アンデッド 8
「素敵な時計ですね。贈り物ですか?」
そう聞くと、管理人は慌てて振り向いた。
そして先程まで嫌悪を示していた表情は急に青ざめていき、慌ててはめていた時計をはずした。
「これは父の…。亡くなった父の遺品です。」
「そうですか、お父様の。
お父様はいい趣味をお持ちだったんですね。
宜しければ見せていただいても?」
「誰にも触られたくないんです」
そうら言うと遺品だと言った時計を乱暴にポケットに押し込み、管理人室へ戻っていってしまった。
そんな管理人を目で追っていると、ふとずっと気になっていた墓石の『ジョン・ルーデンベルク』という名前をどこで聞いたか思い出した。
なんだ、そういうことだったか。
だが今のところは限りなく黒に近い灰色というべきだろう。
どちらにせよ管理人がなにか知っているのは間違いない。
そして、それはおそらく警察には言っていないだろう。
ポケットに手を突っ込み携帯電話を取り出した。
かけた場所は『ジャック・W・ウィリアム』
昨晩もらった名刺の裏側に手書きで書かれた番号だ。
先程までは忙しい中案内を頼むのも気が引けて電話しなかった。
だが調査に進展があるとするならば話が別だ。
それに急を要する。
今日探偵だと名乗ったことで、管理人が予想通りであれば警戒してこの場から姿を消してしまう可能性も十分にあるのだ。
管理人が帰ってしまった後では折角つかんだ糸口がなくなってしまうことだって十分ありえる話だ。
初めてかける相手のコール音ほど緊張するものはない。
「ウィリアムさんでしょうか?」
『えぇ。どちら様でしょうか?』
電話の先から昨晩の少し気取った声がした。
その声を聞くと昨晩のマイペースな性格のにやけ顔が頭に浮かんでしまい、一瞬よぶのをやめてしまおうかとも思いつつ、仕方ないと溜息をついて話し続けた。
「ヴァンヘルシングです。
昨晩の件で進展がありました。今から昨晩の墓地にこれますか?」
やはり忙しいのだろう。
電話の先からはサイレンの音や人のざわめきが聞こえる。
事件で外に出ている最中かもしれない。
『急ぎですか?』
「えぇ、至急来られた方がいいかと。」
職務中に無理を言っているのは十分承知だった。
だが早めに来た方がいいということにも違いなかった。
ジャックは少し考えこのまま少し待ってほしいと言い、通話口から離れ誰かと二三打ち合わせをしてこう答えた。
『分かりました。30分くらいでそちらに伺えるかと。』
「出来れば警官をあなた以外にあと二人くらいつれてきてください。」
『それは何故。』
「出入口にいてもらう必要があるので。逃走の可能性がありますから。」
『なるほど、連れて行きましょう。』
ジャックはまだなにも詳細を聞いていないというのに驚くほどすんなりと自分の頼みを聞いてくれ頼んだものの逆に驚いた。
電話を切り「変なやつ」と呟く。
ジャックが来る前に墓地を一回りしてみることにした。
予想が正しければあといくつか同じような墓石があるはずだ。
そしておそらく中身は…。
その仮説を確かめるべく『ジョン・ルーデンベルク』の墓石を探す。
仮説が正しければ同じ名前の墓石が何ヶ所もあるはずだ。
そして中身は…
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