アンデッド 19 番外編 その後のジャック ②

店のメモをエドワードに渡し、姿が消えるまで見送る

これから起こるだろうことに心が温かくなるそんな夜

もうエドワードが振り返ってもこちらが見えない

そのことを確認し、そこには見えない誰かに声をかけた。


「フラウ?いますか?」


人がいなくなった墓地に自分の声だけが寂しく響く

だが寂しくなんてない

愛しい彼女の存在を身近に感じているのだ


「もしかしなくとも目撃者の老婆は貴方の仕業ですね。」


返事はない

だが彼女が傍にいるのだとすぐに分かる。

しばらくすると女性の笑い声が聞こえてきた

どうやら見えないことをいいことに息をひそめていたようだ

その笑い声は愛おしく、感じていた存在を確かめられ顔を綻ばせた。


風がないというのに柳の木の枝は揺れる

そこに彼女がいるのだと手を伸ばす

すると、こぼれる光が薄っすらと女性の姿を映し出した

つかむと消えてしまいそうな危うい存在だが、確かにそこに彼女はいる。


「わかっちゃった?」


光だけの存在故に顔は見えない

だがはっきりとどういう表情をしているのかは分かってしまう


「なんでもう少し早く出てきてくれないんですか。

ここ数日出てきてくれなかったお陰で事件解決まで長引いてしまったじゃないですか。

犯人がもし逃げでもしたら…。」


クスクスと笑う声

彼女にはどうにも叶わない。

メアリーが近くにいると分かった今、当然すぐに行くのだと分かっていたようだ。


「だって、気になるじゃない。メアリーが気に入ったあのエドワードっていう探偵。

ヴァンヘルシングの一族だというのにメアリーと一緒に住むなんてありえない…いえ、面白すぎるわ。

げんに貴方だって珍しく声をあげて笑っていたじゃない?」


ジャックは決まづくなり数度咳払いをして自分の眼鏡をポケットにしまった。

この方が彼女の存在をしっかり見えるのだ


「だからってこんなことしなくても。」


「丁度ここのみんなに相談されてたのよ。

静かに暮したいのに何度も墓荒らしが来て休めないって。」


「えらいでしょう?」とでも言いたげに彼女は誇らしげに胸をはる

普通ならふざけるなと言われる行動だが、彼女が少女のようにいたずらめいていて可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだろうか。


「でもおばあさんに入るだなんてやりすぎですよ。

あの後貴方が入ったおばあさんは寝込んでしまったんですよ?

しかもその後直ぐに姿を消してしまうなんて…。

まったく、もう少し反省したらどうせすか?」


「あら…。でも彼女よくここにくる人だし、今回は私のおかげで旦那さんにも合えたからウィンウィンじゃなくて?」


「全く、貴方の理屈はいつも無茶苦茶なんですよ。」


「でも気になってたのは貴方も同じでしょう?

事件が起きてすぐにメアリーの所にいくなんて貴方にしては仕事を適当にしすぎじゃない?

私には単にメアリーに会いたかっただけで事件解決で焦っていたとは思えないわ。」


「大切な友人がまさかの宿敵の家にいるんですよ?焦りもするでしょう。」


ジャックがメアリーと出会ったのはもうずいぶん昔の事だった。

その時フラウと二人厄介な事件に巻き込まれていたジャックはぎりぎりのところでメアリーに助けられたのだ。

その後も縁はなにかと続き、滅多に深い付き合いなどしない二人が不思議なことにメアリーとは友人になるまで時間はかからなかった。


「どうだった?」


「まぁしばらくは様子見ですかね。」



「また面白いことがあったら依頼してあげなきゃね。」


もうすぐ月が雲に隠れてしまう

だが私も彼女も焦ることはなかった


「彼はオカルトとか信じていないようですし、受けてくれないかもしれませんよ。」


「ヴァンヘルシングなのに?しかも、ヴァンパイアと暮らしてて?」


「一族とは異なる思考のようです。

もしそうでなければ反対されようとメアリーをとめています。

それと昨日見てもらって分かったかと思うのですがメアリーがここにくるのはまだ難しそうですよ。」


「そんなぁ…。

昨日せっかく久しぶりに再会できたのに、ヴァンヘルシングがいて話せなかったわ…。

私は話したいことがいっぱいあるのよ!

それは分かってるでしょ?」


「そうでしょうが、残念でしたね。」


愛おしい相手の残念がる姿を見ながらジャックはフラウのいる方に手を伸ばした。

手を伸ばし、あと一歩で触れる事が出来る距離だというのに、その一歩をのばしてもジャックがフラウに触れることは出来なかった。

どれだけ手を伸ばしても素通りしてしまうのだ。

分かってはいるが、それでも伸ばしてしまう。


そんな悲しい手を固く握りしめ、月が隠れたのと同時にフラウを置いてジャックは再び自分の職務へと戻った。

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