アンデット 16
「なにが可笑しいのですか?」
怪訝な顔をしたままジャックは尋ねる。
「可笑しいですよ。
だってあの時計、先月ここで騒ぎがあった直後に発売されたばかりなんですよ?
彼のお父様が偶然先月亡くなられて、亡くなる直前にそんな高額なものを購入されたというなら考えられます。
ですが、そうなると病死にしろ事件にしろ自殺にしろ出来すぎてると思いませんか?」
「どなたかのプレゼントだったと答えなかった時点で圧倒的に自分で購入したものの可能性が高いということでしょうか?
となるとどこからか大金が入ったと?
ですがお父様の遺産で購入したものを遺品としている可能性も。」
確かにそれなら説明がつくが、おそらくは違うだろう。
「もちろんあります。
ですが、もしジャックさんのお父様が亡くなられて遺産が手に入った時、そのお金をすぐに散財するでしょうか?
例えば時計なんかに。
生活に必要だからすぐに使ったとかではなく、亡くなってすぐ嗜好品に遺産を使うとは私には到底思えないんですよ。」
ないとは言わない。
だが、そうであれば何故あの時慌てて隠した?
本当に遺産で購入したのなら他人に自慢したり亡くなった方を思って物思いに耽ってもいいはずだ。
「そうなるとプレゼントでも購入したものでないのであれば、極めて盗まれたものという可能性が高いということですか。」
「えぇ。それが遺産でなく犯人から貰った金である可能性もある以上、管理人が時計を始末してしまう前に一度話を聞いた方がいいと思ってお呼びしたんです。
私の勘違いであればいいのですが、証拠となりうるものを捨てられてしまった後ではどうしようもありませんから。
実は至急来てほしかったのは棺の件というよりこちらが本題だったんです。」
結局推理というには仮定ばかりで断定に至らない。
だがその疑問や仮定は、解決への何かのきっかけになるはずだ。
人脈や手段があればそれらを全て解決することも出来ただろう。
だが今の俺にはその仮定を裏付けるための手段が何もない。
こういう時に人脈があればと思ってしまうが人付き合いが苦手なのはどうにも出来ないのだ。
「何となく分かっていましたが、最初に話してくださっても良かったんじゃないでしょうか?」
「もし最初に話したところで信じていただけますか?」
「理由によります。」
「その理由から納得して欲しかったんです。
管理人自身が購入したものであれば金額も知っているでしょうし、もったいなくてとても始末なんてできないでしょうから幸い今日中であれば問題はありませんでしたし。
それにジャックさんが警察官を連れてくださったので管理人は逃げられませんし、そちらは急ぎではなかったので後回しにしました。」
「…。」
ジャックは深くため息をついた。
もし逃げられたらどうしていたんだと、遠目で警察官と話す管理人を見ているようだ。
「時計の件から運が良ければ犯人との関係や、犯人像がわかるかもしれません。」
「そうなれば助かりますね。
ですがそういうことになると結局のところ、今回墓地での騒ぎ、女性が見たものとは人間だったということになるんですね。」
墓地故の勘違いなのだ。
遺体を埋めている場所だから、その遺体が蘇ると連想してしまう。
そんな生を感じやすい場所故の誤解なのだ。
「疑いようもない事実ですよ。」
「管理人への聴取が終わり次第夕方には先程まわった墓地を掘り起こして確認します。
聴取の間は立ち会いは出来ませんが、こちらで待たれますか?」
「いえ、私は帰らないと。」
「見ていかれないのですか?」
キョトンとするジャック。
俺は今朝のメアリーの様子を思い返し苦笑いをした。
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