第37話 さりげない暴露

 そして、おなじみの警察署。

 この前の部屋とは違う。


「誘拐されたのは、事実なのよねぇ」

「ええ。まあそうですが、今となっては別に良いですよ。沙羅。奥村さんに頼まれて、実行したのは、そらおまえだろ」

「そうです」

「だそうなので、誘拐方法は、空間魔法。現在の法律で何とかなります?」

 そう言うと、ケバさが増した森下巡査部長さんが悩み出す。


「まあ、今現在。あなたの行方不明は、届けが出ているけれど、奥村沙羅に対する、被害届も告訴も出ていないから、起訴云々はないけど」

「ないけど。なんです?」

「つまらないじゃない」

 それを聞いて、一同固まる。万結は、話そっちのけで、そらをずっと睨んでいるけど。


「まあそれなら、失踪届けの取り下げをお願いします」

「それも友人からの証言だけで、正式には出ていないし、捜索願で出したはずよね。『特異行方不明者』扱い。本人が目の前にいるし、問題はなさそうね。でもそのかわり、情報を頂戴。異世界の。お手柄になりそうな話しは、カモーンよ」

「そう言われても、特にないですけどね。ああ魔王を自称する人間がいるみたいですよ。女の子4人。牢に閉じ込めていました。ご飯が、コンビニ弁当だったので、こっちと行き来しているはずです」


 それを聞いて、一人。やっぱり、犯人は改だったのか。

 城を移築しようか? そんなことを考えていた。


「魔王ねえ。調書に書いて、上へあげとくわ。他には、あなた、そのドレス良いわね」

 そう言って、目を付けたのは、そらの服。手が伸びてきて触る。

「シルクみたい。素材何?」

 そらがこっちを見てくる。


「教えてあげて」

「はい。これはアラクネや大蜘蛛の糸です。頼んで、少し細めに出して貰いました」

 そのとき、力で強引に脅し、普通出せない量を搾り取られて、アラクネや大蜘蛛は死にかかったが、エレメンタルとしては、そんなことは知ったこっちゃない。


「アラクネというのは、モンスターかしら? 蜘蛛はこちらでも、素材研究で有名だけど。丈夫なの?」

「少々の魔法では効きません。奴ら、向こうでも、ある程度上位のようですから」

 そらが、補足情報を出してくる。

「ありがとう。これも、情報としてあげておくわ。じゃあまあ。そういう事でいいわよ」


 結局。午後からも、授業に出られなかった。



 後日、参考程度のつもりで出した資料が、騒動の原因になるが、この時誰も予想していなかった。


 後で、改はそらについて、つっこまっれなくって良かったと安堵していたし、万結も魔王もそれどころではなかった。



「じゃあ諦めて、お小遣い稼ぎに行こう」

 安田が、やつれてくぼんだ目で宣言する。


「じゃあ行くか」

 道中で、安田になんでそんなに金がないのかを聞くと、理花が色々と貪欲で、エッチ用の道具に金が掛かるらしい。「楽しいから良いけどね」そう言って笑う顔が、ちょっと不気味だった。

 

「じゃあ、そら教えて」

「ここからなら、あちらになります」

 そう言って、南の方を指さす。

 例の地図を見て、確認すると、やはりこの前からの時計回り。


「ここって、すぐ近くに高校があるなあ。やばくないか?」

 俺がそう言うと、工藤と木下が満面の笑みになる。


「行こう。早く行って、助けなきゃ」

 そう言って、あわて出す。


 こいつら、どっちを期待しているかだな。まあ良い。


 電車とは、方向が違うのでバスに乗り移動する。

 そらが、不思議そうにバス内部を見ている。

「これは、魔道具ですか?」

「いや機械。ガソリンだったり、軽油だったり、電気だったり。この車両は、ガソリン車。燃料を燃やして動いている」

「ありがとうございます」

 そう言って、さらに車内を見回す。そして床の一点で視線が止まる。


「なるほど。理解いたしました」

「そうか」

 これで異世界側に、バスが運行されることだろう。


「ねえ。改」

 万結が、そでを引っ張る。

「どうした?」

 内心ビクビクしながら聞き返す。


「この人、結局何?」

「だから、こっちで言う精霊」

「それは分かったけど、どう見ても、改がご主人様だよね」

「あーうん」

 その時、俺の目は、盛大に泳いでいただろう。


「精霊って、肉体がある物なの?」

「それがさ、出会った時はなかったけれど、名前を付けたら体が出来た」

「何それ?」

「俺も、よくわかんない」

「そうなんだ。体。全く同じ?」

「そうだな」

 万結の目が光る。


「見たんだ」

「いやほら、受肉したときとか、服を着ていなかったし」

「ほ~う」

 万結の目が、完全に怪訝そうに変わる。


「この近くです」

 そらから、報告が入る。

「分かった」

 降車ボタンを押す。


「この近くだってさ」

「「「了解」」」

 工藤と木下が、うずうずしているのが分かる。


『停車します』

 アナウンスが流れて、前に移動。

 お金を払い、ぞろぞろと降りる。

 降りても周囲は、そんなに騒動が起こっている感じはない。


「なんか、平和だな」

「そうだな。普段なら、ゴブリン達が走り回っているはずだけど」


 キョロキョロと、周りを見回す。

「改。こちらです」

 さっき言っていた、高校の方へ向かう。


 だが、何も起こっていない。


 予想に反して、別の事が起こった。

「改さんだぁ」

 振り返ると、派手な感じの二人が、手を振りながらやってくる。


 高校の制服だが、おっそろしくミニになっている。

 まあ誰か分かったので、返事をする。

「化粧をしているので分からなかったが。無事に帰れたか?」

「ありがとうございました」

 そう。現れたのは、河合妖芽と下野狂華。

 絶賛、猫をかぶって登場。


 魔王様パニック。

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