には手紙も入っており今度は酒を一緒に飲もうと書かれていた。
これが俺が初めて解決した依頼
そう思うと封筒のお金は入っていた金額より重みがあるように感じる。
そして想像以上に嬉しいものになったのは言うまでもない。
探偵社バラウル 【各章完結ver】月水金で更新中 万珠沙華 @manjyusyage_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます