アンデッド 4

「メアリーですよ。安心してください。」


俺の心を読んだかのようにジャックは微笑んだ。

そしてすぐに目を反らし目の前にある囲炉裏をジロジロと興味深そうに眺めた。


「メアリーから聞いていたものの、実際にお会いするまでは信じられませんでした。

貴方は相当お人よしのようですね。ご家族は」


「ジャックの依頼はこの前の墓泥棒のことだってさ。受けたら?」


一向に依頼内容を話さず俺を探るジャックの目の前にコーヒーを置き、本題を話すようにとメアリーは口を挟んだ。


ジャックの話は凄く長い。

そして面倒なことに全て聞かないと進まない。

そのことをメアリーはよく分かっていた。


ジャックは自分の気になったことを全て聞かないと相手が何度本題に戻そうが関係なく強制的に話を戻されてしまう。

もし不運にもジャックの関心事が多い日に当たってしまえば下手をすれば日をまたいで話し続る。

今日はまさにそんな日だった。

そんなジャックの性格を分かっていたメアリーが話の途中で口を挟んだというわけだ。


話を遮られたジャックは残念そうに溜息をつきメアリーが出したコーヒーを口に運ぶ。

一方の俺はは墓泥棒が依頼だと聞き今度はまともな依頼かもしれないとジャケットを羽織り身なりを整えた。


以前は探偵の業務ですらないヴァンパイア退治の依頼だったのだ。

その依頼はあまりに不可解で解決に至らず、まだ『バラウル』にはまだ解決出来た依頼は何一つとしてないという状況だった。


「詳細を伺いましょうか。」


ジャックの横の席に座り、メアリーが入れたコーヒーを飲み干した。

いつしかコーヒーを入れるのもメアリーの担当になっている。

今まで日によって味が変わってしまっていた自分がいれるものと何故か違う。

何故か味が変わることなく安定においしいコーヒーなのだ。


「私は警察で働いていまして、先日新聞でも騒がれた墓泥棒の一件を捜査しています。」


警察と聞くと背が伸びてしまうのは仕方のないことだ。

そんな俺に構わずジャックは先日起こった墓泥棒の詳細を話した。


ジャックが胸ポケットから出した記事は記憶に新しい記事だった。

『墓場で老人が死体に襲われた』

非現実的で分かりやすく注目されそうな、そんな事件だった。

当然記事には面白おかしく怪奇現象として取り上げられ、俺はすっかり読む気が失せてしまったのは言うまでもない。


すっかり話題がなくなったから解決したと思いきや、どうやら世間が忘れただけだった。


「この事件捜査中だったんですね。」


と漏らすとジャックは眼鏡をもちあげため息をついた。


「話題ばかりあって目撃情報も信憑性に欠けるものばかり。最近になってようやく落ち着いてきてまともに捜査できるようになったんです。」


「それはそれは。」


世間で恐れられる警察はいずこ。

そう言いたくなるほど民衆に悩まされていたようだ


「そのことはもういいんです。

ようやく事件の捜査ができるようになった以上、早期解決が好ましい。」


「ジャックの手柄になるもんね!」


「そう、って違いますよ。

第一発見者のお婆さんが事件の真相をかなり気にされているんです。」


「言い方は悪いですが今回の一件、記事にはなりましたが貴方がでるほど大きな事件ではない。違いますか?」


「えぇ、そうです。単に個人的に気になる事件だからこそ未だ私は捜査していますが、組織としては被害届は出ていますが現状進展もありません。」


「そして捜査も終了になりそうだと?」


「ご名答です。今月末で捜査が打ち切りになります。」


「遅れまして」と言いながらジャックは名刺を差し出した。

驚くことに本当にお偉い役職だった。

普通なら指示はだすが事件を直接調べることはないだろう役職ではないか。


「私が事件のことについて知っても大丈夫なんでしょうか?」


「私の協力者としてご尽力いただければ構いません。お受けいただけますか?」


考えるまでもなくYesだ

だが即答するのは仕事がないのだと言うようであまりにプライドがなさすぎる。

俺はメアリーを見た

きっと気づかないだろうと思っていたがメアリーはすぐに気づき頷き返す


「お受けしましょう」


差し出されたジャックの手を握る

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