第36話 見つかった

「おひさ。心配をかけたか?」


 昼前の学食。

 いつものメンバーが集まって、顔を突き合わせている。

 今後どのようにするかを、相談していた。ロープで異世界側への裂け目を固定出来ないかとか。


 ただ、最近は政府機関も同様の試みをしており、救出が出来た後。色々試していた。警察や自衛隊が出来た亀裂に対し何とか固定しようと考え、チタン製のプレートで、トンネルを作り。差し込んでみたりしたが、すっぱりと切れたり潰れたり。その時により症状が違い。苦労していた。


「改!!」

 そう言って、誰とは言わない。万結が、テーブルを乗り越え飛んでくる。

 受け止めるつもりで、手を広げるが。手前で見えない壁にぶち当たり、万結は床に落下する。


「そら。気持ちはありがたいが、大丈夫だ」

 壁を改が強制解除して、鼻血を垂らす万結を、抱きおこす。

 痛みかうれしさか、どっちの涙か分からないが、涙と鼻血でとんでもない事になっている。

 椅子に座らせ、小鼻を押さえる。


「大丈夫か?」

 万結にそう聞く。だが、その返事はなく、俺の顔に手が添えられる。

「本物よね」

 そう言って、抱きつかれる。


「じんばい。じたのぉ」

 そう言って、おいおい泣き始める。


 きっと俺の右肩、ひどいことになっている気がする。

 涙は良いが、鼻血はまだ、止まっていないだろう。


「改。しかし、どうやって帰ってきたんだ。それにその女は、電車のえん罪野郎じゃ?」

 悠翔が気がついたようだ。


「ああ。基本データはそうみたいだが、彼女は違う。このブルーの髪の毛は、そら。エレメンタルって言っているから、精霊だな」

「「「精霊」」」

「そら。ここにいるのは、皆友人だ。攻撃をするな」

「分かりました。その引っ付いている。変なのもそうですか?」

「そうだ。彼女は歩坂万結。恋人だ。おまえ達ふうに言えば、番だな」

 その瞬間。空気が張り詰め。少し気圧が上がったようだ。耳が痛い。


「こら。おさえろ」

「はっ。すみません」

 今度は気圧が下がり、耳抜きをする。


 万結はまだグズグズいっているが、少し落ち着いたようだ。

 もう一度、椅子に座らせる。


 どべどベで化粧も流れ、鼻血もまだ止まっていない。

 小鼻を押さえながら、ハンカチで、顔を拭う。


 その中で、約1名焦っていた。

 エレメンタルだと、どうしてそんなもの。


 あっ、と言うことは、城から女の子を逃がしたのは改なのか? いやいや、エレメンタルを従えたといって、断言は出来ない。

 ゴブリン達は、施してある結界で入れないか? やっぱり早急に監視カメラを設置しよう。

 ああ。金がない。ベッドや、寝具まで盗られていたんだ。


 まあ今は、隠蔽を最大で効かせないと、ばれると面倒だ。

 魔王君は、仲間の一人だった。

 世界に混乱を起こした元凶。しらっと、大学生をしていた。


「それで、改。どうやって帰ってきたんだ?」

 悠翔が聞いてくる。


「ああ、それが、新しい裂け目を見つけて、じっくり見たら、なんだか理解できた。そら達に力を貰ったせいかもしれないが」

「裂け目をじっくり見た?」

 工藤が反応する。

「なんか卑猥ね」

 薬研がぼそっと、つぶやく。


「あんなもの、向こうの景色が揺らぐぐらいしか、見えないけどな」

 工藤と木下が頷き合っている。

「そうだよ、何かが通るとき、波紋が広がる感じだけど」

 安田が妙な手の動きをする。両手を細かく振動させているのは、波紋なのか?

 それは良いが、安田随分やつれているな。大丈夫なのか?


「安田。少し見ないうちに、やつれていないか?」

「ああこれは、幸せ太り、じゃないな逆か、幸せやつれ?」

「聞いたことないな」

「ああ。こいつ研究者だろ。色々と研究熱心でな」

 そういって、薬研を指さす。

「そうなんだ」

 皆の視線が集まり、薬研があたふたする。

 だが今の一瞬に、安田の脇腹へ、薬研の肘がめり込んだのを見た。


「まあ仲が良いのは、良い事だ。さて、治療。それと浄化」

 魔法が使えるのを、忘れていた。

 向こうでは、治療はキュラティオとか、浄化はピュリフィケイションとかいうが、俺の日本語でもイメージが出来れば発動できる。


 浄化したせいで、万結が完全にすっぴんになる。

「ごめん浄化したら、すっぴんになった」

 鼻血も止まり、顔も綺麗になった。


「げっうそ」

「嘘じゃない」

「これで何でも装備できる。じゃなくて、私の鞄を取って」

 見回し、鞄を取ってくる。


「ちょっと前で立って、ガードしておいて」

 そういって、化粧を始める。


「じゃあ、これから改が居たら、裂け目が分かるんだ。一狩り行こうぜ」

 工藤達が騒ぎ出す。

「そら、開いている亀裂。分かるか?」

「はい。この星の上で、200程度あります」

「近くでは?」

「一つあります」

「ありがとう。分かる様だ」

 そらの頭をなでる。えへえへと、顔が崩れる。最近エレメンタルの中で、俺に頭をなでられるのが、最高の誉れらしい。


 その様子を、見る目が? 万結まだ化粧中だが、薬研が睨み、悠翔は魂が抜けた能面のような顔になっている。工藤と木下がうらやましそうなのは分かるが、安田まで指をくわえて見ている。ああそれで薬研が睨んでいるのか?


「まあ授業は出ないとな。いい加減出席が厳しい」

「そりゃそうだな、痴漢から以降。まともに出られてないよな」

 皆が、同情の目を向ける。

「じゃあ。ハントは、授業が終わってからの話にしよう」


 だが、世界は俺に、授業を受けさせる気が、ないようだ。

「あ~ら。見つけちゃった。ぼくぅ。どうして、こっちにいるのぉ」

 制服が、コスプレ風に短いスカートに替わっている。

 ヤバイお姉さん。シャツの胸元も開き、下着が見えている。


「あっ、警察。手続きしなきゃ」

 悠翔が叫ぶ。

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