アンデッド 9

墓地を探し歩くこと15分、やはり『ジョン・ルーデンベルク』の墓は他にもあった。

きっとまだあるはずだが、全ての墓を見て回る前に予定より早く墓地に到着したジャックに声をかけられた。


「お待たせしました。」


「予定より早かったですね。」


時計を見ると電話では30分と言っていたが15分足らずしかたっていない。

あまりに早い対応に警察は凄く暇をしているのだろうか?それか事件がたまたまこの近くで起こっていたのだろうか?そんな失礼な事さえ思ってしまう。


「道路が空いていましたから。

ここは出入口が一つだけなので一応そこに二人立たせています。」


目の前のこの男はどうにも人の心を読んでいるように思える節がある。

そんな優秀すぎる目の前のメンタリストは怖いことに人の考えと会話してくるから、どうにも奇妙な感じの相手だ。

一方で一々説明しなくて済むというのはかなり気が楽ではあるのだが。


「ところで今日メアリーは?」


「置いてきてます。今日は朝から口も聞いてくれませんから。」


「そうですか。それは参りましたね。」


今日一日機嫌が悪いのは目の前のジャックのせいだ。

参ったなと頭をかいているが、「こうなることを当然分かっていただろう」と攻めたくなる。

だがその言葉を飲み込んで本題を話すことにした。


「お忙しいでしょうから早速。

本日の管理人が事件当日の管理人と同一人物だということはご存知でしょうか?」


「えぇ。知っていますよ。

一応関係者ということでお話しを聞いていますし。」


「まず連れてきていただいた方に管理人が帰らないよう引き留めていただきたいんです。」


「何故でしょうか?」


「今回の事件の犯人と関係がある可能性が高いためです。」


ジャックは半信半疑になりつつも無線で一緒に来た警察に連絡を入れた。


「犯人の目星もついたみたいですね。」


「えぇ。ついてはいますが証拠がまだ足りません。」


「足りないということはいくつかは見つかったんですね。足りない証拠ってなんですか?」


「犯人と証拠の前にまずこのお墓についてお話ししましょう。私の仮説が正しければ穴の開いた墓場には元々棺はなかったのだと思います。」


「どういうことです?」


「墓石があるから我々が当然棺があると思い込んでいただけなんですよ。

だから石棺を引きずった跡はなかったし、中身を持ち出すことも容易だった。」


警察のテープ越しにジャックは墓を覗き込んだ。


「確かにこのお墓は石棺を入れてから土をかける工程を省いて石碑をたてたとしても些かおかしいですね。石棺を入れる時にどうしてもロープが擦れた跡が残るでしょうから。

ですが墓石には名前まで彫られていましたし、もしそうだったら一体何のために。」


「墓石に彫られているその名前、『ジョン・ルーデンベルク』。聞き覚えはありませんか?」


「さぁ、私はありませんが。誰ですか?」


「実はこの名前、一年前に出版されたある本の作者なんです。」


「本ですか。」


普段本を読まないのだろう。

ジャックは関心がなさそうに目を逸らし、先ほどまで見ていた墓の中をもう一度覗いた。


「その本のタイトルが『スケルトン』なんです。

多種多様の意味がありますが、この場で連想できるのはアンデッドですね。

まさに今回の事件にピッタリです。」


「確かにこの墓石の方とアンデッドの繋がりは分かりましたが、それが事件となにか関係があるんでしょうか?」


簡潔にしてほしいという表情でジャックは自分がかけている眼鏡を拭いた。

ジャックがつけている無線から何かの事件の発報が続いているのだ。

当然そちらも気がかりなのだろう。

 

「関係は大いにあります。

実は本の内容ですが、タイトル通りのアンデッドの話を描いたオカルトな作品ではないんです。」


「どういう内容だったんですか?」


「ジャックさんは、10年前に5億もの大金が盗まれた事件、覚えていますか?」


「えぇ覚えていますよ。

当時警察でも大騒ぎでした。」


「その本には事件のことが書かれているんです。」


それを聞くとジャックは無線の相手にいくつか指示をし、鳴り続ける無線のボリュームをさげた。


「どういった内容なんでしょうか?」


「まず、タイトルにあるスケルトンとは事件の首謀者たちのことをさしています。

彼らはどこともなく現れ、5億を持ち出し跡形なく消えたので作者はそう名付けたんでしょう。

かつて話題の事件だったので、いい題材になったのでしょう。

ですが、私はこう思うのです。

その本の内容はあまりに真実味を帯び過ぎていると。」


「ノンフィクションだと?」


「一読者である私がそう感じるほどにこの小説はあまりに真実味を帯びています。

作品を読み進めると、もしかしたらこの作者は流行りの題材に飛びついたのではなく、告白文としてこの作品を発表したのではないかとさえ思えてくるんです。」


ジョン・ルーデンベルク作のスケルトンというタイトルの小説の内容はこうだった。

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