アンデッド 11

当時の実際に起きた事件を元に書かれただろう、この物語。

物語は強盗の背景がメインの作品で、読者が一番待ち望んでいるだろう肝心要の窃盗方法や壮大なアクションは全く描かれていなかった。


作者はそういったシーンをあえて書かなかった。

いや書けなかったのだ。


「作者は実際に起きた事件の運転手だった可能性があります。」


「なぜそう思われたのでしょう?」


「まず、私が作者が関係者だと感じた理由についてお話します。

事件の犯人について一切の情報が一般公開されていないにも関わらず犯人像について知っていたという点です。

知っているのは警察の人間と事件の関係者、そして犯人だけです。

ちなみに私は、ここで探偵をする前に警察の協力者としてこの事件に関わっていました。」


「ですが、犯人だけでなく警察の人間と事件の関係者も知りえた情報ですよね?

ということは、作家が取材した可能性もあるんじゃないでしょうか?」


「ありえますが、おそらくそれはないでしょう。

まず、関係者ですが事件について知っている関係者の中でも犯行時刻の詳細や犯人の服装について知りえた人物は犯人に遭遇した人間だけです。ですが、肝心な全体の人数については不明です。

また、警察の人間である可能性ですが警察で予想されている人数より作中の人数が圧倒的に少ないことや組織による犯行として捜査をしている点でおそらくは違うでしょう。」


「人数がことなるのであれば、やはり事件をもとにしたフィクションではないでしょうか?」


「フィクションにしては出来すぎています。

小説に書かれた警備が手薄になる時間帯や場所は完璧ですし、犯行ルートを検証すると驚くことに警察で組織がかりでないと不可能だと思われていた犯行が少人数でも可能になるんです。

そして小説に書かれていた犯人たちの背景ですが、実際に当時の頭取はかなりあくどい手口でのし上がった人間で倒産した会社も実際にいくつもあったようです。」


「関係者がフィクションで書いた可能性がまだ残りますが、もし犯人グループの一員だとして何故運転手なんでしょうか?」


「小説の大半が犯人たちの背景についてですが、その中で主人公は犯行にあたって苦悩や葛藤をします。

犯行に反対であった主人公は仲間を説得し、犯行を妨害し、警察に忠告をする。

ですが全てが無駄に終わってしまうのです。

とうとう犯行当日、犯行は行われたものの作中には一切が書かれていません。

そしていきなり作品は犯行後の苦悩へとびます。

何度も警察へ自首しにいこうとするものの行けない苦悩が綴られるのです。

おそらくは警察内部にいる協力者の存在に気付いてしまったんでしょう。

私が、運転手だと感じた理由は二点です。

まず、主人公が何度も反対し説得や妨害をし続けていた点です。

一致団結していくなか最後まで強盗を渋った彼を共犯者が信用できるわけもありません。

犯行につれていくのはあまりに危険だし、かといって放置も出来ない故に運転手というわけです。」


「ちょ、ちょっと待ってください。

反対していたのなら運転手としておいて行っても逃げられてしまうんじゃないでしょうか?」


「逃げても問題はなかったのでしょう。

主人公を信用できなかった仲間が逃走ルートが一つとは考えにくい。おそらくは逃げられた際の別の車も用意してあったのでしょう。」


「それならば主人公を連れて行かなくても良かったんではないでしょうか?」


「そう思います。ですが、初めて会った気心のしれた仲間です。

簡単に切り離すことは難しいんじゃないでしょうか?

だから主人公も反対しながらも犯行に同行することとなったのでしょう。

私が運転手だと確信した理由のもう一つがここです。

小説には犯行の一切について描かれていなかった理由です。

おそらく作者は実際の強盗の詳細は知らず、共犯者たちが銀行から持ってきた札束しか目撃しなかった。

だから作品にもその詳細が描けなかったのだと思います。

逃走車を任された人物でない場合や、もしこれがフィクションであればそんなことをする必要はないんです。

読者が喜ぶ犯行シーンを中心に描き壮大なアクションや感情が揺さぶられるシーンを作品のメインにもってくると思いませんか?

この作品にはそれがないんです。」


もしこの作品が犯行がメインのものであればもっと人気が出ていただろう。

題材は良いし、作者の技量もある。

なのに内容がぱっとしない。

それが世間のこの本への評価だった。

もし実際に犯行現場にいたのならそんなミスはするわけがないし、フィクションならそれこそわざわざ抜く意味が分からない。


「この作品がノンフィクションで作者が逃走車の運転手だとしましょう。

警察に自首できなかった理由というのは」


「仲間か、仲間のほかに協力者がいてその人物が警察関係者だったのでしょう。

だから彼は自首することも許されず、結局警察には行くことも出来なかった。

これはあくまで私の予想ですが、

それでも誰かに伝えたかった彼は、自首する代わりに事件のことを書いたのでしょう。

自分たちにも強盗をするだけの理由があったんだと、世間に伝えるために事件を本にしたのだと私は思います。

そして何故か作者がこの作品の違和感に気づいてい欲しいとメッセージを送っている気さえするんです。」


これはあくまで願望なのかもしれない。

自分の関わった未解決の事件を解決できるかもしれない。

もし本当に犯行グループの一人ではないとしても関係者であれば糸口になるかもしれない。

そんな自己満足で作者が犯人の一人だと思っている可能性を自分でも否定できない。

実際はフィクションで全く事件とは関係ない可能性だってある。


ジャックはジッと俺の目をみて溜息をついた。

きっと可能性に過ぎないのだと分かってしまったのだろう。


「その作者は今はどうしているんでしょう。」


その言葉に驚いた。

あまりに突拍子もない話だったのにも関わらず続きを尋ねたのだ。

咳払いをして可能性に過ぎないという迷いを取っ払った。


「亡くなってますよ。この作品が出版されて直ぐのことでした。

『スケルトン』は彼の初めての作品にして遺作なんです。

もし『スケルトン』が真実だとすれば作者はきっとようやく自分の罪を告白出来て肩の荷が降りたんでしょうね。」


「ということは、彼が書籍で告発したことを仲間が知り彼の遺体を盗んだのが今回の事件ということでしょうか?」


「違うかと。

不思議なことにこの墓地には同じ『ジョン・ルーデンベルク』という名の墓が私が探しただけでも5つあります。

おそらくこれらは同じような目的で建てられたお墓でしょうね。

だから中身が彼の遺体だったとは考え難いかと。

いま掘り起こせば空かもしくは素敵なものが出てくるかもしれません。」


例え同名が5つもあったとして、それだけの理由でお墓を掘り起こすのは簡単ではない。

警察でそれなりの立場にあるジャックだから出来ることだろうが、可能性に過ぎない話を鵜呑みにして掘り起こしてくれるとも考えられない。

もう少し証拠があれば良いのだが、証拠といえる切り札はあと一つだけしか残っていなかった。

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