アンデット 13

案内されたお墓を目の前にしたジャックは丸メガネのサングラスを外しまじまじと観察した。

墓標に書かれた名前や日付を見つめているのだろうか、お墓全体をしばらく見た後おもむろにお墓の土を手に取った。

土を手でこすり匂いをかぐジャック。

もしそこに誰かが眠っていたらジャックのとった行動は気味が悪い行為だが生憎そこには誰も埋まっていない。

それは確信に近かった。


「死者への冒涜だ」


小声だったが土を手にしたジャックから確かにそう聞こえた気がする。


「エドワードさん、ほかの場所も案内してください。」


先程までは見るつもりもない様子だったが、一通りじっくり見るとジャックはサングラスをかけなおし、そう言った。

その口調はどこか不機嫌なものだった。


案内する道のりもジャックは静かで先程までのような会話はなかった。

そうして、あえてこちらから話しかけることもできず黙ったまま次のお墓へと辿り着いた。


いつの間にか無線も切ってしまったようで無線から絶えず聞こえていた音声もない。

それは本当に静かな道のりだった。


気まずく思いながらもようやく次の墓に辿り着くと、ジャックはまた同じようにまじまじと観察した。


そしてため息をつき、また次の墓へ案内するよう言うのだ。


ようやく見つけた全ての墓へ案内し終えた頃には、すぐにでも帰りたいほど俺は疲労していた。

相変わらずの沈黙に耐えられなくなってきたのも理由の一つだ。


だが、ふとメアリーの今朝の不機嫌な顔が浮かぶ。

帰っても疲れるだけなのだ。


どちらにせよ疲労するのであれば、仕事を片付けたほうがマシだ。


「エドワードさん、ありがとうございます。」


疲労してたから気づかなかったのか、それとも気遣われたのか分からないが先程までの不機嫌なジャックはもういなかった。

あった頃ののほほんとした表情ではなく、相変わらず難しい表情はしているが幾分こちらとしても気が楽だ。


「あやしくありませんか?」


「確かにこれは調べる必要がありそうです。掘り起こすかどうかは上に許可をとる必要がありますし、普通なら難しい事ですが…まぁ問題はないでしょう。」


説き伏せる気なのか、それほど大きな問題なのかは分からない。

だが、ジャックにとって現状が好ましいものではないと言うことだけは確信をもって言える。


「墓石に掘られた名前が強盗の犯人とすると、もしかして目撃者の老婆が見た死人は。」


「おそらくお察しの通り昔の仲間でしょうね。

ペンネームとはいえ、彼の名前を利用してフェイクの墓を建てているんです。

親族なら本名を書くでしょうし、ファンだったらここにばかり集中してお墓を建てるのはおかしな話。

そうなると書籍化し、公開されたことを恨んでいる当時の仲間というのが一番可能性が高いと思います。」


「ですが、理由がありませんよ。悼むわけでもないのでしょう?空のお墓ばかりつくっても無意味でしょうに。」


「空じゃないとしたら?」


「盗んだ時期と墓石をたてた時期が違いますよね?まさかわざわざ運んだって言うんですか?」


「おそらく、そのまさかです。

それまでは各々が管理していたか別の場所に保管していたのでしょう。

ですが、普通の場所に隠し続けるのも時間の問題だったんでしょう。

自分たちの身の丈に合わない巨万の富を得た彼らはあまりの金額に使い道に困り、結局墓をたて各々に金を隠すことにしたのでしょうね。

ここであれば先程ジャックさんが言った通り普通なら絶対に掘り起こせない場所ですから隠すのにはもってこいです。」


「確かに。だから夜間に掘り起こす必要があったんですね。」


「はい。

目撃者のおばあさんが見たのは、おそらくは自分たちの金を取りに来た犯人たちなんでしょう。」


「土が他より柔らかかったのは、定期的に掘り起こしていたからですね。

運が悪いことにそれを見てしまったと。」


「えぇ。

隠した金を時々夜とりに来ては使っていたが、普段は夜あまりの暗さ故に人など訪れないこの墓地に運悪く女性がきてしまった。

そう仮定すると自分たちが金をとりに来たのだと知られてしまったと思った彼らが女性を殺そうと襲い掛かったことにも納得できます。

女性に関しては誰もいない墓地だからこそ死人と勘違いしてしまったと納得できます。

まぁ…。

私的に気になるのは犯人よりその女性がこの暗闇でどうやって逃げたかですけど。」


そう、墓石や強盗の犯人については分かるが杖を使っていた目撃者がいくら通い慣れた道だとしても目的地まで走って逃げることは可能なのだろうか?

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