アンデッド 3

ドワード。」


やっと気づいたのかと飽きれたメアリーが見知らぬ人を紹介した


「はい。よろしくって、誰だよ!雑すぎるだろ」


「だからジャックだって。」


囲炉裏の前に座っている男はくくっと堪えきれず笑いだした

それでもまだ堪えているようで肩を振るわせながら立ち上がりエドワードにお辞儀をした。


2mはあるだろう長身、短く切られた黒髪に赤い目をした男だった。

ジャックは屋内だというのに丸眼鏡のサングラスをかけていた。

センスのいい服装をしているが、ジメジメした暑さが続いているというのにハイネックのうえにジャケットを羽織るという季節外れの服装をしていた。

どうみてもおかしな人間だ。


『バラウル』にはおかしな人間しかあつまらないのだろうかとこめかみを抑えた。

求めているのはよくある浮気調査とか野良猫探しとかそんな簡単なものだというのにどんどん理想の探偵とかけはなれていっている。


「お初にお目にかかります。

ジャック・W・ウィリアムです。

どうか気軽にジャックと呼んでください。」


「始めまして。

エドワード・ヴァンヘルシングです。

先ほどは失礼を致しました。

ご依頼でしょうか?」


「ヴァンヘルシング…。そうですか貴方が。」


名前を聞き再び笑い出すジャック

初対面だというのに失礼じゃないか?と俺は眉間に皺を寄せた。


『ヴァンヘルシング』

それは有名なヴァンパイア狩りの名前だ。

おそらくその名前は空想主義ではない人間にも広く知れ渡っているだろう。

忌々しいことにその名前が俺には刻まれている。


祖先はヴァンパイア狩りを行っていた。

俺も例外なく一族の伝統を守るため子供の頃はヴァンパイア狩りとしての知識や訓練をしてきた。

だがあんなものはまやかしなのだ。

見えない敵を追い続ける一族は精神を病んでいたに違いないしヴァンパイアだと言われ殺された人たちを思うと人殺しを正当化された一族に嫌悪しかない。


常識が分からない子供ならともかく大人に名前でからかわれ、目の前の常識のない男に背を向けたくなった。


「妙なラストネームですがお気遣いなく。

それで依頼の内容は。」


「あぁ失礼。

メアリーの古い知り合いだったので、ついつい寛いでしまいました。

いや、ここは居心地のいい。

だれも来ないのがもったいないですね。」


本題を聞くも答える気がないらしい。

囲炉裏や壁時計をまじまじと見ながら本当に落ち着く場所だとしみじみとジャックは繰り返した。

古くからジャックを知っているメアリーでさえも驚いた。

普段何に関しても無関心なジャックがこんなにも褒めるだなんて珍しいことだった。


メアリーも『バラウル』に来た当初ここの内装、特に時計の数には驚いた。

壁時計というものは普通置いても一つで、二つ三つあるとインテリアだと言っても違和感を感じる。

だがここまで沢山壁に飾られるとそれはもう時計という存在よりもはやオブジェのようで逆に好感がもてたのだ。

ホコリをはらうのには苦労するが、気に入っている内装が感激されメアリーは誇らしかった。


屋内が洋風であれば違和感があると思う。

だがバラウルは木造づくりでかつ何故か囲炉裏という竈が入口から直ぐの所に置いてあり、一つ一つなら変だが揃うとそれらが不思議と調和して落ち着く店内を演出していた。


自慢の内装を褒められることは嬉しい。

かなりこだわり造りあげた自慢の内装なのだ。

俺は先程までのむっとした表情を和らげ顔をほころばせた。

そして急に機嫌がなおったことが少し恥ずかしくて、二三度咳払いをして要件をもう一度たずねた。


「どうも。ジャックさんはメアリーに会いにこられたのですか?」


「否、今日は依頼にきたんです。

すっかり癒されてしまって、大変失礼致しました。

エドワードさんは、なにやら先日突拍子のない依頼を引き受けられたと聞きまして。

それならば私も是非お助け願えないかと思った次第です。」


「ちなみにどなたに?」


メアリーに聞いたのだろうか?

だとしたら依頼が目の前の古い知り合いを殺すことだということを、この男は知っているのだろうか?

いや違うな。

メアリーから聞いていたらもっと違う反応をするだろう。


もしかしたら、あの事件の依頼人かもしれない。

そうだとしたら依頼人の居場所を教えて欲しいがそれも違うだろう。


かなり良い身なりを見ると大使と知り合いなのかもしれない。

だがお堅い大使があんな自分の頭を疑われるような事件を口外するとも思えない。


となると…

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