第38話 関わりとお願い
「こんな所で、奇遇ですね」
妖芽が微笑み。聞いてくる。
「ああ、ちょっと。いやまあ、言っておいた方がいいか。ゴブリンの出てくる裂け目がこの辺りにあるはずなんだ」
そう言うと、二人の表情が変わり、周りを見回す。
「あいつら、居ませんけど?」
「そうなんだよ。そら、どっちだ?」
「こちらです」
そう言って、歩き始める。
ぞろぞろと、ついていく。
高校のすぐ脇。
「あー揺らぎが見える」
手を突き出し、触れる。そこを中心に、波紋が広がる。
中に首を突っ込むと、見たことのある集落跡。
顔を引き抜き、みんなに説明する。
「すでに、潰した集落だ。これじゃあ。懸賞金はもらえない」
「そんな。バス代まで使ったのに」
安田が落ち込む。
そう言っていると、妖芽達が首を突っ込んでいる。外から見ると、なかなかシュールな絵面。
二人を掴んで引っこ抜き、説明する。
「首を突っ込んでいて、不意に閉じると首が切れるぞ」
「「げっ」」
二人とも、自分の首を手で触り確認する。
「帰るか」
そう言いながら、裂け目を閉じる。
「今、裂け目。閉じたのか?」
悠翔が聞いてくる。
「ああ。よく分かったな。なんとなく覚えた」
そう答えると、また高校生二人が、消えたのを確認しているのか、ぶんぶんと手を振っている。
「ヲタ芸みたいだな」
思わず、口に出してしまったら、聞こえたようだ。
動きが止まる。
何も無かったように、こちらに向き直る。
「あの改っち。連絡先交換して」
狂華がスマホを出してくる。それを見て、妖芽がつい地を出してしまう。
「あっこら狂華。それはずりーだろ。あたし方が先だろうが。ああっ」
思わず、二人を見てしまう。
それに気がつき、二人の動きが止まる。
「あら? 狂華ったら、はしたないわね」
ホホホと言う感じで、妖芽が口元に手を当てるが、目が笑っていないし眉間にしわが寄っているし。怖い。
その様子を感じたのか、妖芽から狂華に、神速の肘打ちが放たれる。
すっと、手を差し入れ、止める。
「やっぱすげぇー」
そう言って、止めたのに気がついた狂華が、飛びついて来ようとして、ビタンと透明な壁にぶつかり、ずり落ちていく。
「あれ、以外と痛いのよね」
しみじみと、万結が語る。
妖芽が、ノックをするように確認していると、電撃が走る。
「ぴぃ」
そう言って、手がひっこむ。
「そら、やり過ぎ」
そう言いながら、シールド解除する。
狂華に、治療と浄化をかける。
「なんすか、あれ?」
「単なる、物理シールドだ」
そして、鼻の具合を見ていると、顔が近付いてこようとする。
おもわず、手の平で押し返す。
「なんでぇ。チュウくらい。いいじゃ無いですか」
「なんで、そうなる」
「あたいらの裸を見たんだし」
「そりゃ見たが」
「ほら。だから。王子様」
まあそこで、突っ込みが入るよな。
「裸を見たって、どういうこと?」
万結がお怒りモード。
「こいつらと、あと二人。魔王の城にいたんだが、ゴブリンの体液に、酔っていたんだ。それで、思いっきりレズっていた。助けただけで、何もしていないよ」
「あーそうか」
万結もゴブリンにやられると、どうなるかは結構見ているからな。
「でも見たのは、確かでしょ」
「不可抗力だ」
「そんな、難しいことを言っても駄目」
「それに、俺には、万結が居るしな」
そう言って、万結の方を向く。紹介されて嬉しかったのか、鼻の穴が広がっている。
「それじゃあ、こいつが彼女」
そう言って二人が睨む。
「こら、人の彼女を睨むな」
「そいつが、彼女なら、そっちの人は何? あっち側で、あたいらの世話をしていた人にそっくりなんすが。髪と目の色は違うけど」
「あー困ったな。誰にも言うなよ。エレメンタル。こっちで言う精霊だ」
「「精霊」」
「すげえ。向こうで拾ったんすか?」
狂華がハイテンションで話している間、妖芽は考えていた。
これは、思った以上かもしれない。
この人と、結婚。いえ結婚せずとも、愛人でもなって、うちの家業にちょっと手助けしてもらえれば、あの鬱陶しい奴らを片付けられる。
そしたら、お父様も元気になられるかもしれない。
「あの助けてもらって、さらにこんなことを言うのは、心苦しいのですが、モンスターに汚された体ですが、差し出します。話を聞いてください」
「「はっ?」」
おもわず、狂華とハモってしまった。
少し考える。高校生の相談。攫われたことで、いじめでもあるのか?
「話にもよるが、場所を変えよう」
狂華達に案内され、なじみの喫茶店に移動する。だが。
「これ、喫茶店か?」
地下に降りる。怪しい階段。
看板には、スナック喫茶と書いてある。
「昔うちに居た人がやっている店で、大丈夫です」
「おう。やってるか?」
そう言って、ドアを開けると、妖芽はずかずかと入って行く。
奥から出てきたのは、頬に傷のある。百九十センチメートルはありそうな大男。
「あっこりゃ。お嬢さん。いつも、ありがとうございやす」
表情は無く、真顔で嬉しそうに対応する。何故だろう尻尾が見える。
「場所借りるよ」
「へい」
当然のように、奥にあるボックス席に移動する。
それは良いが、俺たちを品定めするような目が気になる。
よく見れば、左手の親指と人差し指が無い。
この子の親父さんて何者? 関わって良いのか?
のっそりと、その男がやってくる。
そして静かに、口を開く。
「ご注文は?」
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