アンデッド 14

どう考えても怪しすぎる第一目撃者にジャックが興味を示すことはなかった。


確かに考えすぎかもしれない。

通い慣れた道だろうし、段差も少なく舗装もされている

日中に普通に歩くのであれば何の問題もないだろう

それが暗闇だとしても舗装された道から外れなければ何の問題もないはずだ。

第一目撃者は単に襲われた被害者で、疑う俺がおかしいのかもしれない。

だがどうしてもひっかかってしまう。


そんな考えを遮るようにジャックは別の疑問をなげかけた。


「ちょっと待ってください。

そもそもですよ?そもそも、大金を埋めるのには人手や手間そして時間がかかりますよね?

それも今見つかっているだけでも五か所に埋めたとすれば相当の労力です。

葬儀を偽装して棺の中にお札が入っているというのなら納得が出来ますが、空になったお墓を見る限り棺をいれた痕跡すらありません。

となると、一体どうやってそれだけの大金を運び入れ埋めたのでしょう?」


「確かに棺を使えば簡単で手っ取り早いとは思います。

ですが、一目を避けたい強盗には不向きだと思いまdaす。

ここに置く以上、墓地を購入する必要はありますが棺はそうではありません。

逆に出し入れが大変な棺は使わず購入した墓地に直接お金を入れていったのでしょう。」


「それに、先ほど掘り起こされる心配のない場所を選んだと言っていましたが、あえてここを選ばずとも山でも良かったんじゃないでしょうか?」


少し前に説明したが、墓地を隠し場所にした理由を未だにジャックは納得ができないようだ。


「そうですね。

山はよく使われる隠し場所ですが、いくつか難点もあるんです。」


「難点?」


「持ち主の意向で住宅地なんかになれば掘り起こされる危険性があるということ。

車の入れない山道に大金を持っていくのは相当な労力が必要になるということ。

そして、なにより山林にいくら目印や地図を作ったとしても正確な場所が分からなくなってしまう危険性があるという難点まであります。

山はものを隠すのに最も人気な場所で最も難解な場所だといえるでしょう。」


だが、それは逆に言うと車で入れない場所だからこそ見つかりにくいとも言える。

そして万が一、山のどこかに埋まっていると分かったとしても探すのに一苦労だということで見つかりにくい。

一番掘り起こされる確率が高いのは山の工事だが、そんな大々的な工事ともなれば工事前に事前に分かるし、事前に分かりさえすれば掘り起こされる前に場所を変更できる。

なによりいいのは一目につきにくいということだろう。

その点においては圧倒的に山が適していると断言できる。

だからこそ山は何かを隠すのに最も人気なのだろう。


「そういうことを考えると墓地は最適な場所なんです。

掘り起こされる危険性ですが少し前に言った通り、警備されている墓地のため夜中に悪戯で掘り起こされることはまずありえません。

万が一正式に掘り起こそうという事態になった場合ですが、先ほどジャックさんが懸念されたように面倒な手続きを経なければ掘り起こすことは困難な場所ということでまず殆どの人は避けるでしょう。

運搬に関しても適しています。

この墓地のすぐ傍を大きな道路が通っているということで墓地の近くまで荷運びができ、墓地に入ってからも舗装されている道ですから運搬も山に比べたらかなり容易でしょう。

なにより一番のメリットは墓地故にすぐに埋めた場所が分かるということです。」


「なるほど、区画に分かれているからこそ見つけやすいんですね。

運搬や立地については納得ですが、それでも日中は一目がありますし、夜間は管理人がいる以上こっそり訪れるというのは不可能だったはず。

悪戯に掘り起こせないということはそれだけ出入りが制限されるということですよね。」


「それはこの場からお金を出した時と同じです。

夜中に人力で運び入れたんです。

夜中であれば人はほとんどいませんし、見つかる危険もありません。

棺をいれるような車での出入りであればすぐに見つかってしまいそうですが、人力であればいかようにもできます。」


「ですが、この墓地は外から見えないように高い塀に覆われています。

例えリュックに入る程度の荷物だったとしてもこっそり上るのは不可能に近いと思うのですが。」


「正面突破です。」


「は?」ジャックは声を裏返し誤魔化すように咳をした。


「ですから、正面突破です。」


「唯一出入りできる正面には管理棟があるんですよ?そこには常駐している管理人がいますし、警備が見ている以上こっそり出入りするのは難しいんじゃないでしょうか?」


その疑問を待っていた。

何故目撃者の一人である管理人を見張るためにジャックに警察官を連れてきてもらったのか

これは最後の切り札にとってあったものだが、その理由をようやく説明できるようだ。


心待ちにしていた瞬間に興奮で脈が早くなり、心を落ち着かせるように俺は息を深く吸い込んだ。

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