アンデッド 7

翌日メアリーの機嫌は最悪だった。

とばっちりもいいところで、何を言っても無視されたのだ。


書店にいるころは、客として会うだけだから日々笑顔しか見たことがなかった。

だが当然ながらいつも笑顔のメアリーでも怒ることがある。


午前中は耐えたが、あまりに居心地が悪く午後には耐えられなくなった。

午後はメアリーをおいて昨日来た墓地に再び足を運ぶことにした。


そこは昨日の静けさが嘘であったかのように賑やかな場所だった。

近いとはいえ町中にあるこの墓地には今まで来たことがなかったが、ここは墓地ではあるが公園も兼用しているようだ。

殆どの利用者が公園として利用しているようで現在墓地にはほとんど人がいない。

公演もいたって普通の公園で、木陰で眠っている人や遠くでは大型犬がフリスビーを追いかけている。中には学校が近いせいか学校帰りの子供達も沢山いた。

とにかく驚くほど利用者が多い場所だった。


昨晩は見えにくかった墓地を囲う塀は、やはり人が登るのは難しそうだ。

ここさえ越えられれば、塀の外には大きな道路がいくつも通っており公園の中からでも車の音や近くの商業施設の音が聞こえてくるほど近くに道路や施設がある。

塀に囲まれているとはいえ、こんな所では死者も煩くて眠っていられないなとさえ思えてきた。


公園と墓地をようやく一周し終え、昨晩と同じ場所で足を止めた。

昨晩とまるで違う場所ではあったが、昨晩と変わらず墓地には穴が空いており、その場所を囲うように警察のテープが立ち入り禁止だと張り巡らされていた。


昨晩はランプの光頼みで見ていて定かではなかったが、太陽の光の下で確認してもそこには棺を引きずった痕跡はない。

おかしくないか?

送葬した墓であれば棺桶を下に下ろすために引きずった跡が残るはずだ。

だが痕跡が消された跡もなく、そもそも引きずった形跡さえない。


そして不思議なことはもうひとつ。

本来棺を入れる場所であるその場所には、棺とは別の何かを引きずった跡が薄っすらとまだ残っているのだ。


「なんだ?」


直径30cm程の何かを引きずった跡だった。

跡は通路側まで続いている。

おそらく何かを引きずってレンガで出来た通路に出したと思われる。


「そこ危ないので立ち入らないでください!」


警察のテープ近くで考え込んでいたら、管理人用のキャップを被った男が声をかけてきた。


日中の管理人は昨晩とは異なる人物だった。

昨晩見た管理人は確かもっと年配で体格もいい人だった。

今目の前に立つ管理人は日勤だからか日焼けした筋肉質の人だった。年齢も20は若いだろう。


事件があった墓の周辺に人影があったから慌ててきたようだ。

仕事でもあまり人に声をかけたくなかったという様子だった。


野次馬に思われただろうか。

こんなことならジャックと来ればよかったと後悔した。

だが、ジャックの役職を考えると受け持つ事件は一つとは限らない。

昨晩も忙しそうにしていたから現場を見たいから案内してほしいと呼び出すのは気が引けた。

それに来てくれる保証もない。


さてどう説明しようか。

自分が探偵だと知られてしまうと警戒されて情報が聞き出しにくくなるかもしれない。

だがそれでも野次馬ならまだしも不審者に思われている現状を考えると致し方ない。


「依頼を受けて事件のことを調べています。

探偵のエドワード・ヴァンヘルシングと申します。何かこちらで気付かれたことはありますか?」


「またですか、ありませんよそんなもん。

何度聞かれたところで私は何もしりませんし、お話することはありません。」


何度も聞かれたことを聞かれたのだろう。

怪訝な表情を示し最後に「調査でいらっしゃっているなら別に構いません」と付け足し、これ以上巻き込まれたくないという様子で直ぐに引き返していった。

もしかしたら、事件当日不幸にもここの管理をしていた人間なのかもしれない。


「最後に一つだけよろしいでしょうか?」


そう声をかけると管理人は振り向きもせず歩みを止めた。


「事件当日こちらにいたのはもしかして」


「私ですよ。もういいでしょうか?失礼します。」


聞かれる前に一刻も早く立ち去りたいと歩み出した管理人。

だが管理人室に戻ろうとした管理人の軍手から覗いた真新しい時計は、あまりにも業務と不釣り合いで再度引き留めるように尋ねた。


「素敵な時計ですね。贈り物ですか?」

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