アンデッド 6

到着するまで嫌だ嫌だとあれだけ言い続けていたのに墓場に到着するとメアリーはあれだけ嫌がっていたのが不思議なくらい静かになっていた。


「確かに棺がないな。」


聞いていた通り墓石は斜めに動かされている。

墓石の下にあるはずの棺は跡形もなくすっぽりなくなっていて、墓の中は痕跡もなく空になっていた。

人が落ちないように一応警察のテープが一体に張られてはいるが、もし夜間老婆のように偶然来た人間が居ればこの暗さではこのテープを見落とすかもしれない。

そう心配になるほど墓の周辺には照明などによる明りは一つもなかった。


手元にランプがなければ何も見えなかっただろう。

ランプがあったからこそここまでたどりつけたが、老婆はパニックになりながら明りも杖もなくどうやって管理人の場所までたどり着いたのだろうか?

穴がなかったとしてもこれだけ墓石があるのだ

どこかの墓跡躓いてもおかしくはない。

墓石が空だということよりよっぽどその老婆の方がおかしな行動をしているように感じる。


そして不自然な点はそれだけではない。

墓石を引きずった跡はあるというのに、墓石の中から棺を引きずった痕跡が何処にもない。

穴の中を照らしてみても棺がすれた跡さえない。

そもそも棺がそこには存在していなかったかのようだ。


でもそうすると、この墓は一体なんだろうか?

そう思い持っていたランプでずらされた墓石を照らした。

『ジョン・ルーデンベルク 1938年没』

状況は奇妙だが墓石はいたって他の墓石と変わらないようだ。


ただ不思議なことにエドワードはこの名前に聞き覚えがあった。

1938年に亡くなった人間の名前に聞き覚えがあるだなんて可笑しな話だが確かに最近どこかでこの名前を目にした覚えがあるのだ。


「そろそろ出ましょうか。」


名前を思い出そうと考え込んでいるのを見てジャックが俺の肩を軽く叩き声をかけた。

もう少しここで考えたいと言おうとしたが、ジャックに指さされた先を見てそのセリフは言わずに終わってしまった。


「彼女がもう限界のようなので。」


メアリーを見ると、亡霊のように真っ青になり立ち尽くしていた。

ホラーが苦手なのか墓が怖いのか死者が怖いのかは分からない。

だが、あれだけこの場に来ることを嫌がっていたのは本当に苦手だったからなのだと分かった。


「ちょっと意地悪してしまいましたかね。

実は彼女、悪戯でお墓に閉じ込められたことがあるんですよ。

もうそろそろ克服したと思っていたんですけど、トラウマってなかなか容易には治せないものですね。」


そのトラウマを知りながらあえてここに連れてくるジャックを心の中で『ドSメガネかよ』と冷ややかな目で見た。


「いやだな、そんな目で見ないで下さいよ。

私はたんに早く克服してもらいたいんです。

今回も少なからずいい治療になったと思いますよ。多少は荒療治でしたけど…」


ジャックは悪びれる様子もなかった。

治療とは言うが、墓場を克服する必要性はないんじゃないかと思う。

メアリーのためだと笑うジャックと呆然としているメアリーを見てため息がでた。


仕方なく呆然と立ち尽くすメアリーの手を引いて墓地から出ることとなった。

その後、帰宅するまで何度かメアリーに声をかけたが反応はなかった。


後ろで、大人しく手を引かれながら墓地から出ていくメアリーを見てジャックは笑みを浮かべていた。


「やはり無理にでも連れてきて正解だったな。」


「何か言いましたか?」


ジャックが後ろで何かいったように聞こえて振り返ったが、ジャックはなんでもないと首を横にふった。

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